2024年11月08日

あの“同期”はなぜ飲み会に参加しないのか-Z世代のアルコールに対するスタンスについて考える

基礎研REPORT(冊子版)11月号[vol.332]

生活研究部 研究員 廣瀬 涼

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※ 本レポートは2024年9月24日発行の基礎研レポート「あの“同期”はなぜ飲み会に参加しないのか-Z世代のアルコールに対するスタンスについて考える」を要約したものです。
 

1―職場での飲み会が嫌い!!

株式会社東京商工リサーチが行った「2024年お花見、歓迎会・懇親会に関するアンケート調査」によると、2024年の「お花見、歓迎会・懇親会」の開催率は29.1%であった。コロナ禍前(2019年:51.8%)と比較すると22.7ポイント下回り、前年(2023年:27.9%)からは1.2ポイントの増加にとどまった。コロナ禍であった2022年は5.3%まで減少したため、当時と比較すれば大幅に増加傾向にあるものの、コロナ禍で浸透した生活様式の変化が定着し、会社や部署単位での飲み会が積極的に開催される雰囲気ではないのかもしれない。
[図表1]「お花見」「歓迎会・懇親会」開催率推移
現在、我々の多くがコロナ禍当時の制限を忘れて、家族や友達と食事をしたり、飲み会を楽しんでいるわけだが、なぜ会社での飲み会開催の水準は、コロナ禍前ほど回復しないのだろうか。前述した通り、コロナ禍に開催されなかったことで惰性的に開催が見送られているという見方もできるだろうが、そもそも若者に限らず、それ以前の世代においても会社での飲み会に対して否定的な意見をもっている層が少なくないということが大きな要因であろう。

株式会社R&Gが行った「職場の飲み会に関する意識調査」によれば「気を遣うから」「仕事とプライベートを分けたい」「話がつまらない・合わない」などを理由に、73.6%が職場の飲み会は行きたくないと回答している。一方で、気を遣っておもしろくない飲み会にお金や時間をかけるのは無駄と感じつつも、飲み会に参加しない事で生じる負の影響(出世に影響する・上司に嫌われる)などを考慮して、しぶしぶ参加しているのが実態であろう。株式会社識学の調査では、職場での飲み会参加について「強制参加」が5.3%、「任意だが強制に近い」が36.3%と、“参加せざるを得ない空気”がある企業があるのも実情だ。

コロナ過での生活様式が浸透したことで、就業後のプライベートの時間を大切にしたり、在宅勤務が可能になり、子育てと両立しやすくなったりと、時間を自身の“ために”充てることができるようになり、益々仕事とプライベートの境目が明確になっていく中で、わざわざ仕事の後に顔を合わせるのではなく、昼休憩を活用してランチ会などを開きコミュニケーションをとる職場も増えてきている。昼休憩中ではあるものの、就業時間内で済むという点や、お酒を強要されることがない点、参加者が節度を持っている点、飲み会に比べて費用が掛からないという点、スケジュールの調整が飲み会を開催するよりかは融通が利く点などが好まれている理由だ。

また、若者に限らず、飲み会がなくても特段不都合がなかったという経験をしてしまったため、わざわざそれを復活させる必要はないと考えるのが、飲み会に対して消極的な層の本音だろう。もし、満足いく給与をもらえていなかったり、やりがいのある(やりたい)仕事でなければ、ほとんどの消費者にとって、労働は消費(生活)するために、やりたくないけれどもしなくてはいけない事というネガティブな対象であるだろうし、それに対して自分の時間やお金を削るくらいなら、その嫌な労働をするためのモチベーションとなり、自身を満たすようなことにリソース(時間やお金)を割くのが合理的だろう。それ故に会社での人間関係は淡白なモノとなっていく。

2―夜だから「飲む」という慣習からの「解放」

一方で、現代社会においては、あえて酒を飲まないライフスタイルを選ぶソバ―キュリアス、飲みたい人は飲めばいいし、飲めない人はムリしなくてもよいというスマートドリンク(スマドリ)など、酒の消費に対する多様性が浸透しつつある。特に若者においては20年程前と比較すると20代、30代男女で飲酒習慣が低下しており、昨今言われている「若者のアルコール離れ」の様相を見て取れる。

これは、若者のナイトタイムアクティビティのスタンスにも影響を与えているようだ。SHIBUYA109 lab.が行った「Z世代のナイトタイムエコノミーに関する意識調査」では、出かける時間帯の意識について聞いているが、夜や深夜は「初対面やまだ浅い仲の相手と出かける時間」ではなく、「既に仲が良い相手と出かける時間」としての意識が強く、何か新しい出会いや仲を深めるよりも、気のおけない仲間と過ごす時間として活用していることがわかる。

また、同調査では、夜の外出におけるアルコールとの関りについても聞いているが、「まだお酒の得意不得意が分からない相手には“飲みに行こう”より“ごはん行こう”と誘うことが多い」が65.9%、「夜の時間帯のお出かけ・遊びをする場合でもお酒を飲まないことがある」が63.3%、「お酒のペースや注文、お店選びなどはお酒が飲めない人に合わせている」が59.6%と、飲酒が必須でないことや、お酒を飲まない人もいることが前提であることが伺える。1980年以降、飲みニケーションが円滑な人間関係を構築するための機会として重宝されてきたが、Z世代においては、酒そのものがコミュニケーションの“フック”になってはいないと言えるだろう。

