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本社移転は従業員満足度にプラス効果をもたらすか?

金融研究部 主任研究員 佐久間 誠

筑波大学大学院 システム情報工学研究群 松尾 和史

筑波大学 システム情報系 教授 堤 盛人

三幸エステート株式会社 市場調査部 チーフアナリスト 今関 豊和

オープンワーク株式会社 代表取締役社長 大澤 陽樹
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1 所在地:茨城県つくば市、主宰:堤 盛人
2 本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:大澤 陽樹
3 本社:東京都中央区、取締役社長:武井 重夫
4 本社:東京都千代田区、代表取締役社長:手島 恒明
5 本稿は、2024年7月に台湾・新竹市でAsRES(アジア不動産学会)とGCREC(世界華人不動産学会)、AREUEA(全米不動産都市経済学会)が共催した「The 2024 AsRES-GCREC & AREUEA International Real Estate Joint Conference」での発表内容をまとめたものである。発表論文は以下リンクを参照されたい。
https://ssrn.com/abstract=4937046
1――コロナ禍を経て高まる従業員重視の本社移転ニーズ
本社オフィスの重要な役割の一つは、従業員のエンゲージメントを高めることである6。この役割はコロナ禍以前から認識されていたが、パンデミックを経てさらに注目されるようになった。働く場所が多様化する中、オフィスは単なる作業場所ではなく、従業員間のつながりを促進し、企業文化を育む場としての機能がますます求められている。
また、少子高齢化が進む日本においては、優れた人材を確保し維持することが企業の持続的成長に不可欠である。そのため、2024年の春闘では賃上げ率が1991年以来の高水準となる5.1%に達した。さらに、オフィス環境を改善し、従業員が働きやすい環境を整えることが、人材獲得のための重要な戦略となっている。
もちろん、本社オフィス移転の目的には生産性の向上やコスト削減といった観点もあるが、今後は従業員の満足度やエンゲージメントをいかに高めるかが、より重要な課題となるだろう。本研究では、まず日本における本社移転の動向がコロナ禍前後でどのように変化したかを明らかにし、本社移転が従業員満足度にどのような影響を与えたのかを分析した。
6 森ビル(2023)「2023年 東京23区オフィスニーズに関する調査」によると、従業員300人以上の企業において、本社オフィスの存在意義や求められる機能・役割を問う設問では、従業員のエンゲージメント向上が最上位となっている。
2――コロナ禍前後で変化した本社移転の動機
しかし、コロナ禍以降は、コスト削減・業務効率化が依然として最も多い動機でありながら、その割合は45.2%に減少した。一方で、在宅勤務を理由とする移転の割合は、コロナ禍前の1.1%から23.7%へと大幅に増加した。また、働き方改革を理由とする移転も13.8%から27.1%に増加し、生産性向上(11.6%から18.1%)とコミュニケーション促進(12.7%から19.8%)を挙げる企業の割合も増加した。
これらの変化は、コロナ禍による在宅勤務の普及が多様で柔軟な働き方を可能にし、結果として既存の働き方改革を加速させたことを示している。また、在宅勤務の限界が明らかになるにつれ、オフィスを通じて生産性を高め、コミュニケーションを強化することの重要性が再認識されていることもわかる。
3――本社移転の動機によって異なる従業員満足度への影響
しかし、移転動機ごとの分析を行ったところ、動機によって従業員満足度に与える影響に違いがあることが明らかになった。特に、コミュニケーションの改善を目的とした移転では、社員の士気、風通しの良さ、相互尊重、20代成長環境といった評価項目においてプラスの影響が確認された。特に風通しの良さへの影響が大きく、これはコミュニケーションエリアやコラボレーションエリアの設置といった物理的なオフィス環境の改善が直接的に影響していると考えられる。
また、生産性向上を目的とした移転においても、風通しの良さや相互尊重、20代成長環境にポジティブな影響が見られた。さらに、働き方改革を目的とした移転では、相互尊重や人材の長期育成に対してプラスの影響が確認された。
一方で、在宅勤務を推進するための移転では、社員の士気に対してマイナスの影響が見られた。このタイプの移転は、オフィススペースの縮小と関連しているケースが多く、また対面でのコミュニケーションやコラボレーションの減少が、従業員の満足度に悪影響を及ぼしている可能性がある。
4――おわりに
また、分析結果の時系列的な変化を確認すると、生産性向上や働き方改革を目的とした移転の効果は、実現するまでに時間がかかることが明らかになった7。これらの変革は、単なるオフィス移転にとどまらず、全社的な変革を伴うため、効果が現れるまでに時間を要する。また、3年程度でその効果が減少することも確認された。これは、企業の状況やビジネス環境が変化することで、再び本社オフィスとのミスマッチが拡大する可能性があるためである。
一方、在宅勤務を推進するための移転によるマイナスの影響は、時間の経過とともに軽減される傾向が見られた。これは、新しい働き方に企業と従業員が順応することで、影響が緩和されていることを示している。このように、本社オフィスと企業や従業員の関係は時間とともに変化し続けるため、どのようなオフィス環境が最適であるかを常に再考し、継続的にオフィスをアップデートしていく必要があることを示唆している。
7 時系列的な変化の詳細については、脚注5の発表論文を参照。
(2024年09月12日「基礎研レポート」)
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