2024年09月04日

欧州大手保険グループの2024年上期末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-

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4―ソルベンシー比率の算出等に関係するその他の事項

この章では、ソルベンシー比率の算出等に関係するその他の事項について報告する。

これらの項目については、既に2023年末数値に関するレポートとして、基礎研レポート「欧州大手保険グループの2023年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-」(2024.4.3)の中でも一部報告している。

さらには、2023年末の詳しい内容については、保険年金フォーカス「欧州保険会社が2023年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-長期保証措置と移行措置の適用状況-」(2024.6.19)や「欧州保険会社が2023年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-内部モデルの適用状況等-」(2024.6.26)等のレポートにおいて報告しているので、これらのレポートを参照していただきたい。

なお、以下の「2」~「5」については、基本的にはZurichを除くソルベンシーII(と同等の)制度対象の5社について述べている。
1|ソルベンシー比率の目標範囲
ソルベンシー比率の目標範囲に相当する水準は、以下の図表の通りである。

会社内部のソルベンシー比率と監督・規制上のソルベンシー比率の両方を開示しているAvivaについては、会社内部のソルベンシー比率に基づく目標範囲を設定している。ただし、これらの目標範囲については、各社毎にその位置付けが異なっているので、単純な比較はできない。また、各社とも、適宜目標範囲等の見直しを行ってきており、必ずしも長期で固定されたものとはなっていない。
欧州大手保険グループのソルベンシー比率の目標範囲
AXAは140%をリスクアペタイト限度水準に設定して、これを上回る水準を維持する方針を有しているが、2020年12月1日に行われた2023年に向けての戦略に関する投資家向けプレゼンテーションの中で、約190%(140%のリスクアペタイト限度に50ptsのバッファー)を目標とするように修正することを公表している。

Allianzは、150%を「sustainable SolvencyIIcapitalization ratio」とし、2022年のAnnual Reportにおいては、180%を「minimum ambition」と称していた。

Generaliは、会社が取るリスク水準を定めているRAF(Risk Appetite Framework)において、過剰なリスクテイクを制限し、ソルベンシーポジションを望ましい水準に維持するために、「hard and soft limits」を設定している。2023年は、130%を「hard limit level」、150%を「soft limit level」に設定して、株式報酬制度の株数付与の決定にも関連付けている。

AvivaはWorking Rangeという名称で水準設定しており、下限の160%を下回る場合には、資本力を回復する行動を起こし、上限の180%を超える場合には、事業に投資したり、株主に還元したり、M&Aを行うとしている。

Aegonは地域別に目標を設定しており、以下の図表の通りとなっている。
Aegonの地域別ソルベンシー比率(目標範囲)
Zurichは、以前は社内指標のZ-ECMの目標範囲100%~120%を設定していたが、2020年からSSTベースの下限を160%と設定している。この際に、SSTの160%は、AA格付けの資本水準に相当しており、SSTで180%から200%の範囲で事業を運営することを目指していると述べていた。

なお、ソルベンシー比率の水準毎の会社の対応方針をさらに明確にして開示している会社もある。
2|SCR等の算出方法(内部モデルの適用状況)
各社とも内部モデルを適用しているが、その適用対象については、母国に加えて、欧州の主要国やアジア等、実質的に米国を除く主要事業国を含めているケースが多い。米国については、各社とも同等性評価に基づき、米国RBCによって算出したものをグループベースでは一定の換算を行うことで、全体の計算に反映している。

2023年のSFCRに基づくと、Zurichを除く5社のソルベンシーIIに基づく分散効果控除前のSCR算出における内部モデルの適用比率(=内部モデルによるSCR/(内部モデル適用後の)全体のSCR))は、以下の通りとなっている。2023年の数値は、2022年までの数値とはベースが異なっている会社もあるが、2022年までの数値も参考として掲載している。なお、各社の内部モデル適用比率の状況は、子会社の買収・売却等の事業戦略の影響を受けている要素も大きい。
分散効果控除前のSCR算出における内部モデル適用比率(S.25.02.22に基づく数値)/分散効果控除前のSCR算出における内部モデル適用比率(各社の公表ベースに基づく数値)
内部モデルの適用によって最も影響が大きいのが、子会社間や地域間の分散効果であると考えられているが、(標準式による分も含めた)分散効果による控除率は、以下の通りとなっている。

