2024年08月05日

2022年データによる65歳時点の健康余命~新型コロナで平均余命は短縮したが

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

健康寿命は、3年おきに算出されており、2019年まで男女とも延伸し続けてきた。健康寿命は、大まかに言えば、各年齢の生存者数とその年齢における健康な人の割合で算出されており、これまでの健康寿命の延伸は、寿命の延伸と、高齢期における健康状態の改善に支えられてきた。

2022年も、2019年と比べて高齢期の健康状態は引き続き改善していたが、厚生労働省の簡易生命表によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19。以下、「新型コロナ」とする。)の影響などによって、2021、2022年と2年連続して平均寿命は短縮した。その結果、2022年の健康寿命(0歳時点の健康余命)は「2022年健康寿命はコロナ禍の影響で伸び悩み?コロナ禍の影響はどの程度か。1」で推計したとおり、2019年と比べて男性は短縮し、女性は微増にとどまった。

65歳以上の余命、および健康余命には、どの程度の影響があったのか、本稿では、「2022年簡易生命表」を使って65歳時点の「2022年健康余命」の概算結果を紹介する。さらに、新型コロナによる死亡を除去した生命表を作成して、新型コロナによる死亡を除去した2022年の健康余命の試算も試みる。なお、本稿における「健康寿命(余命)」は、国が公表している健康寿命の定義である「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」とし、「国民生活基礎調査2」で3年に1回尋ねている「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問の結果を用いて算出する。
 
1 村松容子「2022年健康寿命はコロナ禍の影響で伸び悩み?コロナ禍の影響はどの程度か。」ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート(2023年10月10日)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=76269?site=nli
2 「国民生活基礎調査」は毎年実施されているが、健康寿命の算出に使用する設問を含む健康調査は3年に1回実施されているため、それにあわせて健康寿命も3年ごとに公表されている。

2――2022年 65歳時点の健康余命は、男女とも短縮

2――2022年 65歳時点の健康余命は、男女とも短縮

1|2022年 65歳時点の健康余命
図表1に示すとおり、65歳時点の健康余命は、2019年まで延伸し続けてきた。延伸しているだけでなく、2019年は、2016年と比べて、平均余命が男性で0.28年、女性で0.33年延伸した一方で、健康余命は男性0.34年、女性0.56年延伸しており、65歳時点の健康余命の延伸は、平均余命以上に延伸しており、不健康期間が短くなっていた3

2022年の健康寿命について、「2022年簡易生命表」と、「2022年国民生活基礎調査」の結果を使って、2019年の算出方法に倣って筆者が計算してみたところ、男性が14.35年、女性が16.86年となった4。2019年と比べて、この3年間で男性が0.08年短縮し、女性が0.15年延伸していた。この3年間で、余命は男性が0.39年、女性が0.33年短縮していたことから、平均余命と健康余命の差、すなわち不健康期間は男性が5.09年、女性が7.45年と、男女とも過去最短となった。
図表1 65歳時点の平均余命と健康余命の推移
 
3 村松容子「2019年における65歳時点での“健康余命”は延伸~余命との差は短縮傾向」ニッセイ基礎研究所 基礎研レター(2021年2月16日)https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=66966?site=nli
4 厚生労働科学研究「健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究」のロジックを使って計算をした。
2|日常生活に影響がある人の割合は、高年齢部分で引き続き低下
それでは、健康上の問題で日常生活に影響がある割合は、どの程度改善しているのだろうか。

健康寿命の計算に使われているのは、「国民生活基礎調査」の「あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか」という設問である。男女それぞれ年齢群別に、2016年調査からの推移を図表2に示す。2022年は、2019年と比べて、コロナ禍を経たこの3年間で65~79歳で横ばい、80歳以上では低下しており、特に高年齢で、コロナ禍を経ても日常生活に影響がある割合は、継続的に改善していた。
図表2 健康上の問題で日常生活に影響がある割合の推移

3――新型コロナによる死亡を除去した場合

3――新型コロナによる死亡を除去した場合の健康寿命計算の試み

簡易生命表とあわせて、厚生労働省からは、代表的ないくつかの死因について、その死因を除去した場合の平均余命の延び5、および特定の死因別死亡確率6が5歳刻みで公表されている。これによると、2022年生命表において、新型コロナによる死亡を除去すると、65歳時点の余命は男性が0.22年、女性が0.18年延伸すると推計されている7。新型コロナによる死亡を除去した場合の平均寿命(0歳時点の平均余命)が男性で0.24年、女性で0.20年延伸すると見積もられているのに対して、65歳時点の平均余命が男性で0.22年、女性が0.18年延伸すると見積もられていることから、新型コロナによる平均寿命への影響のほとんどは65歳以上で起きていることがわかる8

