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男性の育休取得の現状(2023年度)-過去最高の30.1%へ、中小や非正規雇用が多い産業でも上昇
生活研究部 上席研究員 久我 尚子
3――育休取得期間~男性で1か月以上が4割超、教育やインフラ、サービス等で1か月以上が半数超
育休取得期間について見ると、男性では1か月前後に、女性では1年前後に集中しており、男女の育休取得期間には取得率と同様に大きな差がある(図表6)。
ただし、男性の育休取得期間は2018年度では「5日未満」(36.3%)が最も多く、2週間未満に71.4%が集中していた。しかし、2023年度では2週間未満は37.7%(2018年度より▲33.7%pt)へと半減し、最多は「1か月~3か月未満」(28.0%)で、1か月以上が41.9%を占めるようになり、育休取得期間は長期化している。
一方、女性では男性ほど大きな変化はないが、「6か月~8か月未満」がやや減り(8.8%→4.6%で▲4.2%pt)、「1年~1年半未満」(4.8%→9.3%で+4.5%pt)がやや増えている。
産業別に2023年度の男性の育休取得期間を見ると、いずれの産業でも全産業と同様、女性と比べて短期間だが、2週間未満に大半が集中して取得期間が短期間の産業と、1か月~3か月未満あたりに集中して取得期間1か月以上が半数を超える産業に大別できる(図表7)。前者には「宿泊業,飲食サービス業」(2週間未満が83.7%)や「金融業,保険業」(同76.1%)、「複合サービス事業」(同60.6%)など、後者には「教育,学習支援業」(1か月以上64.2%)や「鉱業,採石業,砂利採取業(同60.5%)」、「電気・ガス・熱供給・水道業」(同58.5%)、「サービス業(他に分類されないもの)」(57.6%)、「学術研究,専門・技術サービス業」(56.2%)、「運輸業,郵便業」(51.2%))などがあげられる。
育休取得期間と育休取得率の傾向をあわせてみると、「生活関連サービス業,娯楽業」や「金融業,保険業」のように育休取得率が高い産業であっても、取得期間は必ずしも長いわけではない。一方、「電気・ガス・熱供給・水道業」や「サービス業(他に分類されないもの)」、「学術研究,専門・技術サービス業」、「運輸業,郵便業」のように育休取得率が比較的高く(全産業平均を上回る)、取得期間も1か月以上で比較的長い産業もある。一方、「教育,学習支援業」のように取得率が低くても取得期間は比較的長い産業もある。よって、現在のところ、男性の育休取得状況は産業によって様々であり、この背景には、前節で述べたような戦略的な男性の育休取得促進環境の有無のほか、雇用形態や組織風土の違いに加えて、裁量労働など業務における個人の裁量の大きさといった影響があげられる。
また、男性の育休取得期間が女性と比べて短い背景には、現在のところ、育児休業給付には上限額が定められており4、通常勤務時と比べて収入が減少する世帯もあることや、育児休業制度が柔軟な形に整備されても、評価制度が従来と変わらないのであれば、数か月の休業が、その後のキャリアへ与える影響が不透明であることもあげられる。一方で厚生労働省の有識者会議では、育児休業給付の給付率を引き上げることで、現在は休業前賃金の67%で社会保険料が免除されると手取り収入は実質的に8割程度となるところを実質10割程度(上限28日)とする議論がなされ5、2025年度開始に向けて調整が進められている。
女性について産業別に2023年度の育休取得期間を見ると、大半の産業で1年前後にピークがあり、8か月以上が7割以上を占めるが、「生活関連サービス業,娯楽業」(8か月以上が65.6%)や「鉱業,採石業,砂利採取業」(同63.6%)、「不動産業,物品賃貸業」(同68.3%)では8か月以上が7割を下回る。なお、このうち「不動産業,物品賃貸業」(1か月未満が25.5%)や「生活関連サービス業,娯楽業」(3か月未満が22.0%)では男性並みの短期間取得者も目立つ。
逆に、「運輸業,郵便業」(2年以上が23.0%、うち3年以上が12.5%)や「複合サービス事業」(2年以上が11.3%)では2年以上の長期間取得者が1割を超える。
4 厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」(令和6年8月1日改定版)によると、「出生時育児休業給付金」(最大28日間)は休業開始前賃金の67%(支給上限額284,964円)、「育児休業給付金」は休業開始から180日までは育児休業開始前賃金の67%(支給上限額315,369円)、180日以降は50%(支給上限額235,350円)が支給される。なお、休業中は社会保険料が免除されるため、休業開始前賃金の67%の手取り収入は実質的に8割程度となる。
5 厚生労働省「労働政策審議会職業安定分科会 雇用保険部会」(第186回2023年11月13日)資料
事業所規模別に見ると、男性では30~499人では1か月前後に、500人以上と5~29人では1か月前後と2週間前後にピークがある(図表9)。育休取得率は、人手不足の懸念が強いと見られる小規模事業所ほど低い傾向があったが、取得期間は必ずしも同様ではない。大規模事業所と比べて中規模の方が長期間取得者が比較的多く、これは大企業傘下の大規模事業所には育休取得を促進しているものの短期間の取得にとどまる産業と月単位など比較的長期間取得する産業が混在する影響と見られる。
なお、女性では、事業所規模によらず1年前後が多い。また、男性と同様に、育休取得率は小規模事業所ほど低い傾向があったが、取得期間は必ずしも同様ではない。例えば、1年以上の割合は5~29人で最も多い(49.7%、500人以上では45.0%、100~499人では43.5%、30~99人では42.5%)。
