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- 大学卒女性の働き方別生涯賃金の推計(令和5年調査より)-正社員で2人出産・育休・時短で2億円超、男性並で3億円超
2024年10月23日
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1――はじめに~「女性の活躍」推進から10年余、期待される女性の経済力のさらなる向上
政府が2013年に成長戦略として「女性の活躍」を掲げてから10年余りが経過した。その間、女性の管理職等の比率(図表1)、男女の賃金格差(図表2)、男性の育児休業取得率(図表3)など、女性の職業生活に関わる各種指標は、いずれも大きく改善している。当初課題とされていた「М字カーブ(出産や子育てによる離職)」も、ほぼ解消され、現在では台形を描くようになっている(図表4)。
働く女性が増えた結果、現在では共働き世帯が専業主婦世帯の2.5倍に達し(総務省「労働力調査」)、夫婦ともに高収入のパワーカップルも様々な消費領域で注目されるようになっている。今後とも「女性の活躍」が進むことで、女性の経済力が日本経済に与える影響は増していくだろう。
こうした背景を踏まえて、本稿では、大学卒業後の女性(2023年の大学進学率54.5%:文部科学省「学校基本調査」)について、雇用形態や育児休業制度・時間短縮勤務制度の利用状況の違いを考慮しつつ、統計の最新値を用いて生涯賃金を推計する。
働く女性が増えた結果、現在では共働き世帯が専業主婦世帯の2.5倍に達し(総務省「労働力調査」)、夫婦ともに高収入のパワーカップルも様々な消費領域で注目されるようになっている。今後とも「女性の活躍」が進むことで、女性の経済力が日本経済に与える影響は増していくだろう。
こうした背景を踏まえて、本稿では、大学卒業後の女性(2023年の大学進学率54.5%:文部科学省「学校基本調査」)について、雇用形態や育児休業制度・時間短縮勤務制度の利用状況の違いを考慮しつつ、統計の最新値を用いて生涯賃金を推計する。
2――近年の女性の就労状況~「女性の活躍」推進効果で非正規雇用率低下、出産後の就業継続率上昇
1|雇用形態の状況~「女性の活躍」推進効果で若いほど非正規雇用率低下、高年齢層の就業も活発化
まず、生涯賃金推計の前提として、近年の女性の就労状況について考察する。「М字カーブ」問題では、出産や育児を理由に一旦離職し、再びパートなどの非正規雇用で働く女性が多いことが課題とされてきた。現在でも、年齢とともに非正規雇用者の割合は高まり、女性全体では雇用者における非正規雇用者の割合は過半数を占めている(図表5)。35~44歳までは、正規雇用者が非正規雇用者を上回るものの、45~54歳では逆転し、非正規雇用者の割合が半数を超えてさらに増加していく。
推移を見ると、2013年頃から54歳以下では、若いほど非正規雇用者の割合が低下しており、2023年では2012年と比べて、15~24歳(在学中除く)や25~34歳で約1割、低下している(図表6)。一方、65歳以上では非正規雇用者の割合が約1割上昇しているが、これは、正規雇用者数は大きくは変わらない一方で(2012年32万人→2023年41万人)、非正規雇用者数が大幅に増加したためである(同80万人→同206万人)。つまり、「女性の活躍」が掲げられて以降、若年層を中心に正規雇用で働く女性が増加し、高年齢層の就業も活発化している。
まず、生涯賃金推計の前提として、近年の女性の就労状況について考察する。「М字カーブ」問題では、出産や育児を理由に一旦離職し、再びパートなどの非正規雇用で働く女性が多いことが課題とされてきた。現在でも、年齢とともに非正規雇用者の割合は高まり、女性全体では雇用者における非正規雇用者の割合は過半数を占めている(図表5)。35~44歳までは、正規雇用者が非正規雇用者を上回るものの、45~54歳では逆転し、非正規雇用者の割合が半数を超えてさらに増加していく。
推移を見ると、2013年頃から54歳以下では、若いほど非正規雇用者の割合が低下しており、2023年では2012年と比べて、15~24歳(在学中除く)や25~34歳で約1割、低下している(図表6)。一方、65歳以上では非正規雇用者の割合が約1割上昇しているが、これは、正規雇用者数は大きくは変わらない一方で(2012年32万人→2023年41万人)、非正規雇用者数が大幅に増加したためである(同80万人→同206万人)。つまり、「女性の活躍」が掲げられて以降、若年層を中心に正規雇用で働く女性が増加し、高年齢層の就業も活発化している。
