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米国における法定責任準備金評価利率を巡る動向-金利の上昇を受けて、10年ぶりに2025年から0.5%引き上げられる-
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年金保険の場合は、上記の3(2)で求めた「暦年責任準備金評価利率」の値がそのまま新しい暦年の法定責任準備金評価利率になる。
生命保険の場合は、上記の3(2)で求めた「暦年責任準備金評価利率」の値と、以前の暦年で使用している「法定責任準備金評価利率」との比較を行い、0.5%未満の変化しかない場合には、以前の数値をそのまま使用し、水準の変更は行わない。
なお、VM-20(生命保険商品のPBR要件)により、純保険料責任準備金(NPR)の額がセクション 3.B.4(定期保険)又はセクション 3.B.6(2次保証期間内のユニバーサル生命保険)に従って計算される生命保険の場合、NPR算出のために使用される「暦年純保険料式責任準備金評価利率(calendar year NPR interest rate)」(法定責任準備金評価利率に相当)については、1.50%を追加して調整(ただし、追加の1.50%が加算される前の適用利率の125%を0.25%単位に丸めた数値が限度)される。
生命保険の場合、契約年度の前年度の6月30日における参照利率で決定される(従って、2024年6月末時点で、2025年の終身保険等の適用利率が決定される)。
一方で、年金保険の場合、契約年度あるいは年金基金の増額年度の6月300日における参照利率で決定される(従って、2025年6月末時点になって初めて、2025年の年金保険の適用利率が決定されることになる)。
「不没収価格評価利率(nonforfeiture interest rate)」については、「法定責任準備金評価利率」に1.25を乗じた値を最も近い0.25%単位の利率にすることで決定する5。
なお、「不没収価格評価利率」の適用については1年間の猶予期間が認められており、新しい評価利率の適用については、翌年はオプショナルでその翌年から強制的になる。
5 「不没収価格評価利率」については、内国歳入法第7702条(生命保険契約の定義)に基づくキャッシュバリュー累積テストの適用累積テスト最低利率を下回ることはできず、これは、「(1) 4%と(2) 契約発行時の保証期間20年超の生命保険の責任準備金評価利率、との小さいほう」となっている。
基本的には上記のルールに従って、「法定責任準備金評価利率」が決定されるが、以下の場合には、NAICが採択し、かつ各州の保険監督官により公布された州保険法で承認された、参照利率を決定する「代替方法」が使用される、こととなっている。
(1) Moody’sが月次平均社債利回りを公表しない場合
(2) その利回りが参照利率を決定するのに適切でないとNAICが判断した場合
ただし、この規定に基づいた具体的な適用事例はない6。
6 Moody’sの月次平均社債利回りについては、1919年から公表されているが、過去において、1929年のウォール街の大暴落を契機とした世界大恐慌(The Great Depression)時、1980年以降の各種経済恐慌発生時、1997年のブラック・マンデーを中心とする株価大暴落時及び2008年のリーマンショック時、2020年の新型コロナウイルス(COVID-19)ショック時等においても、公表が継続され、水準自体の大きな変動等は見られたが、この規定が適用されることはなかった。
法人税法上の非課税限度額を算出するための「税務上の評価利率」については、1987年歳入法による内国歳入法(IRC)の第 807条(d)(2)(B)条の改正によって、1987年12月31日以降に開始する課税年度に発行された契約に対して、契約時の「法定責任準備金評価利率」と「適用連邦利率(Applicable Federal Interest Rate)」の大きい率と定められていた。ここに、「適用連邦利率」は毎年財務長官によって決定され、これは「適用年の期初以前の直近60ヶ月間の中期(3年超9年以下)の連邦債券」に基づいて算出されていた。
ところが、減税・雇用法第13517条で、2017年12月31日以降に開始する課税年度について、第807条 (d) に基づいて計算される準備金の要件が改正され、適用連邦利率と現行の州の評価利率のいずれか大きい方を使用して準備金を計算する必要がなくなった。改正後の第807条 (d) では、2017年12月31日以降に開始する課税年度の所得を決定するための生命保険準備金は、基本的に準備金が決定された時点でNAICの要件に従って計算された準備金に基づいて決定される7ことになり、法定責任準備金評価に使用される利率の使用が義務付けられることになっている。
7 「正味解約返戻金(net surrender value:NSV)」と「法定責任準備金」のいずれか大きい額、に基づいているが、後者が前者を上回る金額の一部(7.19%)はヘアカットされる。
(参考)法定責任準備金評価利率の設定ルールの考え方
基本的な考え方は、保証期間の長いものほど、より保守的な参照利率((B)ではなくて(A))を採用し、加重係数も高い安全割引を行った低い係数を使用している。
なお、こうしたルールの作成については、ACLI(米国生命保険協会)の小委員会(Subcommittee)において検討されていたが、検討期間が1年半と限られていたことから、理論的な追求に多くの時間を費やしている余裕はなかった、とされている。
Moody’s の社債利回りについては、当時から、指標金利として幅広く使用されており、投資適格債レベルということで、保守的な指標になっていると考えられた。
当時の他の候補としては10年国債等も考えられたが、生命保険会社の実際の運用実態をより反映するものとしては適切ではなく、債券の期間及びスプレッドの存在という観点から考えて、「Moody’s社公表の月次平均社債利回り」の方がより適切であると考えられた。
さらには、むしろ会社の実際の運用利回りに基づいた数値を採用すべきではないか、との意見もあったが、業界平均の数値が必ずしも各社の数値を適切に表してはおらず、一部の大手保険会社の数値に引きずられる形になることや、過去の実績数値等の把握にかなりタイムラグがあることから、将来適用される評価利率の算出に使用する数値として適当ではない等の意見もあり、採用されなかった。
