2024年09月04日

欧州大手保険グループの2024年上期末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック-

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5|Aegon    
Aegonは、2023年9月30日に法定本籍地のバミューダへの移転が完了したと発表し、10月1日より、グループ監督者はDNB(オランダの中央銀行)から、BMA(バミューダ金融管理局)に移管された。ただし、本社はオランダのままでオランダの税務居住者であり、Euronext Amsterdamとニューヨーク証券取引所(NYSE)での上場は継続されている。このグループ監督者の変更は、Aegonの資本管理アプローチに重大な影響を与えることはないと述べている。

2023年7月4日に、ASRへのオランダの年金、生命保険、損害保険等の業務の移管と統合が完了したとの発表により、Aegonはオランダで規制対象の保険事業を行わなくなったため、ソルベンシーII制度の下で、DNBがAegonのグループ監督者であり続けることができなくなった。一方で、バミューダにはAegonの子会社4社がある。バミューダの規制制度は、EUのソルベンシーII制度及び英国のソルベンシーII制度との同等性が認められており、さらには米国のNAIC(全米保険監督官協会)によって、適格管轄区域及び相互管轄区域としても指定されている。
(1) SCR比率の推移
Aegonは、グループ全体のSCR比率の変動要因等について、2022年第3四半期までは四半期毎に分析結果を開示していたが、2022年第4四半期以降は、四半期及び半期毎に、地域別の分析結果を中心に公表してきている。

グループ全体のSCR比率、自己資本、SCRの推移については、以下の図表の通りとなっており、半期ベースでは以下の説明が行われている。

2024年上期末におけるSCR比率は、2023年末の193%から3%ポイント低下して、190%となった。

これは、2024年4月の7億ユーロのグランドファザー条項付きTier 2証券の償還、新しい2億ユーロの自社株買いプログラム、(発表された)2024年の中間配当及び(以前に発表された)中国の保険合弁会社であるAegon THTF Life Insurance Companyの自己資本の代替可能性によるヘアカットを反映している。保有資本と営業費用控除後の資本創出は9億ユーロで、これには、主に米国による1億4,000万ユーロのプラスの影響を伴う市場動向が含まれている。さらに、一時的な項目は2億9,200万ユーロと好調で、特に米国での経営行動の影響が含まれ、また、ASRの持分の影響も反映されている(Aegonのオランダ事業の業績は、ASRへの持分からの寄与という形で、一時的な項目として報告されており、グループのソルベンシーII比率に引き続き含まれている)。

なお、米国のRBC(リスク・ベースド・キャピタル)をソルベンシーIIに転換する手法については、移管契約の一部として、BMAと合意してきた、としている。これによれば、移行可能性の制限を反映して、自己資本はRBC CALの100%(毎年再評価)、必要資本はEIOPAのガイダンスに従って、RBC CALの150%に増加させられる。また、米国の持分項目についての調整には、主としてバミューダのCaptiveや規制対象外会社が含まれている。
AegonのSCR比率推移の要因/Aegonの自己資本とSCRの推移の要因
(参考)地域別のソルベンシー比率
地域別のソルベンシー比率は、以下の図表の通りとなっている。

1) 英国(Scottish Equitable plc)のソルベンシーII比率2023年末の187%から2024年上期末の189%に2%ポイント増加した。
・事業資本形成がプラスに貢献したが、持株会社への送金で相殺された。

2) 米国のRBC比率
2023年末の431%から2024年上期末の446%に15%ポイント増加した。
・事業資本形成が16% ポイント寄与したが、持株会社への送金により相殺された。
・株式市場の好調、金利上昇、信用毀損の回復により、市場動向は11%ポイントのプラスの影響を及ぼした。
・保険数理上の前提とモデルの更新、分散要因の変更及び再編費用により、 5% ポイントのネットでプラスの影響があった。

因みに、米国のソルベンシーII相当の比率は、2023年末で204%、2024年上期末で194%となっている。

また、ASRの持分に関する資本比率は、2023年末で137%、2024年上期末で139%となっている。
Aegonの地域別ソルベンシー比率
(2) 感応度の推移
Aegonの感応度については、2023年からはグループ全体ではなく、英国のソルベンシーIIと米国のRBC及びソルベンシーII相当に対するもののみが公表されている。そこで、以下の図表では、2021年末からは、グループ全体ではなく、英国と米国のソルベンシーII相当の数値に対する感応度を示している。

これによると、感応度は年によって大きく変化してきている。2023年末は2022年末と比べて、ほぼ全ての感応度が若干低下していたが、2024年上期末は米国での感応度が上昇している。

米国においては、変額年金ポートフォリオに対する任意準備金の設定等により、株式市場の影響を緩和してきた。一方で、米国の信用リスクに対する感応度が大きなものとなっている。2023年末以降については、2022年末までとは異なるシナリオで、信用デフォルトと信用格付けに区分して、影響を開示しているので、2022年末の数値との単純比較はできないことに注意が必要となる。
Aegonの感応度の推移
なお、感応度の算出に関して、以下の説明がなされている。

現実の市場への影響(例えば、金利の低下や株式市場の下落)が同時に発生する可能性があり、それはより深刻な複合的な影響につながる可能性があり、表に示されている個々の感応度の合計と等しくない場合がある。感応度は、完全なDTA(繰延税金資産)の許容を前提としている。特定の不利なシナリオの下で、該当する場合、DTAの一部が認められなくなる可能性がある。これにより、開示されている感応度に比べて感応度が高くなるが、DTAは時間の経過とともに回復可能である。米国のRBC比率では、2024年上半期において DTA の一部が許容されなかった。
(3) トピック
Aegonの2024年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2024年2月26日に、2023年7月21日に公表された、インドの合弁会社であるAegon Life Insurance Companyの株式56%のインドの金融サービス会社であるBandhan Financial Holdings Limitedへの売却が完了し、インドの合弁事業から撤退した、と発表した。

