2024年07月05日

止まらない円安、反転の条件は?

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 今月に入り、一時約37年半ぶりの円安水準となる1ドル161円台を付けるなど、円安の進行に歯止めが掛からない状況が続いている。4月下旬以降の円安については、それまで円安の原動力となってきた「日米金利差の拡大を伴っていない」という点が特徴的だ。円安進行の要因は複合的であり、「金利差は開いたまま」との市場の受け止めのほか、日本の貿易赤字、デジタル赤字、対外投資といった実需の円売りの存在がある。
     
  2. 円安基調が反転する条件としては、上記で挙げた円安材料について状況が大きく変わる必要があるが、実需の円売りは構造的であるため、少なくとも数カ月から1年といった短期間のうちに状況が一変することは想定し難い。
     
  3. 従って、円安基調が反転するためには、残りの要因である日米金利差の明確な縮小が必要になるわけだが、日本側の大幅な金利上昇は考えにくいため、米金利の低下が必要ということになる。物価上昇率の高止まりを懸念するFRBは足元で政策金利を極めて高い水準に据え置いており、これを受けた長期金利も高水準にあるが、逆に言えば、物価上昇が落ち着く際の長短金利の低下余地は大きい。現時点の見通しでは、11月頃にはFRBの利下げ開始が具体的に見えてくることで、日米金利差の縮小や投機筋の円売りポジション解消を通じてドル円が円高基調に反転すると予想している。
     
  4. 逆に言えば、ドル円は今後も数カ月間は円安圧力が高い状況が続く可能性が高い。この間は米経済指標やFRBの情報発信次第で165円を目指す展開も有り得る。一方でこの間の円の支えになるのは政府による円買い介入の存在だ。政府が口先・実弾介入を巧みに運営し、市場の円買い介入への警戒感を高めることができるかが問われる。また、日銀が円売りを誘発するような情報発信を回避できるかという点も一つのポイントになる。

 
ドル円レートと日米金利差
■目次

1.トピック:止まらない円安、反転の条件は?
  ・円安進行の要因は複合的
  ・円安反転の条件は?
2.日銀金融政策(6月)
  ・(日銀)長期国債買入れの減額方針を決定
  ・受け止めと今後の予想
3.金融市場(6月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート

(2024年07月05日「Weekly エコノミスト・レター」)

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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