なお、実際の債券での運用等は必ずしも20年以上の超長期債だけで行っているわけではないが、こうした実態を踏まえた調整については、加重係数等で反映される形になっている。
より金利感応性が求められる商品等については、「(A)Moody’s の月次平均社債利回りの12ヶ月平均と36ヶ月平均のうちの小さいほう」ではなくて、「(B)Moody’s の月次平均社債利回りの12ヶ月平均」を使用する考え方を採用している。
なお、Moody’sの月次平均社債利回りの12ヶ月平均と36ヶ月平均のうちの小さいほうを使用する方式は保守的に機能する。即ち、金利上昇局面では、36ヶ月平均が遅効的に作用し、適用されるのに対して、金利低下局面では12ヶ月平均が先行的に作用し、適用されることになる。
算式が示すとおり、3%が下限で9%が上限ということではなく、金利状況によってはこれを下回るあるいは上回る利率になることもある。
なお、「3%」という水準については、「理想的な経済状況における基本的な資本コスト(a basic cost of capital under ideal economic conditions)」として設定されている。
「9%」という水準については、検討当時の金利を考えて、「現実的な水準とはそうかけ離れていない水準」として設定されている。
(1) 基本的な考え方
商品特性との関係で対応する資産の運用パターン等を考慮した形で、加重平均を決定しており、一時払商品については高い加重係数を、平準払の長期保証性商品については低い加重係数(高い安全割引)を使用している。
なお、改正前に区分されていた個人と団体の区分けに関しては、合理的な理屈がなく、むしろ商品特性から生まれるリスクの程度と期間がより重要なファクターであるとの理由から区分していない。さらには、年金に関して、税制適格性の有無による差異も設けていない。
(2) 具体的な水準の決定
加重平均の具体的な水準については、「将来のインフレ期待に対する信頼性の程度」を反映する形で決定されている。
例えば、参照利率が9%の場合に、3%を超える6%部分がインフレーション・プレミアムを表していると仮定し、6%に加重係数の0.35をかけた2.1%と基本資本コストの3%の合計である5.1%が信頼性をもって還元できるものと考える。
この水準については、将来の金利に対する見通しや特定商品の期待キャッシュ・フローのパターンを仮定することで、保守性も加味して決定される。結果的に得られる水準が各商品における予定利率水準の信頼性要素を示していることになる。
こうした様々な加重水準を検証する手法については、あくまでも、加重係数の水準を「検証」することにより、その水準「決定」の妥当性を一定程度確認するためのものである、と整理されている。そもそもの水準「決定」は、改正前の概念的な枠組みを維持しつつ、限られたタイム・スケジュールの中で定められたものなので、その理論的根拠付け等にも一定の制約等があることを踏まえておく必要がある、と説明されている。
(3) 加重水準を検証する手法(SOAのRECORDによる)
基本的な考え方としては、
「将来の資産や負債から発生するキャッシュ・フローを想定するために、一定の前提をおいて、その前提の下で、資産の収益等からまかなえる責任準備金の予定利率水準を算出する。これらの予定利率水準から、必要な加重係数を逆算する。」
ということになる。
ここで、一定の前提については、(A)商品に関する前提(保険料、給付、事業費、予定評価利率、責任準備金額等)、(B)運用に関する前提(参照利率の推移、参照利率の実効利回りへの変換率、信用損失発生率、運用コスト、資産の償還率等)、等が挙げられる。
これらの前提の結果得られる将来の毎年における「資産から得られる運用利息」と「責任準備金に要求される予定利息」を比較する。ここで、(資産十分性分析とは異なり)あくまでも、両者の保険期間全体での上記数値の平均値に基づいて結果を比較する(さらには、運用利息以外の収益要素やサープラスからの運用利息等も考慮しない)。これにより、それぞれのモデル・シナリオにおいて、全保険期間における経過責任準備金額に対する利息不足総額の割合として、「平均利息不足率」が算出される形になる。
悲観的な金利シナリオを含むいくつかの前提のセットに対して、こうした算出を行うことで、資産と負債の利息コストが等しくなる均衡責任準備金評価利率を決定する。この責任準備金評価利率に基づいて、加重係数を逆算することになる。
様々な商品タイプに対して、こうしたモデルに基づく検証(テスト)が行われる。
運用に関する前提については様々であり、ある商品については金利が低下するシナリオが厳しい場合もあれば、別の商品では金利が上昇するシナリオが厳しい場合もある。
ただし、以下のシナリオは、全ての商品の検証において共通に使用される。
(1) 参照利率
9%からスタートして、毎年0.25%ずつ低下し、2000年以降は4%
(2) 参照利率の実効利回りへの変換のための調整
・初年度は会社の投資利回りとMoody’s 社のAA utilitiesとの平均のマージンを反映するために0.45%プラス
・名目から実効への転換で0.20%プラス
・投資コスト 0.20%マイナス
・クレジットリスク 0.10%のマイナス
(3) 投資資産の償還
(a) 予定された償還(業界の経験に基づく)
年度 年始残存率 年度 年始残存率
1年 100.0% 16年 25.5%
6年 85.0% 21年 9.0%
11年 53.0% 26年 0.0%
(b) 予定されていない償還(任意償還)
利回り低下 残存率 利回り低下 残存率
1% 95% 3% 15%
2% 70% 4% 0%
(c) 償還に伴うペナルティー
半年分のクーポン
より金利感応性が求められる商品等については、参照利率の決定時期と適用時期とのタイムラグが少なく、さらには0.25%単位での変更を行う等、頻度の高い変更を要求する仕組みとなっている。
(2024年10月11日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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