2|結婚・出産前後の就業継続状況~就業継続率は上昇傾向、第1子出産後は69.5%、正規は83.4%
前節で見たように、М字カーブがほぼ解消している背景には、結婚や出産前後の妻の就業継続率の上昇がある(図表7)。子の出生年が2010~2014年と2015~2019年を比べると、第1子出産前後の妻の就業率は57.7%から69.5%(+11.8%pt)へ、育休を利用して就業継続した割合は43.0%から55.1%(+12.1%pt)へ上昇している。就業継続者の中で育休を利用した割合も74.5%から79.3%(+4.8%pt)へと上昇している。また、第1子出産前後と比べて、第2子出産前後(2015~2019年では87.1%で第1子出産前後の就業継続率より+17.6%pt)や第3子出産前後(同89.5%、同+20.0%pt)の就業継続率は大きく上昇している。つまり、女性の就業継続には、第1子出産前後に大きな壁が存在することが見て取れる。
前節で見たように、М字カーブがほぼ解消している背景には、結婚や出産前後の妻の就業継続率の上昇がある(図表7)。子の出生年が2010~2014年と2015~2019年を比べると、第1子出産前後の妻の就業率は57.7%から69.5%(+11.8%pt)へ、育休を利用して就業継続した割合は43.0%から55.1%(+12.1%pt)へ上昇している。就業継続者の中で育休を利用した割合も74.5%から79.3%(+4.8%pt)へと上昇している。また、第1子出産前後と比べて、第2子出産前後(2015~2019年では87.1%で第1子出産前後の就業継続率より+17.6%pt)や第3子出産前後(同89.5%、同+20.0%pt)の就業継続率は大きく上昇している。つまり、女性の就業継続には、第1子出産前後に大きな壁が存在することが見て取れる。
また、就業状況別に見ると、もともと自営業主・家族従業者・内職では就業継続率が高水準にあり(出生年が2015~2019年の第1子出産前後の就業継続率は91.3%)、最近では正規の職員(同83.4%)やパート・派遣(同40.3%)などの雇用者の就業継続率も上昇している。なお、正規職員の就業継続率は一貫して上昇しているが、2000年代初頭まで2割程度で推移してきたパート・派遣の就業継続率は現在で約4割へと2倍に上昇している。これには、近年の「女性の活躍推進」に伴う政府や関連機関の啓蒙活動によって、非正規雇用者も育児休業制度の対象であるとの認識が広まったことや、「改正育児・介護休業法」による非正規雇用者の育児休業取得要件の緩和が影響している。
3――大学卒女性の生涯賃金の推計方法
2|生涯賃金の推計条件
生涯賃金の推計方法を以下に示す。
・生涯賃金1=年齢別賃金の合計(※1または2)+退職金(正規雇用者のみ)
※1 正規雇用者及び非正規雇用者の場合
年齢別賃金=きまって支給する現金給与額2×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額
※2 パートタイムの場合
年齢別賃金=(実労働日数×1日当たり所定内実労働時間数×1時間当たり所定内給与額)
生涯賃金の推計は、厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」における「きまって支給する現金給与額」及び「年間賞与その他特別給与額」から各年齢の賃金を推計し、それらを合算する3。なお、大学卒業後、同一企業でフルタイムの正規雇用者として働き続ける労働者として、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」における「標準労働者(学校卒業後直ちに企業に就職し、同一企業に継続勤務しているとみなされる労働者)」を用いる。その理由は、他ケースとの比較を想定し、正規雇用者比率が高く、育児休業制度や短時間勤務制度などの利用が比較的進んでいる労働者と考えたためである。ただし、標準労働者の賃金の公表値には「所定内給与額」は存在するが、「きまって支給する現金給与額」が存在しないため、同条件の一般労働者における両者の比率から、標準労働者の「きまって支給する現金給与額」を算出する。
