2024年07月17日

シングル高齢者の増加とその経済状況-未婚男性と離別女性が最も厳しい

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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7――シングル高齢者世帯の資産の状況

それでは、これまでにみたような低収入、無年金または低年金のシングル高齢者は、収入不足を補う資産を保有しているのだろうか。次に、文化センターの調査から、シングル高齢者世帯の資産状況について、性別、配偶関係別に分析した(図表6)。なお、この設問は、高齢者本人だけではなく、家計を同一とする世帯全体の保有資産を尋ねたものである。

まず男性では、最も低い「100万円未満」は、やはり「未婚」が最も多く、約4割を占めた。続いて「離別・死別」が約3割、「配偶者あり」が約2割だった。女性については、「100万円未満」が最も多かったのは「離別・死別」で2割強、続いて「配偶者あり」が約2割、「未婚」が約1割だった。
図表6 配偶関係別にみた高齢者世帯の資産状況

8――終わりに

8――終わりに

本稿で見てきたことをまとめると、未婚化や離婚の増加等により、配偶者のいないシングルの高齢者が増加している。1980年代には、未婚や離婚は少数派で、中年以降は、一部の死別を除けば「有配偶」が大半だった。ところが2020年には、「未婚」や「離婚」が大きく増加し、男女いずれも、65歳の4人に1人はシングルという状況になっている。

そこで本稿では、まずシングル高齢者の経済面について整理した。「雇用形態等」と「有業率」、「本人年収」、「年金の受給状況」、「世帯の金融資産」の五つの指標について、配偶関係別に分析すると、シングルか配偶者がいるかで差があることが確認できた。特に、男性では「未婚」、女性では「離別・死別」が、各指標において、概ね最も厳しい状況にあることが分かった。また、男女間で同じ配偶関係同士を比較すると、女性の方が、非正規雇用や低年収の割合が大きいなど、よりリスクが高いことが分かった。

例えば、未婚の高齢男性は、現在または現役時代に非正規雇用だった割合が1割超と、すべての配偶関係の中で最も大きく、有業率は最も低く、5人に1人が年収100万円未満で、公的年金を受給していない人が1割を超え、世帯の金融資産100万円未満の人が約4割に上っていた。また離別・死別の高齢女性は、現在または現役時代に正社員だった人は2割にも満たず、パ-ト・アルバイトが約4割を占める。有業率は80歳代前半まで最も高く、働き続けなければ、家計が厳しい状態であることが推測される。また現在は本人年収100万円未満の人が約4割で、公的年金受給額0円の人も1割弱おり、無年金の女性が多いと考えられる。世帯の金融資産も100万円未満が約2割に上っている。本稿で用いた調査では「離別・死別」が同じ区分であったが、先にも述べたように、厳しい状態にあるのは離別女性だと考えられる。

つまり、未婚男性と離別女性は、現役時代から就労による収入が低水準である人が多く、老後になってもそのまま、無年金や低年金といった形で、低収入状態が続く。また低収入は低資産とも連動していると考えられるため、不足分を補う支えも脆弱である。

従って、未婚男性や離別女性らの老後を安定したものにするには、当然のことだが、現役時代、特に老後が間近に迫る中高年時分における雇用形態や労働条件の改善が必要だろう。特に女性は、これまでの筆者のレポートでも述べてきたように、男性に比べて低賃金であり、結婚・出産を機に退職した場合、再就職時には非正規雇用となることが多いことから雇用条件が悪くなりやすい。「女性の活用・活躍」は企業にとっても課題であることから、今後は企業においても、中高年女性の労働条件改善や再就職支援の取り組みが広がることを期待したい。

また、国を挙げて少子化対策が推進される中で、男性の就業条件の低さが未婚につながっている可能性についても、より検討されるべきだろう。

かつてのように「既婚者が大多数」といった時代ではなくなり、シングルの高齢者が増加している以上、このように、かつては問題視されていなかった点にも注目していく必要があるだろう。

(2024年07月17日「ニッセイ基礎研所報」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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