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訪日外国人消費の動向(2024年4-6月期)-円安効果で四半期で初の2兆円超え、2024年は8兆円台が視野に

生活研究部 上席研究員 久我 尚子
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4――訪日外国人旅行消費額の内訳~円安による割安感と中国人観光客の回復傾向で買い物代が3割へ
次に訪日外国人旅行消費額の内訳について見ると、中国人の「爆買い」が流行語となった2015年4頃は「買い物代」の割合が約4割を超えて高かったが、その後、コロナ禍前までは「買い物代」は減り、「宿泊費」や「飲食費」、「娯楽等サービス費」が増えていた(図表5)。この背景には、中国政府が中国人の日本での「爆買い」による中国国内の消費低迷を懸念し、海外で購入した商品(高級腕時計や化粧品など)に課す関税を引き上げた影響や、コト消費志向の高い欧米からの訪日客が増えたこと、また、訪日客のリピーターが増えてモノを買うよりも体験を重視する志向が高まったことなどがあげられる。
一方でコロナ禍後にインバウンドが再開して以降は、当初、訪日中国人観光客の回復が遅れ、欧米からの訪日客が増えたことで「買い物代」の割合は4分の1程度に低下していたが、円安による割安感が高まるとともに、訪日中国人観光客の回復傾向が強まる中で「買い物代」の割合は上昇し、足元では3割を上回るようになっている(2024年4-6月31.1%で、2019年同期34.7%よ▲3.6%pt)。
4 「爆買い」は2015年のユーキャン新語・流行語大賞における年間大賞。
ここで、あらためてインバウンド消費全体に多大な影響を与える訪日中国人観光客の消費内訳を見ると、コロナ禍前の2019年では「買い物代」(52.9%)が過半数を、足元でも半数を占め(2024年4-6月49.9%)、全体と比べて「買い物代」が1割強高くなっている(図表6)。なお、2022年以降は調査時期によって「買い物代」の割合のバラつきが大きいが、前述の通り、中国政府による日本旅行の規制の影響で、従来の訪日客と属性が異なるためである。
なお、訪日中国人観光客は回復途上であるため、今後、回復傾向が強まることで、インバウンド全体の「買い物代」比率が更に高まる可能性がある。
訪日外国人旅行消費額の内訳について、国籍・地域による特徴を見ると、中国をはじめとしたアジア諸国ではモノ消費が、欧米諸国ではコト消費が多い傾向がある(図表7)。
なお、モノ消費が最も多いのは中国(49.9%)で、次いで香港(42.2%)、台湾(37.9%)、タイ(32.1%)、韓国(31.8%)、フィリピン(31.4%)までが3割台で全体を上回って続く。一方、コト消費(「宿泊費」や「飲食費」、「交通費」、「娯楽サービス費」)が最も多いのはドイツ(88.0%)で、次いでスペイン(86.2%)、英国(85.5%)、米国(84.4%)、豪州(82.8%)、インド(82.5%)、イタリア(82.2%)、カナダ(80.8%)、ロシア(80.7%)、フランス(80.2%)と8割台で続く。
5――おわりに~2024年は8兆円台が視野に、日本ならではの体験やナイトタイムエコノミーに期待
詳細を見ると、平均宿泊数がコロナ禍前と比べて若干増えるとともに(2024年4-6月:平均8.5日で2019年同期+0.5日)、1人当たりの消費額が1.5倍に増え(同:平均23万8,722円で同+54.0%)、特に欧米からの訪日客では2倍近くに増えていた。
なお、コロナ禍前に圧倒的な存在感を示した訪日中国人観光客は回復途上にあり、外客数は韓国に次ぐ2位にとどまっていたが(コロナ禍前の75%程度まで回復)、消費額で見れば首位を占め(同95%程度まで回復)、インバウンド消費全体の約2割を占めていた。
また、消費の内訳を見ると、円安による割安感や訪日中国人観光客の回復傾向の強まりから、買い物代の割合が上昇し、3割を超えていた。今後は更なる訪日中国人観光客の回復と、為替の状況から(原稿執筆時点の2024年8月では1米ドル140台を示し、ピーク時より円高方向に触れているが、コロナ禍前と比べれば依然として大幅に円安)、一層、買い物代の割合が高まる可能性がある。
とはいえ、中長期的にはリピーターも増えるとすれば、モノを買うというよりも、日本ならではの体験をしたいというコト消費の需要は強まっていくだろう。これまでも指摘してきたが、娯楽サービス(現地ツアーやテーマパーク、舞台・音楽鑑賞、スポーツ観戦、美術館、温泉やエステ、マッサージ、医療費など)は、現在のところ内訳の数%程度に過ぎないが、今後の伸びしろが期待される。特に日本ではナイトタイムエコノミーに該当するサービスや富裕層向けの質の高いサービスが不足しており5、新たなサービス需要の開拓は、成熟しつつある日本人の消費市場の更なる発展にもつながる。
サービス業では特に人手不足が深刻だが、労働生産性には改善の余地があり、効率的な労働投入(宿泊業などの繁閑の差が激しい業種における地域全体での雇用シェアや物品の共同購入など)や業務の効率化(デジタル化、無人化など)に加えて、付加価値の向上(デジタル化でサービスが同質化する中で文化芸術や地域文化の伝承などを根幹に据えたサービス提供など)などが指摘されている6。
少子高齢化による労働力不足という日本の構造的な課題によって、供給不足による機会損失も生じている。多方面から生産性向上を図る施策が進められることで、インバウンドのみならず、国内の個人消費の底上げも期待される。
5 国土交通省「ナイトタイムエコノミー推進に向けたナレッジ集」(平成31年3月)や株式会社日本総合研究所「平成30年商取引・サービスの適正化に係る事業(日本版ブロードウェイ構想に関する基盤調査)報告書」など。
6 経済産業省「サービス産業×生産性研究会」報告書(2022年3月)
(2024年08月21日「基礎研レポート」)

03-3512-1878
- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/04/22 | 家計消費の動向(二人以上世帯:~2025年2月)-物価高の中で模索される生活防衛と暮らしの充足 | 久我 尚子 | 基礎研レポート |
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