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長期投資におけるリターンとリスク-長期投資では年率リターンと年率リスクで判断してはいけない

金融研究部 熊 紫云
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3――長期投資の場合のリスク
√T倍ルールは1年間のリスクをσとして、投資期間がT年間の場合、T年間のリスクはσのT倍になるのではなく、それよりは小さくσの√T倍になるという簡便法である。
1年間がσだとすると、2年間でσ×√2、3年間でσ×√3…T年間のリスクの推計値はσ×√T倍になる。√T倍ルールの根拠については、補論としてこのレポートの最後に書いたので、興味のある方はご覧いただきたい。
では、実際に、第2章と同様に、1989年10月末から2023年11月末までのS&P 500(円建て、配当込み)の日次、週次、月次リターンを使用して累積実績リスクを計算してみよう。結果は図表7の通りである。
続いて、√T倍ルールに基づく推計値(以下、√T倍推計値)が実績値とどれくらい近いかを確認する。図表7の1日間・1週間・1か月間のリスク(該当行:太字)を所与として、それを元に√T倍ルールに基づく推計値を計算してみた(図表8)。
具体的には、1日間の累積実績値に√4、√9、√16、√25、√36、√49を掛けた数値が、それぞれ4日間、9日間、16日間、25日間、36日間、49日間の√T倍推計値になる。
例えば、1日間の実績リスクが1.4%なので、それに2、3、4、5、6、7を掛けて、それぞれ2.8%、4.2%、5.6%、7.0%、8.5%、9.9%の√T倍推計値を得ることができる。結果は図表8の通りである。
図表7と図表8を比較すると、結果として、データ数が少ないため信頼性が劣る月次データの16か月間から49か月間までのリターンから算出された標準偏差を除いて、実績値は推計値との差はあまりない。
従って、今回はこのデータに限っての検証だが、√T倍ルールはある程度使えると言えるのではないだろうか。
最後に、第1章で、今後1年間ではS&P 500は元本割れリスクが30%もあるから怖くて投資できないと思う人がいても不思議ではないと書いたが、長期投資での元本割れリスクはどのくらいあるのかを確認する。
図表1を元に、S&P 500のリターンが正規分布に従い、期待リターンを年率10%で、標準偏差を年率20%と想定すると、√T倍ルールを使って長期投資のリスクを推計するとの前提で、投資期間ごとに、累積リターンが▲30%、▲10%、0%、10%、30%、50%、100%以下となる累積確率を計算してみた。結果は図表10の通りである。
一方で、投資期間が長くなるにつれ、損する可能性が小さくなっていくとともに、累積リターンが高くなる可能性が大きくなっていく。投資期間が10年間の場合、100%以下になる確率が17.39%しかないので、逆に言うと、資産残高が倍以上になる確率が82.61%もある。投資期間が20年間を超えたら、100%以下になる確率は0%で、すべてのケースの資産残高が倍以上になる。しかし、リターンが正規分布に従うとの単純な前提で計算しているので、実際に試算結果のようになるとは限らないが、20年後、25年後等、長い投資期間になるほど、高いリターンを獲得する可能性が大きくなることが分かるのではないだろうか。分かりやすく金額で説明すると、投入元本が100万円とすれば、10年後には80%強の確率で200万円以上になり、15年後にはほぼ100%の確率で、200万円以上になるということである。
(2024年07月19日「ニッセイ基礎研所報」)
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