2024年11月06日

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2024年8月に、世界的に株価が暴落した。日経平均株価は7月31日の39,101円82銭から8月5日の31,458円42銭まで7,643円4銭(▲19.5%)下落した。特に5日の下落幅4,451円28銭は過去最大となった。その後、株価は急回復したものの、市場はまだ完全回復したとは言えない。2024年に入り、NISA拡充等で貯蓄から投資への流れが加速していたが、その矢先、この世界的な株価急落で慌てて売る投資家も多かったようだ。しかし、個人の資産形成では、株価急落時に慌てて損切りせずに長期保有した方が良い。本稿では、長期投資の有効性と投資対象選択の重要性について考えたい。
 
具体的には、10年および20年という投資期間で、代表的な市場インデックス(NOMURA-BPI総合、FTSE世界国債インデックス、TOPIX、MSCIコクサイ、S&P 500)に連動する国内債券型、外国債券型、国内株式型、外国株式型、米国株式型に毎月2万円積立投資した場合の最終時価残高(以下:最終時価)を比較してみる。1989年10月末に投資を開始するケースから、1か月ずつ投資開始時期をずらし、過去のデータを用いて試算を行った。
 
図表1:積立投資の最終時価残高
まず、投資期間10年と20年での投資元本が2倍違うので、最終時価をそのまま比較することは出来ない。代わりに最終時価の平均値が元本に対して何倍になるかで比較してみる(図表1:括弧内の数字)。投資期間10年より、投資期間20年の最終時価の平均値での倍率が大きい。例えば、米国株式型へ積立投資をした結果を確認してみよう。投資期間10年だと、最終時価の平均値が投資元本の1.79倍になるが、投資期間20年だと、最終時価の平均値は投資元本の2.81倍にもなる。他の投資対象も、投資期間が長ければ長いほど、投資の長期的な時価増加、毎年の配当や利子の再投資で、最終時価が大きくなっていることがわかる。

加えて、長期投資のメリットを最大限に生かすためには、投資対象の選択が極めて重要であり、投資対象によって最終時価が大きく違ってくる。投資期間20年の場合、米国株式型、外国株式型へ投資した最終時価の最小値は574万円と596万円で、国内債券型へ投資した最終時価の最大値である647万円とほぼ同程度である。一方で、最終時価の最大値は米国株式型で3,000万円、外国株式型で2,325万円とかなり大きくなっている。あくまでも過去データの分析結果ではあるが、長期的な資産形成では、短期的な価格変動はあまり気にせず、期待リターンが大きいことを重視した方が良い結果となる可能性が高いという結論が導かれる。
 
次に、各投資対象の最終時価が元本割れするケースの割合についても見てみよう(図表2)。投資期間10年では、すべての投資対象で元本割れするケースがある。しかし、投資期間20年では、国内株式型を除いて元本割れするケースはなくなる。残りの投資期間が短く、10年未満等の場合は元本割れの可能性があるので、バランス型運用や個人向け国債等を組み合わせた方が良いが、20年以上あれば、元本割れの可能性は小さいので、期待リターンを重視した方が良い。また、国内株式は2013年以降、アベノミクスによって外国株式並みの上昇となっているため、アベノミクス以前とは投資特性が異なると思われる。従って、今後国内株式への投資判断においては、今回の試算結果はそのまま使うべきではないことに注意する必要がある。
 
尚、長期的に毎月積立投資するメリットは、買付タイミングを時間分散でき、平均購入単価を相対的に安価にできることである。また、市場インデックスへの投資のメリットは、数多くの銘柄が組み入れられており、分散効果が期待できることである。
 
以上をまとめると、個人の長期的資産形成では、適切な投資対象を選択することがとても重要である。短期的な価格変動リスクを過度に恐れずに、十分に銘柄分散されていて、中長期的に高いリターンが期待できる外国株式などの市場インデックス型商品へ投資することが良いと思われる。過去のデータから、元本割れの可能性も長期になればなるほど減少していく。また、株価が急落しても回復が期待できるため、損切りすることなく長期積立を続けるのが得策と考える。一方、価格変動リスクを気にして、低い期待リターンの投資対象を選択すると、長期投資では、最終時価の差は回復できないほど拡大する可能性が高い。いずれにせよ、長期投資は有効なので、適切な投資対象を慎重に選び、早めに投資を開始することが良いと筆者は考える。
 
図表2:積立投資で最終時価残高が元本割れするケースの割合

(2024年11月06日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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金融研究部   研究員

熊 紫云 (ゆう しうん)

研究・専門分野
資産運用・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     2020年   日本生命保険相互会社入社
     2021年4月 ニッセイ基礎研究所へ

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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