4――おわりに~今後の課題は代替要員の確保や評価、仕事と家庭の労働総量の見直しも必要
産業別に見ると、全業種で男性の育休取得率は上昇しており、2023年度の首位は「生活関連サービス業,娯楽業」(55.3%)で過半数を占め、このほか例年通り、「金融業,保険業」と「学術研究,専門・技術サービス業」、「情報通信業」も上位にあがっていた。「不動産業,物品賃貸業」や「卸売業,小売業」、「宿泊業,飲食サービス業」では2割前後を占めて比較的低いものの、いずれも昨年より上昇していた。なお、このうち「宿泊業,飲食サービス業」や「卸売業,小売業」では女性でも育休取得率が比較的低いが、従来から非正規雇用者が多く、正規雇用者と比べて育休取得環境が整っていないことなどが影響している様子がうかがえた。
また、事業所規模別には大規模であるほど男性の育休取得率は高いものの、小規模を含めた全てで上昇しており、もともと取得率が低い小規模ほど上昇幅は大きくなっていた。
男性の育休取得期間については、2018年度では2週間未満の短期間に約7割が集中していたが、2023年度は半減し、1か月以上が4割を超えるようになり、取得期間は長期化していた。ただし、必ずしも育休取得率が高い産業で取得期間が長いわけではなく、現在のところ、組織による環境の違い(戦略的な男性の育休取得促進環境の有無、雇用形態や組織風土の違い、裁量労働など業務における個人の裁量の大きさなど)によって状況は様々である様子が見て取れた。
政府は2025年度に男性の育休取得率50%、2030年度に85%との目標を掲げている。この目標に向けて、2025年度からは育児休業給付の引き上げ(手取りが実質10割)も予定されている。このような中では今後は育休取得者の代替要員の確保が一層、大きな課題となるだろう。
既に人手不足感のある中小企業に対しては行政による具体的な支援が必要であり、例えば、社員が育休を取得した際の助成金の支給、少人数体制における働き方改革や育休取得に向けた人員計画の策定支援などがあげられる。
厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査」によると、育休取得者の代替方法では「代替要員の補充を行わず、同じ部門の他の社員で対応した」(79.9%)が8割を占めて圧倒的に多い。一方、「派遣労働者やアルバイトなどを代替要員として雇用した」(15.0%)や「事業所内の他の部門又は他の事業所から人員を異動させた」(14.6%)といった組織外部からの代替要員の補充は2割に満たない。男性の育休取得が強く推し進められる中では、3年前と現在の企業の雇用管理の取り組み方は異なるのかもしれないが(例えば、男性の育休取得を促進するために、あらかじめ代替要員をある程度確保する方向が強まっているなど)、現在ではコロナ禍が明けて経済活動が平常化する中で人手不足の深刻さは増しているため、代替要員の確保には、やはり課題があるだろう。
先日、「「子持ち様から「お互いさま」へ 休暇などで不公平感なく」(日本経済新聞、2024/7/22)という記事を目にした。「子持ち様」とは「子どもの急病で仕事を休んだり、育児休業を取ったりする人」を指し、今、SNS等では「子持ち様」の業務を代替し、負担感を強く感じた同僚等の批判の声が散見されるようだ。記事では、育休中の社員に支払うはずであった賞与を原資に業務を代替した社員に報酬を支払う取り組みを実施した企業では、育休中の社員側にも申し訳なさが軽減される効果があり、男性の育休取得率が更に上昇したそうだ。
近年の女性の活躍推進政策やハラスメント意識の高まり等によって、仕事と家庭を両立することへの理解は浸透しつつあるが、業務負担の増した社員に対する適切な評価という面では、まだ途上の組織が多いだろう。更なる男性の育休取得浸透に向けては、評価・報酬制度の見直しとともに、取得期間が長期化することを前提とした採用などの人員計画の策定も必要だ。
なお、記事では、子育てだけでなく、どんな理由でも通常の有給休暇に加えて取得できる休暇を導入し、誰でも休みやすい環境を作ることで「お互い様」という雰囲気を作ることができた企業も紹介されていた。
「子持ち様」を批判する側は業務の負担が増しているわけだが、「子持ち様」自身も両立にかかる負担は大きい。今後、労働力不足が一層深刻になる中では、仕事の総量が変わらなければ、一人一人の負担感はますます強まることになる。業務の効率化や自動化を進めるなど生産性の向上を図ることで、仕事の総量を見直す取り組みが必要だ。企業が持続可能な成長を目指すためには、社員一人一人の働きやすさを考慮した柔軟な制度や文化の構築が求められる。
職場の公平性と効率性が高まることで、全ての社員が安心して働ける環境にあれば「お互い様」という余裕が生まれるのではないか。
(2024年08月15日「基礎研レポート」)
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- プロフィール
【職歴】
2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
2021年7月より現職
・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
・総務省「統計委員会」委員(2023年~)
【加入団体等】
日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society
久我 尚子のレポート
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