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ジョブ型人事指針を読む(上)-先行20社の事例より:ジョブ型人事の基本と目的

総合政策研究部 主任研究員 小原 一隆
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ジョブ型人事制度を導入した企業では、社員が自律的にキャリアを形成できるような異動制度が拡充されている。ポスティング制度や社内公募制度を活用することで、社員が自らの意思でキャリアを切り開ける環境が整備されている。
(共通する取り組み)
1) 社内公募制度の拡充
多くの企業で、社員が自らの手を挙げて異動を希望できる仕組みが整っている。これにより、社員は自らのキャリア形成を進め、新たな挑戦に取り組むことが可能になっている。富士通、日立製作所、三菱マテリアル等で導入されており、この制度を通じて、社員のキャリア自律を促進し、新たな挑戦や成長機会を提供する。また、テルモ等は管理職の昇進にあたっても公募している。
2) 社員の自律的なキャリア形成の支援
多くの企業で、社員が異動に際して自己成長を促進できるよう、キャリア相談や1on1ミーティングを活用している。富士通やソニーグループ、三井化学等では、社員の希望や成長目標を考慮した上での異動が進められている。
(独自性のある取り組み)
1) 会社主導と社員希望のバランス
アフラック生命保険や資生堂等では、会社主導のジョブローテーションと社員の希望に基づく異動のバランスを取る方針が強調されている。特にアフラック生命保険では、全国の拠点における人員配置や危機管理を考慮したローテーションが実施されている。
2) 社員主導の異動
ソニーグループでは社員本人の希望に応じて異動ができるカルチャーであり、会社主導での異なる職種への異動はあまり行われず、その場合も本人の同意を得ることが基本で強制はしない運用となっている。
3) タレントマネジメントシステムの活用
ENEOSでは社員の評価、経歴、保有資格等の情報はタレントマネジメントシステムに蓄積され、人材配置にあたってはこれらの情報をもとに、最適な人材を成長分野や重要ポジションに投入している。
(まとめ)
・社内公募制度が活発に運用されており、社員が積極的に異動を希望し、キャリア形成を進める機会が増加している。
・管理職の昇進にあたっても社内公募制度を活用することで、社員のキャリア形成を促進している。このような制度により、社員は自発的にキャリアを切り開く意欲が高まり、企業のエンゲージメントが向上する。
・タレントマネジメントシステムを活用し、社員のスキルや評価情報をもとに最適なポジションに人材を配置しているケースもある。これにより、成長分野や重要ポジションに適切な人材が投入され、企業の競争力が強化されている。
キャリア自律支援は、社員が主体的にキャリアを設計し、成長できる環境を整備する取り組みである。企業は、自己啓発の機会提供や、キャリア相談のサポート、社内公募制度等を導入し、社員のスキル向上や新たな挑戦を促進している。これにより、社員のモチベーション向上と企業の競争力強化を両立させることを目指している。
(共通する取り組み)
1) 社内公募制度の充実
多くの企業で、社員が自発的にキャリアを選択できる社内公募制度(ジョブポスティング)が整備され、社員が異なる部署や職務に挑戦する機会が提供されている。例えばテルモ、レゾナック・ホールディングス等で導入されている。これにより、社員は異なる部署や職務に挑戦する機会が提供され、キャリアの多様な可能性が広がっているとされる。
2) キャリア開発プラン
各企業でキャリア開発プランを活用し、社員が自らのキャリア目標を設定し、その達成に向けた具体的な成長計画を上司と共有する仕組みが広がっている。例えばアフラック生命保険等でみられる。この取り組みで、上司との対話を通じて能力開発を進める仕組みを整備している。
3) 1on1ミーティングによるキャリア相談の促進
定期的に1on1ミーティングを実施し、社員と上司がキャリアに関する対話を通じて、成長とキャリア形成を支援する取り組みが各企業で進んでおり、キャリア自律を促進する重要な手法として活用されている。
(独自性のある取り組み)
1) ベテラン社員向けキャリア再設計支援
