2024年09月11日

不動産投資市場動向(2024年上半期)~外資の取得額が減少するも、全体では高水準を維持

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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世界の不動産取引動向(2024年上半期)

MSCIの資料によると、2024年上半期の世界の不動産取引額は約4,389億ドル(約71兆円4、前年同期比▲18%)となり、2022年下半期以降、前年同期比で減少が続いている(図表6)。エリア別では、米州が約1,560億ドル(前年同期比▲7%)、欧州・中東・アフリカが約885億ドル(同▲6%)、アジア太平洋が約1,944億ドル(同▲29%)となり、全てのエリアにおいて過去10年間で最低水準に落ち込んだ。欧米では在宅勤務の定着等でオフィス市況が悪化していることに加えて、金融引き締めに伴う金利上昇を受けて商業不動産価格が下落するなか、不動産取引額の減少が鮮明となっている。
図表6 世界の不動産取引額(地域別、半期毎)
また、欧米において不動産向け融資が厳格化していることも、取引低迷をもたらしている。米連邦準備制度理事会(FRB)の融資担当者調査(SLOOS、2024年4-6月期)によると、米国銀行の2割強が商業用不動産向け融資を一段と厳格化した(図表7)。「緩和した」との回答は集合住宅向け融資の一部(2%)のみで、建設・土地開発向け融資については、「据え置いた」が76%、「厳格化した」が24%であった5。また、欧州中央銀行(ECB)による欧州地域の銀行融資に関する調査(7月公表)でも、商業用不動産向け融資の厳格化が続いており、24%(2023年下期比▲6%)の銀行が与信基準を厳しくしたと回答している。
図表7 米国銀行の商業不動産向け融資姿勢(DI)
このように、銀行の不動産向け融資が絞られるなか、不動産投資戦略においてデットへの関心が高まっている。オルタナティブ投資調査会社プレキンが世界の投資家6に対して行ったアンケートによると、「今後1年で、どのような戦略の不動産ファンドに投資するとよいと考えるか」(2024年6月調査)との質問に対して、「デット(25%)」を挙げる回答が緩やかに増加している。これに対して、1年前の調査で増加した「ディストレス(26%)」は今回大きく低下した(図表8)。不良債権処理に伴い不動産の売り出しが増加することを期待したものの、実際には出物が少なく取引が成立しにくい状況にあるのかもしれない。
図表8 「今後1年で、どのような戦略のファンドに投資すると良いと考えるか」
 
4 2024年上期末(2024/6/28)の為替レート(1ドル約161円)で換算。
5 銀行の規模別にみると、大手行のうち96%が「据え置いた」と答える一方、中小行の34%は「厳格化した」と回答し、中小行の慎重姿勢が目立つ。
6 回答した投資家はアセットマネージャー、年金、銀行、ファミリーオフィス、生命保険会社等で、各投資家の拠点はアジアが31%、ヨーロッパと北米がそれぞれ30%であった。

世界の注目を集める国内不動産市場

世界の注目を集める国内不動産市場。今後は金融政策の方向性の違いに留意

世界の不動産取引市場が冷え込み、外国資本による購入額も減少するなか、2024年上期の国内不動産取引額は約3.5兆円と高い水準を維持した。こうしたなか、グローバル投資家の日本市場への注目が高まっている。プレキンによると、「現在、最も良い投資機会がある先進国(複数回答)」(2024年6月調査7)は、米国が64%(1年前調査対比▲2%)、西欧が38%(同+1%)、英国が18%(同▲5%)に対して、日本は32%(同+26%)と前年調査から大幅に増加した(図表9)。低金利環境や安定した賃貸市況、高い流動性など良好な投資環境が評価されて、世界における日本の不動産投資市場の存在感が増しているようだ。

もっとも、今後は欧米では政策金利の引下げが実施される見通しであり、不動産取引市場に回復の兆しがみえてくるかも知れない。これに対して、国内では日銀による追加利上げが予想される。こうした金融政策の方向性の違いによって生じる影響に留意しながら、不動産取引市場の動向を注意深くモニタリングする必要がありそうだ。
図表9 「現在、最も良い投資機会がある先進国」
 
7 回答者の拠点は、アジアが31%、欧州が30%、北米が30%。
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。

(2024年09月11日「不動産投資レポート」)

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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

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