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「福岡オフィス市場」の現況と見通し(2024年)

金融研究部 主任研究員 吉田 資
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3.福岡オフィス市場の見通し
内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」によれば、「企業の景況判断BSI3」(福岡財務支局)は、コロナ禍を受けて2020年第2四半期に「▲53.7」と一気に悪化した。その後は、回復と悪化を繰り返しながら推移し、2024年第1四半期は「+2.5」まで回復した(図表-13)。
また、「従業員数判断BSI4」(福岡財務支局)は、新型コロナウィルス感染拡大後、「+22.5」(2020年第1四半期)から「+5.2」(第2四半期)へ大幅に低下した。その後は順調に回復し、足もとでは「+28.0」とコロナ禍前の水準を大きく上回り人手不足感が強まっている(図表-14)。
福岡商工会議所「地場企業の経営動向調査」(2024年3月実施)によれば、福岡商工会議所の会員企業に「人手不足の状況」を尋ねたところ、「人手が不足している」との回答が66%を占めた。「人手不足対策の取組」についての質問では、「採用活動の強化」(67%)との回答が最も多かった。
また、帝国データバンク「2023年度の雇用動向に関する九州企業の意識調査」によれば、九州地方に本社を置く企業にどのような職種の人材を求めているか質問したところ、「販売の職種」(43%)との回答が最も多く、次いで、「専門的・技術的職業」(29%)が多かった。
以上を鑑みると、福岡市のオフィスワーカー数が大幅に減少する懸念は小さいと言える。
3 企業の景況感が前期と比較して「上昇」と回答した割合から「下降」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど景況感
が悪いことを示す。
4 従業員数が「不足気味」と回答した割合から「過剰気味」と回答した割合を引いた値。マイナス幅が大きいほど雇用環境の悪化を示す。
総務省「通信利用動向調査」(企業編)によれば、九州・沖縄地方に所在する企業にテレワークの導入状況を尋ねたところ、「導入している」との回答は、2019年の13%から2000年の37%へと大幅に増加し、その後は4割程度を占めて推移している(図表-15)。また、「テレワークの導入目的」について、「新型コロナウィルス感染症への対応のため」(75%)との回答が最も多く、次いで「非常時の事業継続に備えて」(49%)、「勤務者のワークライフバランスの向上」(40%)、「労働生産性の向上」(38%)、「業務の効率性の向上」(37%)の順に多かった(図表-16)。
コロナ禍を機に普及したテレワークは、コロナ収束後もワークライフバランスや労働生産性の向上等の観点から継続する企業が多いと推察される。
こうしたなか、福岡市でもフリーアドレス5等を導入する動きが広がっている。ザイマックス不動産研究所「大都市圏オフィスワーカー調査2023①働き方の実態とニーズ編」によれば、福岡市のオフィスワーカーに対して、オフィスの設備で実際に利用しているもの(「現状」)と、在籍するオフィスにあってほしいと思うもの(ニーズ)を尋ねたところ、「フリーアドレス」は「現状」では15.9%、「ニーズ」では18.8%を占めた。また、「リモート会議用ブース・個室」は「現状」では10.3%、「ニーズ」では14.2%を占めた。フリーアドレスを導入して固定席の割合を減らし、リモート会議用ブース・個室を充実させる等、在宅勤務を取り入れたフレキシブルな働き方に即したオフィス利用が定着し始めている模様だ。
また、テレワークが普及し、働き方の多様化を進んだ結果、「サテライトオフィス6」を設置する企業が増加している。ザイマックス不動産総合研究所の調査によれば、福岡市における「サテライトオフィス」の導入率は、2020年春の3.7%から2023 年春の15.6%へと約4倍に増加した。「サテライトオフィス」を開設する場所として、「レンタルオフィス7」や「シェアオフィス8」、「コワーキングスペース9」等の「サードプレイスオフィス」を利用するケースが増えている。
弊社の調査10によれば、主要政令指定都市の「サードプレイスオフィス」の拠点数は、東京23 区(1,428 拠点)、大阪市(251 拠点)、横浜市(160 拠点)に次いで、福岡市(98 拠点)が多かった。テレワークを取り入れた働き方が定着するなか、「サードプレイスオフィス」市場の拡大が、福岡市のオフィス需要を押し上げると考えられる。
5 従業員が固定した自分の座席を持たず、業務内容に合わせて就労する席を自由に選択するオフィス形式。
6 企業または団体の本社、本拠から離れた所に設置されたオフィス(支社や支店、営業所等)。