ソニーグループは、50歳以上の社員を対象にした体験型のキャリア研修で、外部企業や地方創生支援プロジェクトでのインターンシップを通じた、新しい環境での経験を積むことを重視している。
(まとめ)
・多くの企業が社内公募制度やキャリア開発プログラムを導入し、社員が自らキャリアを選択・形成する環境を整備しているが、パーソナライズ化した支援が進んでいる企業は限られている。
・社内イベントやワークショップを活用し、社員のキャリア自律の促進や成長意識の向上にうつなげる企業が増えている。
・ベテラン社員(50歳以上等)の社員のキャリア形成支援に力を入れ、今後のキャリアプランの再設計や学び直しの機会を提供することで、長期的な成長を促している。
ジョブ型人事により、職務や職責に基づく評価制度が導入され、年功序列型の評価から脱却する企業が増えている。特に管理職層では、責任に応じた報酬等が明確化され、社員の納得感を高める取り組みがなされている。段階的な導入や経過措置を用いることで、社員への影響を抑えつつ制度移行を図っている。
(共通する取り組み)
1) 等級変更に伴う昇格・降格のルール化
全20社が、ジョブ型人事制度に基づき、職務に応じた等級の昇降のルールを整備している。
2) 報酬の連動と激変緩和措置
等級変更に伴い、報酬も変動するが、急激な変動を防ぐために激変緩和措置を設けている企業が多くみられる。例えば資生堂やENEOS等は、等級が下がった場合でも報酬の減額を段階的に行う等、社員への影響を緩和するための措置を実施している。
3) マネージャーの評価能力向上への取り組み
等級制度の円滑な運用には、上司やマネージャーの評価能力向上が重要とされており、各社とも1on1や評価面談を通じて、部下との対話を強化している。日立製作所では、マネージャーに対してキャリア指導に関するノウハウ集の提供等を行い、部下指導の能力向上を図っている。
4) パフォーマンス改善プログラム
パフォーマンスが一定基準を下回った社員に対して、パフォーマンス改善プログラム(PIP)を実施し、スキルや業務遂行能力の向上を目指したサポートを提供している。
(独自性のある取り組み)
1) 再登用の仕組み
リコー等では、降格後でも一定基準を満たせば再度登用される「再登用ルール」を整備し、キャリアの持続的な成長を支援する体制を構築している。
(まとめ)
・多くの企業で、等級変更の頻度が高まる中、報酬への負の影響を緩和する施策が広がっている。
・マネージャーの役割強化が等級制度の円滑な運用のために不可欠であり、マネージャーの研修やフィードバックに注力している。
・パフォーマンス改善や再登用制度が、社員の長期的なキャリア形成をサポートする一助となっている。
3――おわりに
等級制度や報酬制度の運用についても、急激な変革ではなく段階的な移行を行うことで、社員の安心感と組織の安定性が保たれることが期待される。
欧米流のジョブ型では、当該ジョブに就く前に、ジョブを担う要件を充足しているとして評価がなされており、給与は定額であるところ、日本型のジョブ型では成果に応じて昇降給がなされるケースが散見される。ジョブ型に成果主義的要素が混入していることが特徴である。また、非管理職についてはジョブでなく職能で処遇する例も見受けられる。先行企業の中にはジョブ型導入後相応に時間が経っている場合もあるが、全体としては道半ばであると言えるだろう。
今後、ジョブ型人事制度がさらに浸透し、より多くの企業で採用されていく中で、企業が直面する新たな課題も出てくるだろう。それに伴い、制度の改良と調整が求められ、より持続可能で柔軟な人材管理の仕組みが確立されると考えられる。
次稿では、ジョブ型人事指針の第4章(人事部と部署の権限分掌の内容)と第5章(導入プロセス)に触れ、さらに各社の具体的な事例、とりわけ人事部門からの権限移譲や、導入プロセス等について確認し、ジョブ型人事制度がもたらす効果や、懸念も含めた今後の展望を考察する。
(2024年09月27日「基礎研レポート」)

03-3512-1864
- 【職歴】
1996年 日本生命保険相互会社入社
主に資産運用部門にて融資関連部署を歴任
(海外プロジェクトファイナンス、国内企業向け貸付等)
2022年 株式会社ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・公益社団法人日本証券アナリスト協会
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