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- 自動車保険料率の引き上げに向けた動き-自動車保険と傷害保険の参考純率の改定
2024年09月13日
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1――はじめに
8月下旬の新聞報道等によれば、来年1月頃に損害保険大手3社が自動車保険の保険料を値上げする、とのことである。こうした方針は既に今年3月頃には各社から公表されており、さらに具体的な内容や引上げ時期について、今般公表されたものである。
損害保険会社において、自動車保険は収益性がよいとは言えない。実際に、近年、大手損害保険会社のいくつかをみると、損害率(その1年間の正味保険金支払額を、正味保険料収入額で割った数値)が、50%以上になっている1。これは近年、自然災害による被害の増加や、物価高による整備業者への修理費支払いがかさんでいることによる。(支払事由の種類によるが、自動車保険などは、実際にかかった費用が保険金として支払われるのが普通。生命保険のような定額での契約とは異なる。)。
2024年1月に保険料を値上げした会社もあるが、そうした会社の場合には2年連続の保険料引上げということになる。
さて、今回のレポートはその次の改定にむけた話題である。
損害保険料率算出機構が、自動車保険の「参考純率」を全国平均で5.7%引上げることを金融庁に届け出て、6月28日に認められた2。この引上げをもとに、各社が具体的な保険料を検討し、実際に自動車保険の保険料は、さらに引き上げられることが予想されるが、それは2026年1月以降の話となるだろう。
1 日本の損害保険会社では、その年度に一時に多額の保険金支払を要する場合に備えて、「異常危険準備金」を積み立てることが義務付けられているが、この「異常」とは自動車保険の場合、損害率50%以上のこととされている。なお、損害率の開示には、損害調査費(保険金の査定に係る費用など)も含めることが一般的で、その場合は当然さらに損害率は大きく表示される。
2 「自動車保険参考純率 改訂のご案内」(224.6.28 損害保険料率算出機構) https://www.giroj.or.jp/ratemaking/automobile/pdf/202406_announcement.pdf#view=fitV
損害保険会社において、自動車保険は収益性がよいとは言えない。実際に、近年、大手損害保険会社のいくつかをみると、損害率(その1年間の正味保険金支払額を、正味保険料収入額で割った数値)が、50%以上になっている1。これは近年、自然災害による被害の増加や、物価高による整備業者への修理費支払いがかさんでいることによる。(支払事由の種類によるが、自動車保険などは、実際にかかった費用が保険金として支払われるのが普通。生命保険のような定額での契約とは異なる。)。
2024年1月に保険料を値上げした会社もあるが、そうした会社の場合には2年連続の保険料引上げということになる。
さて、今回のレポートはその次の改定にむけた話題である。
損害保険料率算出機構が、自動車保険の「参考純率」を全国平均で5.7%引上げることを金融庁に届け出て、6月28日に認められた2。この引上げをもとに、各社が具体的な保険料を検討し、実際に自動車保険の保険料は、さらに引き上げられることが予想されるが、それは2026年1月以降の話となるだろう。
1 日本の損害保険会社では、その年度に一時に多額の保険金支払を要する場合に備えて、「異常危険準備金」を積み立てることが義務付けられているが、この「異常」とは自動車保険の場合、損害率50%以上のこととされている。なお、損害率の開示には、損害調査費(保険金の査定に係る費用など)も含めることが一般的で、その場合は当然さらに損害率は大きく表示される。
2 「自動車保険参考純率 改訂のご案内」(224.6.28 損害保険料率算出機構) https://www.giroj.or.jp/ratemaking/automobile/pdf/202406_announcement.pdf#view=fitV
2――参考純率と保険料の改定
始めに、損害保険における、保険料の決まり方について復習しておく。
一般に保険料は、
・「純保険料(率)」 ・・・事故発生の際、保険会社が支払う保険金に充てられる部分
・「付加保険料(率)」・・・会社の事業に必要な経費
で構成されている。このうち純保険料部分に関して、損害保険料率算出機構が「参考純率」を算出する。これは、損害保険料率算出機構が、会員会社から報告を受けた契約や保険金支払いに関するデータを保有し、分析することにより算出される。
本来は、個々の会社が、それぞれ別に、実績データと統計に基づいて保険料を算出してもいいはずだが、ほぼ全ての損害保険会社のデータを集めて検討した方が、データの信頼性あるいは安定性がより高まるため、こうした仕組みが利用されることになる。分析には合理的な保険数理的手法が用いられ、自然災害に関しては将来シミュレーションも行われている。
作成された参考純率は、金融庁に届出が行われ、適合性審査(「合理的であること」「妥当であること」「不当に差別的でないこと」)を受けることで、正式に決定される。(ここまでが今般のできごと)