BIGLOBEが行った「若年層の飲酒に関する意識調査」によれば特に20~24歳のZ世代においては、飲酒のスタンスに対して「特別な時のみお酒を飲みたい」が34.8%と最も高くなっている。また、飲酒へのイメージについては、それ以前の世代と比較して「盛り上がる」「特別感が出る」が高くなっている。
[図表2]飲酒へのイメージ(複数回答)
飲酒の特別感や非日常性など、消費者の飲酒に対する考え方の変化から、最近ではノンアルコール/ローアルコール専門のバーも存在している。「お酒は飲めないけれど、バーには行きたい」あるいは「お酒はあえて飲まないけれど、バーには行きたい」という消費者のために、お酒よりむしろバーという舞台性=特別感・非日常性を提供することに特化している。また、アルコールを飲む人を敢えて排除するわけではなく、アルコール入りのカクテル“も”提供している。同様に夜カフェなどでも、コーヒーや紅茶だけではなくアルコール“も”提供していることが一般的だ。前述したZ世代の調査やメインで酒が提供されるわけではないバーが市場に受け入れられていることからもわかる通り、飲酒は個々の「選択」であるべきなのだ。

3―飲酒も、飲酒が伴う場に行くことも「選択」の時代へ

飲酒することが強要されることなく自身で選択することができるからこそ、酒が提供されるような場所に足を運ぶというコト自体も強要ではなく「選択」対象としてのフェーズに移行しているのかもしれない。確かに上司や同僚は毎日顔を合わせる仲間であることには違いないが、同じ目的をもってたまたま集まった集団に過ぎず、自身で選んだ人間関係ではない。親密な仲間内でですら酒を飲むことが必然でないのならば、会社という組織に対するプライオリティが低下していると言われている中で、そこで生まれる上司や同僚という淡白な人間関係のために飲酒をせざるを得ないという「選択」をしなくてはいけない事自体が苦痛になるだろう。

SHIBUYA109 lab.が行った別の調査である「Z世代の仕事に関する意識調査」においては、上司を含めた会社の飲み会は好きかどうかについて「好き」が33.4%、「苦手」が
66.7%となる一方で、同期や同世代の同僚との会社の飲み会が好きかについては「好き」が50.8%、「苦手」が49.1%と、上司ほどは嫌ではないが、半数近くが同期や同僚と飲む事に対して前向きではないことがわかる。

これを読んでいるZ世代の読者の中にも、同期から飲み会や仕事の後一緒に出掛けることを断られたという経験がある人もいるかもしれない。同世代だからといって、そこまで親しくない相手と仕事の後に会ったり、酒の場で話すというコト自体のハードルは下がるわけではない。同世代同士ですらそうならば、会社の飲み会や上司の誘いなら益々うれしいモノではないだろう。

個人のプライオリティが優先され、時間を無駄にしたくないと考える生活者が一定数いるからこそ、彼らとコミュニケーションをとるには、十分な配慮をする必要があり、彼らの選択を尊重してあげることが重要なのである。実際に前述した株式会社R&Gの調査では、行きたくなる飲み会の要素として「費用負担が少ない」や「短時間・一次会のみの開催」が上位に挙がっている。

「会社の飲み会で会費徴収されたけど、こっちがその分時給欲しいくらいだ」といった投稿がSNSで散見される。奢ってやるから相手はうれしいはず、という認識を捨て、相手はこの飲み会のためにプライベートの時間を割いている、別に会社での人間関係に親密性を求めていない、と認識することで、飲みニケーションの形も変化していくだろう。併せて、全ての若者がお酒を飲まないわけではなく、飲酒を好む若者がいることや会社での飲み会が好きな若者もいることも留意したい。本レポートの内容はあくまでも傾向であり、自身や自身の身の回りにいる若者には当てはまらない事もあるだろう。ただ、相手の人となりがわかるまで 飲酒の場に誘ったり、酒を勧めるといった事を配慮することも、飲酒に対する多様性が追求される現代社会において大事なコミュニケーション手法なのかもしれない。皆が皆自分と同じように酒や飲み会が好きという訳ではない、と念頭に置くことでより良い人間関係(煙たがられない)構築につながるのではないかと思う次第だ。

(2024年11月08日「基礎研マンスリー」)

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生活研究部   研究員

廣瀬 涼 (ひろせ りょう)

研究・専門分野
消費文化論、若者マーケティング、サブカルチャー

経歴
  • 【経歴】
    2019年 大学院博士課程を経て、
         ニッセイ基礎研究所入社

    ・令和6年度 東京都生活文化スポーツ局都民安全推進部若年支援課広報関連審査委員

    【加入団体等】
    ・経済社会学会
    ・コンテンツ文化史学会
    ・余暇ツーリズム学会
    ・コンテンツ教育学会
    ・総合観光学会

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