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- 中国経済の現状と注目点-好調は持続せず、不動産不況と貿易摩擦で弱り目に祟り目の中国経済
2024年07月24日
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4.注目点
上述のように、4~6月期の成長率は、前期から減速した。個人消費など、前年の同期にみられた経済再開によるリバウンドの影響は割り引いて評価する必要はあるが、各種の指標を総合すれば、経済全体として依然勢いを欠く状況にあることは間違いない。その構図は前期から変わらず、外需や政策支援の効果により成長が支えられている。一方、不動産不況の出口は依然としてみえず、安定した内需の要である個人消費も力強さを欠いたままだ。引き続き、政策支援の効果の持続性や不動産不況の先行きに注目する必要がある。また、春先以降欧米諸国との間で激しくなりつつある貿易摩擦も、目下の中国経済を支える堅調な輸出の押し下げとなる恐れがある。
インフラ投資に関しては、4・5月と減速がみられた。財源となる中央政府の特別国債や地方政府の専項債の発行が一時停滞したことが影響したとみられる。もっとも、4月下旬に開催された中央政治局会議で「超長期特別国債と地方専項債の発行加速・利活用」について言及された後、発行は再び昨年並みのペースを取り戻している。今後も発行の進捗に注視する必要はあるが、年後半にかけて再び一定の下支え効果を発揮することが期待される。他方、地方政府の隠れ債務規制の影響で、融資平台の資金調達が低迷している(図表-13)。上述の中央政治局会議では、地方債務の問題について「債務の圧縮と安定した発展を確保」するとされ、規制が経済の強いブレーキとならないよう配慮する姿勢を示しているが、その方針通りにコントロールできるかは不確かであり、引き続き注視が必要だ。
製造業に関しては、需要不足にもかかわらず、生産活動や設備投資が堅調な状況が続いている。製造業の高度化や設備更新の促進といった政策支援が奏功しているとみられるものの、実需が弱いなかで政策主導の堅調さがいつまで持続するか、先行きは不透明だ。生産在庫バランスの推移をみると、春先以降、一時みられた在庫積み増しの勢いは弱まっている(図表-14)。需要がすぐに改善することは見込みづらいため、早晩在庫調整圧力が高まり、生産の勢いが弱まる可能性が高い。こうしたなか、7月19日に開催された国務院常務会議では、超長期特別国債で調達した資金用途を、設備更新と耐久財の買い替え支援等にも拡大する方針が決まり、需要喚起のテコ入れが図られる見込みだ。これにより政策支援の効果がどの程度長引くか、見極める必要がある。
インフラ投資に関しては、4・5月と減速がみられた。財源となる中央政府の特別国債や地方政府の専項債の発行が一時停滞したことが影響したとみられる。もっとも、4月下旬に開催された中央政治局会議で「超長期特別国債と地方専項債の発行加速・利活用」について言及された後、発行は再び昨年並みのペースを取り戻している。今後も発行の進捗に注視する必要はあるが、年後半にかけて再び一定の下支え効果を発揮することが期待される。他方、地方政府の隠れ債務規制の影響で、融資平台の資金調達が低迷している(図表-13)。上述の中央政治局会議では、地方債務の問題について「債務の圧縮と安定した発展を確保」するとされ、規制が経済の強いブレーキとならないよう配慮する姿勢を示しているが、その方針通りにコントロールできるかは不確かであり、引き続き注視が必要だ。
製造業に関しては、需要不足にもかかわらず、生産活動や設備投資が堅調な状況が続いている。製造業の高度化や設備更新の促進といった政策支援が奏功しているとみられるものの、実需が弱いなかで政策主導の堅調さがいつまで持続するか、先行きは不透明だ。生産在庫バランスの推移をみると、春先以降、一時みられた在庫積み増しの勢いは弱まっている(図表-14)。需要がすぐに改善することは見込みづらいため、早晩在庫調整圧力が高まり、生産の勢いが弱まる可能性が高い。こうしたなか、7月19日に開催された国務院常務会議では、超長期特別国債で調達した資金用途を、設備更新と耐久財の買い替え支援等にも拡大する方針が決まり、需要喚起のテコ入れが図られる見込みだ。これにより政策支援の効果がどの程度長引くか、見極める必要がある。
不動産市場に関しては、消費者の先行きに対するマインドが住宅市場の不況を長引かせている。例えば、住宅の売れ行きを、予約販売(未竣工のうちに販売する物件の販売)と現物販売(既に竣工済みの物件の販売)の別にみると、予約販売は前年比で減少が続く一方、現物販売は長引く不動産不況の間も好調に推移している(図表-15)。住宅需要自体は十分に存在しているものの、予約販売に対する忌避感が根強いことが示唆される。また、住宅価格の値下がり期待も強まっている(図表-16)。これに対して、5月に発表された不動産追加緩和策の規模は不十分であり、目覚ましいマインドの好転は期待しづらい。また7月15日から18日にかけて開催された三中全会では不動産リスクへの対処が言及され、同会議で採択された文書では不動産市場にかかわる制度改革の方針が示されたものの、目下の不況脱却に関する追加具体策は示唆されなかった。今後に開催される党や政府の重要会議(中央政治局会議や国務院常務会議など)を節目として、追加対策がとられるとみられる。例えば政策性金融機関の動員や中央・地方財政のより積極的な関与などが想定され、都度、その規模感などを評価する必要があるが、6月時点の実績を踏まえると、24年中に不況から脱却する可能性は低い。
貿易摩擦に関しては、5月に米国が301条に基づく対中追加関税の関税率引き上げを発表したほか、6月にはEUが中国からの輸入EVに対する関税引き上げを決めた(それぞれ、8月、7月から実施)。これらの対象となる製品の対米・EU輸出の規模は23年実績で300億ドル強と、輸出総額(3兆ドル強)に対して限定的であり、直接的な押し下げは大きくないとみられる。ただし、対中追加関税の措置は、米・EU以外にトルコでも実施されているほか、カナダでも検討されている模様だ。追加関税を課す国や対象製品が広がりを見せれば、輸出に加えて設備投資にまで影響が拡大する恐れがある。さらに25年まで展望すると、米国でトランプ政権が発足した場合に対中輸入関税強化が実現するリスクもあり、中国にとっては不安な状況が続くことになるだろう。
貿易摩擦に関しては、5月に米国が301条に基づく対中追加関税の関税率引き上げを発表したほか、6月にはEUが中国からの輸入EVに対する関税引き上げを決めた(それぞれ、8月、7月から実施)。これらの対象となる製品の対米・EU輸出の規模は23年実績で300億ドル強と、輸出総額(3兆ドル強)に対して限定的であり、直接的な押し下げは大きくないとみられる。ただし、対中追加関税の措置は、米・EU以外にトルコでも実施されているほか、カナダでも検討されている模様だ。追加関税を課す国や対象製品が広がりを見せれば、輸出に加えて設備投資にまで影響が拡大する恐れがある。さらに25年まで展望すると、米国でトランプ政権が発足した場合に対中輸入関税強化が実現するリスクもあり、中国にとっては不安な状況が続くことになるだろう。
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年07月24日「Weekly エコノミスト・レター」)
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経歴
- 【職歴】
・2006年:みずほ総合研究所(現みずほリサーチ&テクノロジーズ)入社
・2009年:同 アジア調査部中国室
(2010~2011年:北京語言大学留学、2016~2018年:みずほ銀行(中国)有限公司出向)
・2020年:同 人事部
・2023年:ニッセイ基礎研究所入社
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
三浦 祐介のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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