さてそのあと、会員損害保険会社は、この参考純率をそのまま使用することもできるし、自社の保険商品に合わせて修正して使用することもできる。さらに各社で算出した付加保険料を加えたものが、契約者に対する保険料率となる。なおこうした仕組みは、自動車保険、傷害保険、火災保険の種目別に検討される。(なお、地震保険や自賠責保険の保険料率も損害保険料率算出機構において算出されているが、これらは(参考純率とは呼ばず)「基準料率」と呼ばれている。届出等の手続きはほぼ同様である。)
逆に参考純率の使用義務はなく、各社が独自に料率を算出してもよいが、その場合は商品審査の段階でその独自料率の妥当性について相当程度労力をかけて説明する必要がある(と推察される)。これに対し、参考純率を使用している場合は、その部分は、先に述べた適合性については問題がない前提で、金融庁の商品審査が進められる(ので、説明の手間が省ける)。
またこうした参考純率は、検証が毎年行われ、必要と判断された場合は改定される。
自動車保険の参考純率の改定などは、最近では以下のようなものである。
2017年(平均▲ 8.0%引下げ)
2018年(クラス細分化)
2021年(平均▲ 3.9%引下げ)
2023年(クラス細分化)
2024年(平均+ 5.7%引上げ)・・・今回
これらを受け、実際にはそのあとに各社ごとに保険料の改定が行われている。
一般に保険料は、
・「純保険料(率)」 ・・・事故発生の際、保険会社が支払う保険金に充てられる部分
・「付加保険料(率)」・・・会社の事業に必要な経費
で構成されている。このうち純保険料部分に関して、損害保険料率算出機構が「参考純率」を算出する。これは、損害保険料率算出機構が、会員会社から報告を受けた契約や保険金支払いに関するデータを保有し、分析することにより算出される。
本来は、個々の会社が、それぞれ別に、実績データと統計に基づいて保険料を算出してもいいはずだが、ほぼ全ての損害保険会社のデータを集めて検討した方が、データの信頼性あるいは安定性がより高まるため、こうした仕組みが利用されることになる。分析には合理的な保険数理的手法が用いられ、自然災害に関しては将来シミュレーションも行われている。
作成された参考純率は、金融庁に届出が行われ、適合性審査(「合理的であること」「妥当であること」「不当に差別的でないこと」)を受けることで、正式に決定される。(ここまでが今般のできごと)
さてそのあと、会員損害保険会社は、この参考純率をそのまま使用することもできるし、自社の保険商品に合わせて修正して使用することもできる。さらに各社で算出した付加保険料を加えたものが、契約者に対する保険料率となる。なおこうした仕組みは、自動車保険、傷害保険、火災保険の種目別に検討される。(なお、地震保険や自賠責保険の保険料率も損害保険料率算出機構において算出されているが、これらは(参考純率とは呼ばず)「基準料率」と呼ばれている。届出等の手続きはほぼ同様である。)
逆に参考純率の使用義務はなく、各社が独自に料率を算出してもよいが、その場合は商品審査の段階でその独自料率の妥当性について相当程度労力をかけて説明する必要がある(と推察される)。これに対し、参考純率を使用している場合は、その部分は、先に述べた適合性については問題がない前提で、金融庁の商品審査が進められる(ので、説明の手間が省ける)。
またこうした参考純率は、検証が毎年行われ、必要と判断された場合は改定される。
自動車保険の参考純率の改定などは、最近では以下のようなものである。
2017年(平均▲ 8.0%引下げ)
2018年(クラス細分化)
2021年(平均▲ 3.9%引下げ)
2023年(クラス細分化)
2024年(平均+ 5.7%引上げ)・・・今回
これらを受け、実際にはそのあとに各社ごとに保険料の改定が行われている。
3――今回の自動車保険の参考純率の改定内容
1|参考純率の引き上げ
参考純率を5.7%引き上げる。これは、車両の高性能化(各種センサー等)による修理費の高額化や、近年の急激な物価上昇による修理費(部品、塗料の価格)の上昇を反映したものである。
参考純率を5.7%引き上げる。これは、車両の高性能化(各種センサー等)による修理費の高額化や、近年の急激な物価上昇による修理費(部品、塗料の価格)の上昇を反映したものである。
2|料率区分ごとの格差の見直し
〇 新車割引 対象となる自動車の最初の登録からの時間がたつほど、リスクが高まる(格差が拡がる)実績を反映して、新車などに対する割引率を高くする、などの見直し。
〇 年令条件格差 26歳以上補償においては、10歳刻みでみれば、年齢が上がっても事故率はほぼ横ばいで、70歳以上になるとはっきりと上昇する、といった実態である。そうした直近の統計を反映し、保険料負担の公平性を向上させるために60歳以上は5歳刻みに細分化する。
(現在:60~69歳、70歳~ 改定後:60~64、65~69、70~74、75~)
〇 運転者限定の格差の反映 一般に、運転者を限定すると事故率は低くなり、その分保険料も割り引かれる。しかし近年の統計をみるとそうした格差は縮小しているので、実態を反映する。(例えば「限定なし」に対する「本人・配偶者限定」。以前は「家族限定」というのもあった。)