分散効果による控除率の水準の差異は、各社の生命保険事業と損害保険事業のウェイトやそれぞれの事業の商品構成の差異等を反映したものともなっている。
分散効果による控除率(S.25.02.22及びS.25.05.22に基づく数値)
これまで、SFCRにおいても、標準式によるSCRの数値は開示されてきていないが、過去の影響度調査によれば、内部モデル適用によるSCRの引き下げ効果は2割程度と想定されている。
3|SCR等の算出方法(長期保証措置の適用状況)
ソルベンシーIからソルベンシーIIへの移行における割引率や技術的準備金についての16年間にわたる移行措置、MA(マッチング調整)及びVA(ボラティリティ調整)といった長期保証措置8の適用については、各国の保険市場の特徴(販売商品や資産運用市場等)に大きく依存している。

保険年金フォーカス「欧州保険会社が2023年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-長期保証措置と移行措置の適用状況-」(2024.6.19)で報告したように、Zurich以外のソルベンシーII制度下にある5社については、全社がVAを適用し、AvivaとAegonが子会社の一部等でMAを、AllianzとGeneraliとAvivaが子会社の一部で、TMTP(技術的準備金に関する移行措置)を適用している。

これらの措置の適用による影響(2023年末ベース)については、以下の通りであり、Avivaがこれらの措置に大きく依存していることが示されている。なお、年度毎の影響度の水準の差異は、VAの水準等の影響を受けている。
長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2023年末)/(参考)長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2022年末)/(参考)長期保証(LTG)措置及び移行措置の適用によるSCR比率への影響(2021年末)
 
8 長期保証措置(経過措置を含む)の内容及びそのEU各国における適用状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)(6)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-」(2020.12.17~2021.1.15)等を参照していただきたい。
4|自己資本の内訳
ソルベンシーIIの資本要件に算入可能な各種自己資本は、劣後性や損失吸収性、期間といった資本適格性からTier1~Tier3 に分類9され、 それぞれについて算入制限が設定されている。

制度導入後、各社とも、着実にTier1の割合を高めてきており、自己資本のうち、Tier1の自己資本が8割弱から9割程度、さらに、Tier1(無制限)がそのうちの8割から9割程度(従って、全体の7割から8割程度)を占めている。

例えば、各社とも、既存のTier1 やTier2の劣後債務について、グランド・ファザーリング・ルール(既得権認容ルール)を適用してきているが、こうした債務については、早期償還等を行い、段階的にソルベンシーII適格なものに変更してきている。

2023年末における自己資本の内訳は、以下の図表の通りとなっている(Allianz の数値は、TMTP(技術的準備金の移行措置)を適用した場合の数値となっている)。

なお、2021年末から2022年末にかけては、各社とも主として経済変動の影響を受けての調整準備金(reconciliation reserve)(従って、Tier1(無制限))の残高が大きく減少して、全体の自己資本残高も1割~2割程度と大幅に減少していたが、2022年末から2023年末にかけては、AXAとAvivaはほぼ横ばい、Allianzが大幅に増加、Generaliは増加、Aegonは大幅な減少となっている。これらは、各社の資本戦略等を反映する形となっており、その結果として、資本構成の内訳も変動している。

なお、各社とも、Tier1(無制限)だけで、SCRの100%水準を確保している。
自己資本の内訳(2023年末)
 
9 Tier1(無制限)は払込資本や剰余金等、Tier1(制限付)はグランド・ファザーリング・ルールに基づく劣後債務、Tier2は、劣後債務、Tier3は繰延税金資産等である。

(2024年09月04日「保険・年金フォーカス」)

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