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実効性と成果が問われ始めた企業のサステナビリティ推進-稼ぐ力との両立を目指す「サステナブルマーケティング」とは

生活研究部 准主任研究員 小口 裕
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1――はじめに~サステナビリティ推進も実効性と成果が問われるタイミングに

そこで、本稿では、企業がサステナビリティ活動の実効性を高めていく上でどのような方向性を取るべきか、その理論的アプローチの一つとして注目されている「サステナブルマーケティング」に焦点を当て、アプローチとしての特徴と一般的なマーケティング理論との違いを踏まえ、消費者生活意識に関する調査データを傍証としながら、その可能性について論じていきたい。
1 欧州連合(EU)気候監視ネットワークのコペルニクス気候変動サービス(C3S)情報(2024年8月5日公表)より
2 日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)が実施した「わが国のサステナブル投資残高アンケート調査」(2023年は61の機関投資家が回答)に基づき、2機関の公開情報を加味して同フォーラムが集計したもの。なお。サステナブル投資とは、持続可能性に着目した投資を指す。環境(E)や社会(S)の課題に対する企業の取り組みや企業の経営体制(G)などの評価を考慮して投資先を選定するESG投資とほぼ同義とされる。
2――社会と企業のサステナビリティの同期化とは~ポイントは「稼ぐ力」をどう高めるか
3――サステナブルマーケティングとは~環境・社会・経済それぞれの持続可能性を両立する
従来のマーケティング活動は、特定の消費者セグメントや企業の利益に焦点を当てることが多かったが、その過程で短期的な満足や利益追求が優先されるあまり、長期的な社会全体の影響や持続可能性が見過ごされるリスクがあった。
たとえば、低価格戦略によって短期的には企業に利益をもたらし、消費者の生活の質が向上しても、その背後で環境破壊や社会的不平等が進行する可能性があった。このような批判を踏まえ、SMOには、よりマクロの観点からこれらの弊害を抑制しようとする姿勢が含まれている。
また、SMOは消費者との接点に限らず、企業内部の製造・生産・営業といったサプライチェーン全体に焦点を当てたアプローチでもある。そして「環境への害を低減」「倫理的かつ公平に」といった点においては、単に消費者の需要を刺激するだけでなく、生産に必要な資源の使用効率を高め、廃棄物を削減し、カーボンフットプリントを小さくすることが具体的に求められる。
3 出典 Lunde, M. B. (2018). Sustainability in marketing: A systematic review unifying 20 years of theoretical and substantive contributions (1997–2016). Journal of Macro marketing, 38(3), 223–238.
4――サステナビリティは戦略投資となりえるのか~消費者の意識に応えて、稼ぐ力に転化する

特に、購入経験においては「生活用品」「自動車」「電力」の3つのカテゴリーで、この1年間で有意に増加している(p<0.05)。これは、見方によっては、エシカル消費に対する消費者の行動変容の水準が高まっていることを示していると解釈することもできるだろう。
これを言い換えれば、電力や自動車といった長期的な視点が求められるカテゴリーでは、環境負荷の低減が将来的な節約に繋がるという認識があり、結果的にエシカルな選択行動が促進されている様にも見える。この動向は、SMOの観点から見れば、社会に配慮したバリューチェーンを通じて生み出された商品の価値が消費者に受容されて価格プレミアム7を生み、稼ぐ力に転化しうる市場機会とも言えるのではないか。
一方で、食料品や衣料品といった日用品の分野では、昨今のインフレによる価格上昇により、追加支出を伴うエシカルな選択が困難な状況が続いている可能性がある。この点については、価格弾力性や消費者の所得弾力性といった特性を踏まえ、需要の変動を注意深く分析する必要がある。
このように、消費者が環境や社会への配慮を重要視するようになったことは、企業にとっても競争優位性を高める要因となり得る。このトレンドは、今後ますます強まり、持続可能なビジネスモデルと社会のサステナビリティを追求する企業にとって大きな機会となるのではないだろうか。
4 道徳的ハロー効果とは、人や組織が道徳的に良い行動を示すことで、それ以外の面でも良く評価される心理効果を指す。
5 消費者庁「消費者生活意識調査」、調査対象は全国の 15 歳以上の男女。手法はインターネットによるアンケート調査。集計対象は、「購入経験」:令和5年(n=3123)、同4年(n=3152)、「購入意向」:令和5年(n=2914)、同4年(n=2964)。
6 エシカル消費とは、人・社会・地域・環境に配慮した消費行動のことを指す。
7 ここで言う価格プレミアムが10%以上のケースとは「エシカル消費につながる商品を、通常の商品よりどの程度まで割高なものについて購入した経験がありますか。」という設問に対する4つの選択肢「0%」「0%より高いが10%未満」「10%以上~30%未満」「30%以上」回答のうち、10%以上の2つの選択肢の合算値(%)を指す。
(2024年10月10日「基礎研レポート」)

03-3512-1813
- 【経歴】
1997年~ 商社・電機・コンサルティング会社において電力・エネルギー事業、地方自治体の中心市街地活性化・商業まちづくり・観光振興事業に従事
2008年 株式会社日本リサーチセンター
2019年 株式会社プラグ
2024年7月~現在 ニッセイ基礎研究所
2022年~現在 多摩美術大学 非常勤講師(消費者行動論)
2021年~2024年 日経クロストレンド/日経デザイン アドバイザリーボード
2007年~2008年(一社)中小企業診断協会 東京支部三多摩支会理事
2007年~2008年 経済産業省 中心市街地活性化委員会 専門委員
【加入団体等】
・日本行動計量学会 会員
・日本マーケティング学会 会員
・生活経済学会 准会員
【学術研究実績】
「新しい社会サービスシステムの社会受容性評価手法の提案」(2024年 日本行動計量学会*)
「何がAIの社会受容性を決めるのか」(2023年 人工知能学会*)
「日本・米・欧州・中国のデータ市場ビジネスの動向」(2018年 電子情報通信学会*)
「企業間でのマーケティングデータによる共創的価値創出に向けた課題分析」(2018年 人工知能学会*)
「Webコミュニケーションによる消費者⾏動の理解」(2017年 日本マーケティング・サイエンス学会*)
「企業の社会貢献に対する消費者の認知構造に関する研究 」(2006年 日本消費者行動研究学会*)
*共同研究者・共同研究機関との共著
小口 裕のレポート
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