〇 新車割引 対象となる自動車の最初の登録からの時間がたつほど、リスクが高まる(格差が拡がる)実績を反映して、新車などに対する割引率を高くする、などの見直し。
〇 年令条件格差 26歳以上補償においては、10歳刻みでみれば、年齢が上がっても事故率はほぼ横ばいで、70歳以上になるとはっきりと上昇する、といった実態である。そうした直近の統計を反映し、保険料負担の公平性を向上させるために60歳以上は5歳刻みに細分化する。
(現在:60~69歳、70歳~ 改定後:60~64、65~69、70~74、75~)
〇 運転者限定の格差の反映 一般に、運転者を限定すると事故率は低くなり、その分保険料も割り引かれる。しかし近年の統計をみるとそうした格差は縮小しているので、実態を反映する。(例えば「限定なし」に対する「本人・配偶者限定」。以前は「家族限定」というのもあった。)
3|今後の自動運転車の普及に対応するための、「被害者救済費用特約」の新設
自動運転については、その仕組み自体の不具合や、第三者によるハッキングを原因とする事故の発生が考えられる。その際、製造業者やソフトウェア事業者なども絡んで、責任関係が複雑で、事故原因の究明や責任割合の確定に時間がかかり、その間、被害者が補償を受けられないことが想定される。
そうした場合、法的責任が結局は被保険者側に発生しなくとも、差し当たって迅速に、被害者の損害を補償し救済する特約を新設する3。
3 このような新規の特約の料率はどうやって算出するのかについては、すぐにはみてとれないが。
自動運転については、その仕組み自体の不具合や、第三者によるハッキングを原因とする事故の発生が考えられる。その際、製造業者やソフトウェア事業者なども絡んで、責任関係が複雑で、事故原因の究明や責任割合の確定に時間がかかり、その間、被害者が補償を受けられないことが想定される。
そうした場合、法的責任が結局は被保険者側に発生しなくとも、差し当たって迅速に、被害者の損害を補償し救済する特約を新設する3。
3 このような新規の特約の料率はどうやって算出するのかについては、すぐにはみてとれないが。
4|「特定小型原動機付自転車」区分の新設
いわゆる「電動キックボード」の区分を新設する。現時点では、対人賠償責任と対物賠償責任について保険統計はないので、一般原付とのリスク特性の差異を反映した参考純率を算出した。人身傷害、車両保険については、一般原付と同じ水準からスタートして、今後蓄積された保険統計を反映していく予定としている。
いわゆる「電動キックボード」の区分を新設する。現時点では、対人賠償責任と対物賠償責任について保険統計はないので、一般原付とのリスク特性の差異を反映した参考純率を算出した。人身傷害、車両保険については、一般原付と同じ水準からスタートして、今後蓄積された保険統計を反映していく予定としている。
4――傷害保険の参考純率の改定
傷害保険についても、6月28日に参考純率の引き上げが認められた。その内容は
・普通傷害保険、家族障害保険の参考純率を平均1.9%引き「上」げる
・交通事故傷害保険およびファミリー交通障害保険の参考純率を平均25.3%引き「下」げる
傷害保険に関しては、2018年5月の届け出以降、約6年が経過している。これは新型コロナによる社会の行動変容などにより、リスク動向の把握が難しい時期があったことによる。しかし、現在そうした特殊な状況が解消方向にある中で、保険統計におけるリスク実態を反映したものである。特に交通事故傷害保険とファミリー交通傷害保険の引き下げ幅が大きいのは、直近時点の交通事故の減少を反映していることによる。
・普通傷害保険、家族障害保険の参考純率を平均1.9%引き「上」げる
・交通事故傷害保険およびファミリー交通障害保険の参考純率を平均25.3%引き「下」げる
傷害保険に関しては、2018年5月の届け出以降、約6年が経過している。これは新型コロナによる社会の行動変容などにより、リスク動向の把握が難しい時期があったことによる。しかし、現在そうした特殊な状況が解消方向にある中で、保険統計におけるリスク実態を反映したものである。特に交通事故傷害保険とファミリー交通傷害保険の引き下げ幅が大きいのは、直近時点の交通事故の減少を反映していることによる。
5――実際の保険料改定はまだ先
さて、この参考純率を各社が参考にして、自社の保険商品に合わせた調整を行い、必要経費を上乗せして最終的な保険料ができ上がる。これには各社の検討やシステム対応も必要となるので、もう少しあとの話となり、今回でいえば2026年あたりからではないかと予想されている。
(2024年09月13日「保険・年金フォーカス」)
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経歴
- 【職歴】
1987年 日本生命保険相互会社入社
・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
2012年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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