2024年07月16日

外国人労働者の誘致政策-「先進性」「ソフトパワー」「所得」「人権」

総合政策研究部 准主任研究員 鈴木 智也

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1――はじめに

2023年10月時点で、外国人労働者数は204.8万人と11年連続で過去最高を更新した。ベトナムが全体の25.3%を占めて最多となり、ネパールやインドネシアなど非漢字圏からの受け入れが増える一方、中国や韓国など漢字圏からの受け入れは微増に留まるなど、国籍別構成では変化が認められる。

資格別には、コロナ禍から経済が正常化して、人手不足が深刻化したことなどにより、建設や医療などの業界で働く技能実習が増えている。また、引き続き、留学生が働き方の柔軟性が高い「技術・人文知識・国際業務」に移行するケースが増えており、技能実習からの移行者である特定技能人材と合わせて、専門的・技術的分野の在留資格者も増加基調にある。

最近では、2022年以降に進んだ円安により、外国人労働者の仕送りが目減りしている。実際、ドル円相場は、一時1990年以来34年ぶりの円安水準に達し、日本の国力低下が意識される展開にもなっている。外国人を雇用する事業者からは、このような円安が定着すれば、長期的・安定的に外国人労働者を確保していくことは難しくなるのではないか、といった不安の声も聞こえて来る。

本稿では、外国人労働者を巡る日本の現状と課題について整理し、今後の外国人労働者の受け入れの在り方について考えたい。

2――外国人労働者受け入れが必要となる背景

2――外国人労働者受け入れが必要となる背景

1少子高齢化の進行と人口減少
日本で外国人労働者が求められる背景には、少子高齢化の進行に伴う人口や働き手の減少がある。国内人口の長期推計を年齢階層別にみると、15歳以上65歳未満の生産年齢人口比率は、1990年代前半をピークに減少する一方、65歳以上の老年人口は、2060年に37.9%まで上昇することが見込まれる[図表1]。

今年2月に発表された2023年の出生数は、速報値で75.8万人と過去最少を更新し、昨年改定されたばかりの国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計を既に下回ることが見込まれている。少子化に伴う働き手の減少は、経済に重くのしかかる。

政府は、労働者の裾野を広げるために様々な施策を講じてきた。例えば、2012年に改正した「高年齢者雇用安定法」では、定年や継続雇用の年齢上限を引き上げ、労働者がより長く働くことのできる環境を整備している。また、2016年に施行した「女性活躍推進法」では、出産や子育てを機に労働市場を離れてしまいがちな女性を呼び戻し、働き続けることのできる環境を整備する後押しをしている。これらの政策効果もあって、国内の就業者数は2013年に増加に転じ、女性と高齢者の就業が大きく進むことになった[図表2]。

しかし、国内人材の掘り起こしには限界もある。すでに日本のM字カーブ は、フランスやドイツなどに遜色しない水準まで改善しているうえ、2025年には団塊世代が75歳以上に到達し、高齢者が労働市場から退出し始める。これから先を見通すと、国内で新たな働き手を見つけることは難しくなる。そこで期待されるのが、国外人材の外国人労働者である。
[図表1]日本の少子高齢化/[図表2]就業者数の変化(寄与度)
2深刻化する人手不足
人口減少に伴う働き手の減少は、すでに人手不足という形で顕在化している。求職者1人に対して何件の求人があるかを示す「有効求人倍率」は、コロナ禍で経済活動が抑制されていたときでさえ、マクロで見れば求人数が求職者数を上回る1倍を超えて推移してきた[図表3]。

とりわけ、深刻な人手不足に直面しているのが中小企業である。日銀が公表する全国企業短期経済観測調査(短観)の「雇用人員判断DI」は、中小企業が大企業・中堅企業よりも厳しい人手不足に直面していることを示している[図表4]。人手確保は中小企業にとって、重要な経営課題だと言える。

