2024年08月13日

いわゆる身元保証サービスとは何か(1)~高齢者等終身サポート事業者ガイドライン制定の背景~

社会研究部 取締役 部長 鈴木 寧

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3|身元保証等高齢者サポート事業の実態
2023年8月には、総務省行政評価局が「身元保証等高齢者サポート事業における消費者保護の推進に関する調査」結果報告書(以下、報告書)を公表し、事業者の実態が明らかにされた。報告書では、身元保証や日常生活支援、死後事務等のサービス事業を「身元保証等高齢者サポート事業」と位置づけ、調査を行った9

事業者が提供しているサービスは、「身元保証サービス」、「日常生活支援サービス」、「死後事務サービス」に分類され極めて多岐にわたったサービスが提供されている(図表2)。
(図表2)身元保証等高齢者サポート事業において提供されるサービス例
(図表3)事業者の母体となっている業種別の事業者数 また、当事業の運営主体は司法書士等の士業やボランティア団体、賃貸住宅等への入所支援事業者から参入していることが明らかになった(図表3)。

これら事業者の事業開始年数では、10年以内が約84%であり、とりわけ5年以内が約56%であるなど、事業年数が浅い事業者がほとんどであった10。加えて、事業者の従業員数は10名未満であるところが約8割となっており、数多くの零細事業者が近年急激に参入している状況となっている。
さらに業務運営をみると、消費者委員会の建議で指摘された消費者保護への取組みについては、契約時の重要事項説明書を作成している事業者はわずか2割であった。また、預託金についても約8割が「預託金あり」とし、そのうち約7割の事業者が「自社の専用口座で管理する」と回答するなど、未だ資産保全に向けて十分な対応がなされているとはいえない状況だった。利用者が亡くなった後の財産については、寄附・遺贈を約7割の事業者が受け取っている実態も明らかになり、利用者のサービス利用が少ないほど事業者への寄附・遺贈金額が大きくなるという利益相反が発生していないかも懸念される。

そこで報告書では、当事業の特徴として次の点を挙げて、当事業が一般的な消費者契約と比べて消費者保護の必要性がより高いことを指摘している。

(1) 契約者が、判断能力が不十分になることも想定される高齢者であること。

(2) 死後事務等が履行される期間を含めると、契約期間が長期にわたること。

(3) サービス内容が多岐にわたり、かつサービス提供の方法や費用体系も事業者により異なるため、事業者の比較検討が困難であること。

(4) 契約金額が高額で、死後事務等、費用の一部を預託金として先行支払いする場合が多いこと。

(5) 主に死後事務について、契約内容の履行を確認できない場合が多いこと。

これらの点を踏まえて、報告書では高齢者が安心して利用できる仕組みとして、公正な契約手順の確保、預託金の適切な管理方法のルール化、成年後見制度への円滑な移行の必要性等について問題提起を行っている。
 
9 調査では、インターネットによるホームページ検索、自治体等によるヒアリングを通じて、全国で412事業者を把握。
10 事業開始年別の事業者数では、204事業者中で5年以内が115事業者(56.4%)、10年以内で171事業者(83.8%)となっている。

4――さいごに

4――さいごに

本稿では、近年、増加している身元保証会社における実状とガイドラインが制定された背景について、政府の報告書等を引用しながらとりまとめた。報告書を見る限りでは、事業者は消費者のニーズを捉えて幅広いサービスを提供している一方で、かつて発生した消費者問題の教訓が業務運営に必ずしも活かされていないケースが多いように思われる。これは、事業者の規模が小さいことや、事業継続年数が浅いという点もあるとは思うが、報告書でも指摘されている当事業における契約の特徴を踏まえて、より消費者保護に留意した運営が望まれる。

とりわけ、事業者における運営ガバナンスの可視化と事業継続性については、あらゆる手段を尽くして担保されるべきであろう。この点がクリアできない限りは、消費者は安心して事業者を選択し、契約することはできない。

次稿では、今年6月に公表された「高齢者等終身サポート事業者ガイドライン」について紹介する。

(2024年08月13日「基礎研レター」)

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社会研究部   取締役 部長

鈴木 寧 (すずき やすし)

研究・専門分野
社会研究部統括

経歴
  • 【職歴】
    1988年 日本生命保険に入社
    日本生命にて国際保険部、米国日本生命(ニューヨーク支店、ロサンゼルス支店)、官公庁、外資系企業等の法人営業部門等を経て、2020年ニッセイ基礎研究所入社。
    2024年4月より現職

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