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- 国際的なデジタル貿易と日本の赤字
2024年10月08日
1―デジタル赤字とは
本稿では、「デジタル貿易」について、世界および取引が大きい地域の状況を概観する(ただし、データの制約のため、以下で確認する多くのデータからは著作権等利用料が除かれている)
2―デジタル貿易規模と特徴的な地域
世界のデジタル貿易の規模を確認すると、23年の世界全体のサービス輸出は約7.9兆ドルである(なお、財輸出は25兆ドル程度で、サービス輸出は財輸出の30%程度の規模)。このサービス輸出のうち、デジタル輸出に関する項目は、コンピュータサービス輸出が9160億ドル(サービス輸出に占める比率は11.6%)、専門・経営コンサルティングサービス輸出が8824億ドル(同11.2%)となる(著作権等利用料に相当する金額は不明)。これらの2項目を合わせたデジタル輸出はサービス輸出の2割強を占めている。近年、この比率は緩やかに上昇を続けており、コロナ禍後はサービス輸出全体の上昇トレンドを上回る伸びを見せている[図表3]。
アイルランドは法人税率の低さ(12.5%)から、グーグルやアップル、フェイスブックなどグローバルIT企業が重要拠点を設け、各国に提供したサービスに対して、ライセンス料などの形で利益を集約し、税負担を軽くしているとされる。近年はこうしたグローバル大企業の節税策に対し、サービスを利用国への課税権の配分や、15%という最低税率の設定(いわゆるグローバル・ミニマム課税)の動きが進んでいる。こうした動きは軽課税国のメリットを軽減させるが、アイルランドは単なる帳簿上の拠点ではなく、IT人材が豊富であることや公用語が英語であることなどを背景にIT関連サービスが集積しており、アイルランドの競争力とデジタル輸出を行う上での強みを維持させていると見られる。例えば、アイルランドは欧州におけるデータセンターの一大集積地でもあり、IT化が進むなか、その存在感が増している。アイルランドは10年代半ば以降、グローバルIT企業の規模拡大と平仄を合わせる形で、世界全体のデジタル輸出に占める比率を高めている。
アイルランドのサービス輸出は、分類で見るとその太宗がコンピュータサービスで、米国向け、日本向け、中国向けなどEU域外向けのシェアを拡大させている。ただし、アイルランドはグローバル企業の本国への資金還流(ロイヤリティ・ライセンス(知的財産権等使用料に相当))が大きく、また、サービス収支全体で見ると必ずしも黒字という訳ではない[図表5]。
アイルランドのサービス輸出は、分類で見るとその太宗がコンピュータサービスで、米国向け、日本向け、中国向けなどEU域外向けのシェアを拡大させている。ただし、アイルランドはグローバル企業の本国への資金還流(ロイヤリティ・ライセンス(知的財産権等使用料に相当))が大きく、また、サービス収支全体で見ると必ずしも黒字という訳ではない[図表5]。
インドは安価な労働力と人材を背景に、IT関連サービス、ソフトウェア開発に強みを持ち、コールセンターや経理処理、ITシステム支援といった大手企業の業務の一部受託、いわゆるBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を積極的に行っており、この分野で大幅な黒字を計上している。
アイルランドは税制上のメリットをきっかけに重要拠点としての地位を確立する一方、インドは人件費メリットをきっかけにIT関連業務の受託を増やしてきたと言える。共通点としては、いずれも英語圏でであり、IT人材の蓄積が進んでいる点が挙げられる。なお、最近はインドが強みとするデジタル貿易分野が生成AIによって代替される可能性を指摘する声が聞かれるなど、生成AIによるデジタル貿易への影響は今後の注目点でもある。
英国は、デジタル輸出として分類される大部分が専門・経営コンサルティングサービスである。英国は金融サービスに強みを持ち、その周辺サービスとして経営コンサルティングや広報サービスのシェアが大きくなっていると考えられる。したがって、英国が強みを持つ領域は本稿で焦点をあてている広告サービス(ウェブ広告)といった「デジタル」のイメージとは乖離している可能性がある(米国も同様の傾向)。
