2024年07月17日

シングル高齢者の増加とその経済状況-未婚男性と離別女性が最も厳しい

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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4――シングル高齢者の就業状況

次に、中高年シングルの現在の就業状況について、総務省の「就業構造基本調査」(2022年)から確認する。同調査でも、「未婚」、「有配偶」、「死別・離別」という三つの配偶関係ごとの集計がある。

まず男性では(図表3)、有業率の数値自体は、年齢階級の上昇に伴って下降していくが、比率の順位には特徴があった。50歳代から70歳代までは、比率が最も高いのは「有配偶」で、次に「死別・離別」、最も低いのが「未婚」という順序が続いていた。例えば「65~69歳」だと、「有配偶」では有業率が約6割に上り、「死別・離別」では約5割、「未婚」では約4割となっている。「有配偶」と「未婚」には約25ポイントの差がある。未婚で有業率が低いという特徴は、3で指摘した「経済的基盤を築けていない男性は、家庭を形成しづらく、未婚が多い」という仮説に沿っているだろう。

女性の場合も、年齢階級の上昇に伴っていずれの配偶関係でも有業率は下降していくが、その順序は、85歳以上を除くほぼ全ての年齢階級で「死別・離別」が最も高かった。例えば「65~69歳」だと、「死別・離別」の有業率は約5割であり、「有配偶」と「未婚」では約4割だった。

同調査では「死別」と「離別」は同じカテゴリーになっているが、女性の場合、この二つでは本来、経済状況は大きく異なるだろう。死別の場合は、残された妻は、一定の条件を満たせば遺族年金を受給することができるため、夫が生前に一定水準の年金や給与を得ていれば、新たに働き出さなくても、最低限の生活を送ることはできる。これと違って、離別の場合は、制度的に、夫に扶養されていた妻の生活を保障するものが乏しいため2、自ら働く女性が多いと考えられる。70歳前半でも有業率は3割に上る。従って、高齢になっても仕事をしいないと家計が厳しいということも考えられる。

なお、女性では「有配偶」と「未婚」には、概ね、有業率に大きな差はなかった。
図表3 性・年齢階級別にみた有業率<男性>
図表3 性・年齢階級別にみた有業率<女性>
 
2 離婚した場合の年金分割制度もあるが、厚生労働省によると、例えば2021年度の離婚件数約18万件に対し、年金分割を実施したのは約3万件に過ぎない。

5――シングル高齢者の年収

5――シングル高齢者の年収

それでは、シングル高齢者は、実際に現在どれぐらいの年収を受け取っているのだろうか。文化センターの調査に戻って、高齢者本人の年収について、配偶関係別に、年収階級ごとの構成割合を分析した(図表4)。同調査では、年収階級の選択肢は「収入はない」「100万円未満」「100~500万円未満」「500~1,000万円未満」「1,000~2,000万円未満」「2000万円以上」の6区分である。以下では、「収入はない」と「100万円未満」を合わせた層を「低年収層」として整理する。なお、いずれも「未婚」の有効値は小さいが、参考値として表記する。

まず男性では、「収入はない」と「100万円未満」を合わせた低年収層が最も多いのは「離別・死別」で、合わせて25.2%だった。次に低年収層が多いのは「未婚」(合わせて18.2%)、最も少ないのは「配偶者あり」(同15.3%)だった。

女性では、低年収層が最も多いのは「配偶者あり」(合わせて65.8%)だった。配偶者が主に家計を担い、専業主婦やパートで働く女性が多いためだろう。「離別・死別」では低年収層が38%に上った。「未婚」では24.1%だった。有配偶高齢女性で低年収層が多くても問題だとは言えないが、シングルで低年収であれば、経済的に厳しいと予想される。

男女を比べると、同じ配偶関係同士でも差が大きい。例えば「離別・死別」の男性の低収入層は、上述のように25.2%だが、女性は38%であり、女性の方が10ポイント以上高い。男女の間では、現役時代の収入にも、老後の年金収入にも大きな差があることを、これまでも筆者のコラムなどで説明してきたが3、シングル高齢者に特定して比べても、男女差が大きいことが改めて分かった。

なお、100万円未満の年収で暮らすことは実際、困難であるため、低収入層の中には、親の年金や子の仕送りなどを頼りに暮らしている高齢者もいるだろう。また、一部には無年金の高齢者もいると考えられる。
図表4 配偶関係別にみた現在の本人年収

6――シングル高齢者の年金受給状況

6――シングル高齢者の年金受給状況

次に、収入のうち公的年金の受給状況について、文化センターの調査データを用いて、性別、配偶関係別に分析したものが図表5である。

まず男性の場合、年金受給額が「0円」の男性は、「未婚」では14.8%、「離別・死別」では8.2%、「配偶者あり」では3.4%だった。「0円」と回答した中の一部には、受給開始年齢を繰下げている男性もいる可能性もあるが、厚生労働省によると、2021年度、厚生年金保険の受給権者で繰下げを行った人は1.2%、国民年金では1.8%に過ぎない4。従って、「0円」と回答した未婚や離別・死別の男性の大部分は、無年金状態だと推測される。

ここで、年金受給額が100万円以下(「0円」と「1~49万円」、「50~99万円」の合計)を「低年金層」とすると、「未婚」では約4割、「離別・死別」では約2割、「配偶者あり」では約1割が低年金層だった。つまり、老後の年金についても、未婚男性は最も厳しい状況にあることが分かった。

次に女性についてみていきたい。先に結論を述べると、男性に比べれば「0円」の割合はやや少ないが、低年金層の割合はやや大きい。まず「0円」の回答は、「未婚」と「離別・死別」では1割弱、「配偶者あり」では約3%だった。男性と同様に、この中には無年金の女性が多く含まれると推測される。また年金受給額が年間100万円未満の低年金層は、「未婚」では約4割に上り、「離別・死別」では約3割、「配偶者あり」では約1割だった。やはり、「未婚」と「離別・死別」とで低年金層が多かった。

このように、老後の年金受給状況は、シングルか有配偶かによって、大きな差があり、シングルの方が、老後に無年金や低年金という状況に陥っていることがわかった。当調査では、未婚はNが小さいという制約があるものの、特に、高齢未婚男性の1割以上が、公的年金の受給額が「0円」というような状態は、早急に検証が必要ではないだろうか。
図表5 配偶関係別にみた高齢者の年金受給状況
 
4 厚生労働省「令和3年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」

(2024年07月17日「ニッセイ基礎研所報」)

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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性のライフデザイン、高齢者の交通サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

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