これらの公表されている情報から新型コロナによる死亡を除去した場合の生命表の再現を試みたうえで、その生命表を使用して、2022年の健康寿命を試算した9

その結果、新型コロナによる死亡を除去した時の65歳時点の健康余命は男性が14.48年、女性が16.95年と算出され、新型コロナによる死亡を含んだ結果よりも男女それぞれ0.13年、0.09年延伸した。2019年と比べると、新型コロナによる死亡を除去すれば健康寿命は男女とも延伸していた。

厚生労働省から公表されている特定の死因を除去した平均余命の延びや、特定の死因による死亡確率は、人はいずれ何らかの死因で死亡することを前提として、一定の仮定に基づく推計10ではあるが、新型コロナによる影響が一時的なものだと考えれば、健康寿命は引き続き男女とも延伸していると考えても良さそうだ。

なお、厚生労働省から公表されているのは、新型コロナがなかった場合の5歳ごとの平均余命の延びと、各年齢(5歳刻み)の人が、将来新型コロナで死亡する確率だけであり、示された数値の有効桁数も少ない。そのため、ここでの試算はやや粗いものであることにも注意いただきたい。
 
5 厚生労働省「令和4年簡易生命表」4表 特定死因を除去した場合の平均余命の延び(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040077196&fileKind=0
6 厚生労働省「令和4年簡易生命表」第3表 死因別死亡確率(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040077195&fileKind=0
7 新型コロナの副反応を原死因としたものは含まない。
8 厚生労働省「令和3年簡易生命表の概況」「令和4年簡易生命表の概況」によると、死因別では、2021年は新型コロナや老衰等による死亡が、2022年は新型コロナ、老衰に加えて心疾患(高血圧性のものをのぞく)等による死亡が、平均寿命を前年よりも短縮させた主な要因とされている。平均寿命に対する寄与年数は、新型コロナによるものが大きい。
9 5歳刻みの新型コロナによる死亡を除去した時の平均余命の延びから、新型コロナによる死亡を除去した時の各年齢以上の定常人口と各年齢における生存数の関係を算出し、それと整合的な各年齢の死亡率を逆算した。確認のため、上記のように逆算で算出した各年齢の死亡率を使って、新型コロナによる死亡確率(今後、その要因で死亡する確率)を算出し、公表資料と大きな乖離がないことを確認した。
10 厚生労働省「令和4年簡易生命表」簡易生命表の概要・作成方法(https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000040077197&fileKind=2

4――おわりに

4――おわりに

以上のとおり、2019年と比べて簡易生命表による平均寿命は、男女とも短縮しており、日常生活に影響がある割合は高年齢部分で引き続き改善していた。特に、高年齢女性の改善は大きい。

2019年の計算方法に倣って2022年のデータで、65歳時点の健康余命を計算してみたところ、男性が14.35年、女性が16.86年となった。2019年と比べて、この3年間で男性が0.08年短縮し、女性が0.15年延伸した計算となる。日常生活に影響がある割合の改善は、健康寿命延伸にプラスの効果があったと思われるが、平均寿命の短縮がマイナスの効果となったことにより、男性は健康寿命も短縮していたが、女性は健康状態改善の影響が大きく健康寿命は延伸したと考えられる。

余命と不健康余命の差である不健康期間は短縮していた。その要因は、新型コロナにより余命が短縮したことにあると考えられることから、今回の不健康期間の短縮は、望ましい状態であるとは言えない。新型コロナによる死亡を除去した計算を試みた結果、2019年と比べて男女とも健康寿命は延伸していた。新型コロナによる死亡の影響が一時的だと考えれば、健康寿命は引き続き延伸傾向にあると考えても良さそうだ。

なお、高齢期の健康余命については、介護保険関連データを使って要介護2以上にならない期間を示す「平均自立期間」を利用することもある。人口または公的介護保険の第一号被保険者数に対する要介護2~5の認定者数で、「自立できていない割合」を利用するものである。しかし、コロナ禍においては感染を恐れて介護サービスを利用しなかったり、感染拡大を抑止するために部分的にサービスをストップするなどの対策がとられたため、介護保険の利用状況もイレギュラーに推移しており、人々の健康状態やサービスの健康状態や利用意向を反映できていない可能性がある。

自治体等では、健康行動の促進や日常生活を充実させるために、健康寿命や健康余命を指標として利用してきた。しかし、2022年については、平均寿命が短縮してしまったことで、こういった取組みの成果が、健康寿命の延伸からは見えにくかった可能性がある。

次の健康寿命・健康余命の算出時には、コロナ禍に影響されることなく、寿命と健康寿命・健康余命の延伸を期待したい。

(2024年08月05日「基礎研レター」)

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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

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