デジタル貿易の収支差に注目すると、日本のほか、オランダやドイツでも収支差がマイナス(赤字)となっている[図表4]。ただし、オランダやドイツはEUの一部でEU域内での取引規模も大きく(サービス貿易自体も約半分は域内取引)、EU域外とのデジタル輸出入に限定すれば、ドイツ、オランダともに域内外を合計したデジタル赤字よりも縮小する。また、EUは先ほど見たアイルランドという世界最大のデジタル黒字国を有している。ドイツは財輸出を伸ばす一方でアイルランドはデジタル輸出を伸ばすといった、比較優位の観点から地域別の強みを活かした分業が進んでおり、その結果、アイルランド以外の国のデジタル収支が赤字化しているという捉え方もできるだろう。EU全体で捉えれば、EU域外に対して大幅なデジタル黒字を計上している[図表6]。
アイルランドは税制上のメリットをきっかけに重要拠点としての地位を確立する一方、インドは人件費メリットをきっかけにIT関連業務の受託を増やしてきたと言える。共通点としては、いずれも英語圏でであり、IT人材の蓄積が進んでいる点が挙げられる。なお、最近はインドが強みとするデジタル貿易分野が生成AIによって代替される可能性を指摘する声が聞かれるなど、生成AIによるデジタル貿易への影響は今後の注目点でもある。
英国は、デジタル輸出として分類される大部分が専門・経営コンサルティングサービスである。英国は金融サービスに強みを持ち、その周辺サービスとして経営コンサルティングや広報サービスのシェアが大きくなっていると考えられる。したがって、英国が強みを持つ領域は本稿で焦点をあてている広告サービス(ウェブ広告)といった「デジタル」のイメージとは乖離している可能性がある(米国も同様の傾向)。
デジタル貿易の収支差に注目すると、日本のほか、オランダやドイツでも収支差がマイナス(赤字)となっている[図表4]。ただし、オランダやドイツはEUの一部でEU域内での取引規模も大きく(サービス貿易自体も約半分は域内取引)、EU域外とのデジタル輸出入に限定すれば、ドイツ、オランダともに域内外を合計したデジタル赤字よりも縮小する。また、EUは先ほど見たアイルランドという世界最大のデジタル黒字国を有している。ドイツは財輸出を伸ばす一方でアイルランドはデジタル輸出を伸ばすといった、比較優位の観点から地域別の強みを活かした分業が進んでおり、その結果、アイルランド以外の国のデジタル収支が赤字化しているという捉え方もできるだろう。EU全体で捉えれば、EU域外に対して大幅なデジタル黒字を計上している[図表6]。
3―まとめ
日本は、主要先進国のなかでデジタル赤字の規模が大きく、この領域の競争力は相対的に低い。デジタル貿易が盛んなアイルランドやインドでは英語という言語の利点や、人材や産業集積の強みを活かし競争力を伸ばしている。日本は、母国語が日本語であるなど、グローバルにサービスを展開する上で一定の壁があるため、これらの国を見本にして、デジタル貿易の競争力を迅速に向上させることは難しいように思われる。
デジタル貿易分野の競争力が低くても、これら海外のサービスを利用して日本の強みのある分野で競争力を伸ばし成長すれば、日本にとってもメリットとなる。したがって、デジタル赤字は必ずしも問題とはいえないが、23年の財・サービス貿易を見ると、日本は財もサービスも赤字であり、過去に競争力のあったものづくりの分野を含めて、輸出全体でみた競争力の低下も懸念される状況にある。デジタル赤字は、経済のデジタル化が進む中で日本がどの産業、経済分野で競争力を高めていくべきかを改めて問うきっかけを提供していると思われる。
デジタル貿易分野の競争力が低くても、これら海外のサービスを利用して日本の強みのある分野で競争力を伸ばし成長すれば、日本にとってもメリットとなる。したがって、デジタル赤字は必ずしも問題とはいえないが、23年の財・サービス貿易を見ると、日本は財もサービスも赤字であり、過去に競争力のあったものづくりの分野を含めて、輸出全体でみた競争力の低下も懸念される状況にある。デジタル赤字は、経済のデジタル化が進む中で日本がどの産業、経済分野で競争力を高めていくべきかを改めて問うきっかけを提供していると思われる。
(2024年10月08日「基礎研マンスリー」)
03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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