政府は、国内人材の掘り起こしに加えて、すでに国外人材の活用も積極的に取り組んでいる。例えば、2018年改正の「出入国管理及び難民認定法」(入管法)では、特定産業分野における相当程度の知識や経験を有する外国人を誘致するため、新たな在留資格「特定技能」を創設している。
[図表3]有効求人倍率(パート含む)/[図表4]雇用人員判断D.I.(全産業)
また、2023年には、高度で専門的な知識や技術を有する外国人材を誘致するため、在留資格「高度専門職」の取得要件を緩和した「特別高度人材制度」を創設し、併せて、若く優秀な国外人材を呼び込むため、在留資格「特定活動」に「未来創造人材」を創設している。さらに2024年には、在留資格「特定技能」の対象分野を拡大し、自動車運送業、鉄道、林業、木材産業の4分野を加え、2028年まで今後5年間の受け入れ枠を82万人と、前回受け入れ枠の2.4倍に拡大することを決定した。未熟練労働者から高度人材まで、多様な人材を日本に呼び込む政策が展開されている。

ただ、これらの取組みにも関わらず、外国人労働者が将来不足するとの予測もある。独立行政法人国際協力機構1は、政府が目標とする成長2(年平均GDP成長率1.24%)を実現するには、外国人労働者が2030年に▲63万人、2040年に▲42万人不足すると見込んでいる。

とりわけ、外国人労働者に依存する業種で影響は大きくなる。特に依存度が高いのは「製造業」「宿泊業、飲食サービス業」「サービス業(他に分類されないもの)」など。技能実習生の受け入れ先や、留学生がパートやバイトで働く業種で、依存度が高まっている[図表5]。

これら業種で事業の継続性を高めるには、技術革新で劇的に省力化を進めるか、消費者に不便(サービスの低下やコスト上昇)を受け入れてもらうかしない限り、外国人労働者を安定的に確保することが必要になる。
[図表5]外国人労働者への依存度(外国人労働者数/就業者数)
 
1 独立行政法人国際協力機構「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けた取り組み調査・研究報告書」(2022年)
2 厚生労働省「国民年金及び厚生年金に係る財政の現況及び見通し-2019(令和元)年財政検証結果-」における「ケースⅠ(内閣府試算「成長実現ケース」に接続するもの)」を目標とする場合

3――外国人労働者獲得を巡る環境変化と、その対応

3――外国人労働者獲得を巡る環境変化と、その対応

1賃金所得面での見劣り、外国人労働者の供給先細り
ただ、外国人労働者の誘致は、現在より難しくなる可能性が高い。なぜなら、外国人労働者の誘致で競合する諸外国の経済水準が向上し、相対的に優位な所得の魅力が低下していく一方、外国人労働者の供給元であるアジア周辺国では、人材輩出余力が低下していくことが見込まれるからだ。

例えば、国の平均的な豊かさを示す「1人あたりGDP」で見ると、日本は1990年代前半のバブル崩壊以降に頭打ちとなる一方、韓国や台湾は日本と同程度まで上昇して来ている[図表6]。これは、日本が所得面で以前ほど、魅力的でなくなって来たことを意味している。
[図表6]1人あたりGDP(USドル)/[図表7]高齢化率(65歳以上人口の割合)
また、アジア周辺国では、急速に高齢化が進んでいる[図表7]。日本では高齢化率が10%から30%に上がるのに42年をかけたが、それを中国では37年、韓国に至ってはわずか30年で到達することになる。また、近年受け入れが増えているベトナムでも、2050年代前半に高齢化率は21%を超え、超高齢社会 に突入する。これは、日本への外国人労働者の主要な輩出国においても働き手の減少が問題となり、国際的な人材の供給余力が低下していくことを意味している。

以上のとおり諸外国の経済成長と高齢化の結果として、日本への外国人労働者の誘致は、ますます厳しい局面を迎える可能性が高いと言える。

(2024年07月16日「ニッセイ基礎研所報」)

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総合政策研究部   准主任研究員

鈴木 智也 (すずき ともや)

研究・専門分野
経済産業政策、金融

経歴
  • 【職歴】
     2011年 日本生命保険相互会社入社
     2017年 日本経済研究センター派遣
     2018年 ニッセイ基礎研究所へ
     2021年より現職
    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員

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