1 退職金は必ずしも賃金に当たらないが(就業規則や労働契約等に、退職金の支給条件が定められている場合は賃金に相当)、本稿では便宜上、賃金に含まれる形で生涯賃金を推計している。
2 労働契約等により予め定められている支給条件により支給された6月分現金給与額(基本給、各種手当等含む)。ここから超過労働給与額を差し引いたものが「所定内給与額」。
3 本稿の推計は、独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2023」における生涯賃金推計を参考に、現在の各年齢の賃金を足し合わせて求めている。長期に渡る就業期間では物価・賃金水準は変化するが、賃金水準を現在のものに合わせるという考えに立つ。この方法とは別に、物価水準等を調整して生涯賃金を得る方法も考えられ、賃金の世代間格差などを把握するために適しているが、今年、新卒で働き始めた者の生涯賃金という見方は難しい。
生涯賃金の推計方法を以下に示す。
・生涯賃金1=年齢別賃金の合計(※1または2)+退職金(正規雇用者のみ)
※1 正規雇用者及び非正規雇用者の場合
年齢別賃金=きまって支給する現金給与額2×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額
※2 パートタイムの場合
年齢別賃金=(実労働日数×1日当たり所定内実労働時間数×1時間当たり所定内給与額)
×12ヶ月+年間賞与その他特別給与額
生涯賃金の推計は、厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」における「きまって支給する現金給与額」及び「年間賞与その他特別給与額」から各年齢の賃金を推計し、それらを合算する3。なお、大学卒業後、同一企業でフルタイムの正規雇用者として働き続ける労働者として、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」における「標準労働者(学校卒業後直ちに企業に就職し、同一企業に継続勤務しているとみなされる労働者)」を用いる。その理由は、他ケースとの比較を想定し、正規雇用者比率が高く、育児休業制度や短時間勤務制度などの利用が比較的進んでいる労働者と考えたためである。ただし、標準労働者の賃金の公表値には「所定内給与額」は存在するが、「きまって支給する現金給与額」が存在しないため、同条件の一般労働者における両者の比率から、標準労働者の「きまって支給する現金給与額」を算出する。
1 退職金は必ずしも賃金に当たらないが(就業規則や労働契約等に、退職金の支給条件が定められている場合は賃金に相当)、本稿では便宜上、賃金に含まれる形で生涯賃金を推計している。
2 労働契約等により予め定められている支給条件により支給された6月分現金給与額(基本給、各種手当等含む)。ここから超過労働給与額を差し引いたものが「所定内給与額」。
3 本稿の推計は、独立行政法人労働政策研究・研修機構「ユースフル労働統計2023」における生涯賃金推計を参考に、現在の各年齢の賃金を足し合わせて求めている。長期に渡る就業期間では物価・賃金水準は変化するが、賃金水準を現在のものに合わせるという考えに立つ。この方法とは別に、物価水準等を調整して生涯賃金を得る方法も考えられ、賃金の世代間格差などを把握するために適しているが、今年、新卒で働き始めた者の生涯賃金という見方は難しい。
・育児休業利用時の取扱い
育休中は、休業前の賃金水準で「育児休業給付金」が支給されるものとする。育休から復職時は休業前の賃金水準に戻るが、復帰初年度のみ「年間賞与その他特別給与額」は半額とする。
育休中は、休業前の賃金水準で「育児休業給付金」が支給されるものとする。育休から復職時は休業前の賃金水準に戻るが、復帰初年度のみ「年間賞与その他特別給与額」は半額とする。
(2024年10月23日「基礎研レポート」)
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03-3512-1878
経歴
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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