2024年3月19日に、4%の固定‐変動劣後債7(fixed-to-floating subordinated notes)を7億ユーロ償還する権利を行使すると発表した。これらのTier 2証券の償還は2024年4月25日から発効し、その時点で元本総額7億ユーロが未払利息と合わせて返済されることになる。以前に発表されたように、Aegonは債券を借り換える予定である。

2024年4月10日に、固定クーポン5.5%、期間3年の7億6,000万米ドルのシニア無担保債の価格設定に成功した、と発表した。この発行による純収益は、2024年4月25日付けでの、以前に発表された固定から変動への劣後債7億ユーロの償還を含む、一般的な企業目的に使用される。

2024年7月1日に、15億3,500万ユーロの自社株買いの完了を発表した。2023年7月6日に発表されたとおり、自社株買いのうち15億ユーロは、Aegon the NetherlandsとASRの合併取引に関連している。2024年4月9日に、上級管理職向けの株式報酬プランに関連して、この自社株買いが3,500万ユーロ増加したことを発表していた。

2024年7月8日に、2024年5月16日に発表された2億ユーロの自社株買いを開始し、不測の事態がない限り、2024年12月13日に完了する予定だと発表した。
 
7 一定期間、一定額の利息を支払った後、変動金利債に変わる劣後債
6|Zurich
Zurichは、ソルベンシーII制度の対象会社ではないが、2019年末までは、ソルベンシーIIと同等と考えられているSSTによる数値と社内の経済ソルベンシー比率であるZ-ECM(Zurich Economic Capital Model)を公表してきた。ところが、2020年からはSST比率での開示を中心に据えることに変更している。Zurichによれば、SSTはZ-ECMよりも安定性をもたらし、資本は基本的には同じ方法で管理される。

ZurichのSST比率は、監督当局であるFINMAと合意した内部モデルで算出している。
(1) SST比率の推移
2024年上期末のSST比率は、2023年末の234%から、2%ポイント低下して、232%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・成長のための増分資本を差し引いた営業資本形成により+16%ポイント

・金利・株価等変動・為替等の市場の影響で+12%ポイント(うち、金利の上昇で+7%ポイント、株価等変動で+3%ポイント、為替で+3%ポイント)

・資本行動で▲17%ポイント(配当支払いで▲14%ポイント、Kotak Mahindra General Insuranceへの70%出資で▲3%ポイント)

・2024年第1四半期におけるモデルと前提の更新によるマイナスの影響で▲11%ポイント、その他の影響で▲1%ポイント
Zurichのソルベンシー比率(SST)推移の要因
なお、AFR(利用可能財務リソース)は、2023年末の343億米ドルから、2024年上期末の361億米ドルに、18億米ドル増加しており、TC(目標資本)は、2023年末の147億米ドルから、2024年上期末の155億米ドルに、8億米ドル増加している。
(2) 感応度の推移
Zurichは、SST比率の感応度について、2020年からは、第1四半期末と第3四半期末の数値を公表してきている。

これによると、過去においては金利や信用スプレッドによる感応度がかなり高いものになっていたが、2021年からの数値は若干水準が低下していた。2023年第1四半期に金利の感応度が大きく上昇したが、その後は若干低下した水準となっている。

なお、Zurichは、「感応度は、個別ではあるが瞬間的な衝撃として考慮される。これらは最良推定値であり、非線形である。例えば、市場の動きの規模が変化すると、その時点の一般的な市場状況に応じて、SST比率への影響が不釣り合いに大きくなる(又は小さくなる)可能性がある。」と説明している。
ZurichのSST比率の感応度の推移
(3) トピック
Zurichの2024年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2024年1月4日に、インドのKotak Mahindra General Insuranceの51%の株式を取得して、インドの損害保険市場に参入する、と発表した。時価総額でインド第3位の民間銀行であるKotak Mahindra Bank Limitedとの戦略的提携は、(規制当局の承認と慣例的な決算調整を条件に)新たな成長資本と株式購入の組み合わせにより、Kotak Mahindra General Insuranceの株式51%を4億8,800万米ドルで取得する提案を通じて行われる。さらに、Zurichは将来的に最大19%の株式を追加取得する予定である、と述べた。

2024年1月30日には、Viridium GroupがドイツのZurich Life Legacyの買収を計画通りに完了しないことを知らされたとし、このポートフォリオの解決策を見つけることに尽力しており、オプションを検討する予定である、と発表した。なお、これはZurichの目標や資本管理計画には影響しない、としている。

2024年6月17日に、株式消却による資本削減を目的として、2月22日に発表した最大11億スイスフランの公開株式買い戻しプログラムを開始する、と発表した。

2024年6月19日に、Kotak General Insuranceの70%を取得し、2021年に外国直接投資規則が改正されて最大74%の外国人所有が認められて以来、インドに進出する初の外国保険会社となった、と発表した。

2024年6月26日に、AIGのグローバル個人旅行保険及びアシスタンス事業(AIG Travel)を6億ドル(及び潜在的な追加アーンアウト支払い)で買収する契約を締結したことを発表した。この事業はチューリッヒの旅行保険プロバイダーであるCover-More Group(Cover-More)と統合され、米国での展開を拡大する。この買収により、Zurichは新たなグローバルなリテール顧客基盤にアクセスでき、世界有数の旅行保険会社になる、と述べている。

(2024年09月04日「保険・年金フォーカス」)

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