7 会議室などを共用部分に設置して共有し、専用の個室をそれぞれ持つ、いわば合同事務所のようなオフィス形態。
8 フリーアドレスでデスクを共有して利用するオフィス形態。
9 オープンなワークスペースを共用し、各自が自分の仕事をしながらも、自由にコミュニケーションを図ることで情報や知見を共有し、協業パートナーを見つけ、互いに貢献しあう「ワーキング・コミュニティ」の概念およびそのスペース(コワーキング協同組合による定義)。
10 吉田資『わが国のサードプレイスオフィス市場の現況 -2023年-(1)~東京23区での集積が進む一方、主要政令指定都市以外の割合も4割に達する』ニッセイ基礎研究所、不動産投資レポート、2023 年11 月30日
AI 技術の進展等に伴い、半導体市場の拡大が期待されている。半導体関連製造業において、九州地方は以前から高いプレゼンスを誇り、「シリコンアイランド」と呼ばれる。九州地方の2023年の集積回路(IC)の生産額は前年比+24%増加の1兆1533億円となり、16年ぶりに1兆円を超えた11。
九州経済調査協会の調査によれば、九州での半導体関連の設備投資は6.0兆円以上が予定されている12。また、同協会は、半導体関連の設備投資の経済波及効果は10年間で約20.1兆円に達すると推計している。
九州地方の中核都市である福岡には半導体関連企業が集積している。経済産業省「九州半導体関連企業サプライチェーンマップ」によれば、福岡県内に所在する半導体関連企業・事業所は「456」に達する。
近年でも、福岡中心部の新築オフィスに拠点を開設する動きがみられる。世界最大の半導体受託製造会社であるTSMCの熊本工場の運営会社に出資するソニーセミコンダクタソリューションズは、「博多イーストテラス(2022年竣工)」に福岡オフィスを2022年9月に開設した13。また、台湾の大手銀行である玉山銀行はTSMCの進出を機に、「天神ビジネスセンター」に福岡支店を2023年9月に開設した14。
また、福岡県は、2023年8月に九州・全国の半導体人材不足に対応するため、半導体分野やデジタル産業分野の重要技術に精通した人材を育成する「福岡半導体リスキリングセンター」を福岡市早良区百道に開設した。
経済産業省「半導体デジタル産業戦略」によれば、政府は、国内で半導体を生産する企業の合計売上高を2020年の5兆円から2030年までに15兆円超に拡大することを目標としており、設備投資への助成金等の支援策を開始している。今後、半導体関連の設備投資や企業進出が活発化することで、福岡のオフィス需要の高まりが期待される。
11 朝日新聞「九州のIC生産16年ぶり1兆円超え TSMC効果でさらに増加視野」(2024年2月21日)
12 河村奏瑛、岡野秀之「九州における半導体関連設備投資による経済波及効果の推計~九州地域間産業連関表を用いた分析~」九州経済調査月報 2024年1月
13 ソニーセミコンダクタソリューションズグループHP
14 JETROビジネス短信「台湾の玉山銀行、日本第2拠点の福岡支店開設を祝う式典開催」(2023年9月4日)
2024年6月に、政府は、①東京都、②大阪府・大阪市、③福岡県・福岡市、④北海道・札幌市の4都市を「金融・資産運用特区」に指定すると発表した。
「金融・資産運用特区」では、 (i)国内外の金融・資産運用業者の集積、(ii)金融・資産運用業者等による地域の成長産業の育成支援、(iii)成長産業自体の振興・育成、という観点で取組みを進めていくとしている。
また、上記の4地域は、各地域の特色を活かした特区のコンセプトを掲げている。福岡県・福岡市は、「スタートアップ 金融・資産運用特区」を掲げて、アジアの活力を取り込みながら、福岡・九州のスタートアップや県内に集積する成長産業に向けて資金を供給するとしている。こうした取組みは、産学官が連携した「TEAM FUKUOKA」(25 機関が参画)が中心となって推進する。同機関は2024 年4月末時点で24 社を誘致し15、進出企業は天神地区や博多駅前地区の主要ビルに入居している(図表-17)。今後、金融・資産運用業やスタートアップの企業進出が活発化することで、福岡のオフィス需要の高まりが期待される。
15 金融庁「金融・資産運用特区実現パッケージ」
(2024年06月21日「不動産投資レポート」)
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03-3512-1861
- 【職歴】
2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
2018年 ニッセイ基礎研究所
【加入団体等】
一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)
吉田 資のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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