2024年06月12日

増え行く単身世帯と消費市場への影響-家計消費は2025年頃をピークに減少、2050年には現在の1割減、うち単身世帯が3割、高齢世帯が半数へ

生活研究部 上席研究員 久我 尚子

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1――はじめに~単身世帯は40年で3倍に増加、現在は総世帯の約4割へ

単身世帯の存在感が増している。国立社会保障人口問題研究所「人口統計資料集(2023)」によると、単身世帯は1980年では711万世帯(総世帯の19.8%)だったが、2020年には3倍の2,115万世帯(+1,404万世帯、総世帯の38.0%で+18.2%pt)に増加している。この要因には未婚化や晩婚化の進行に加えて、核家族化や高齢化で配偶者と死別した高齢単身世帯の増加もあげられる。

ひとり暮らしの単身世帯と複数人で暮らす家族世帯では、当然ながら消費生活にも違いが出る。今後とも日本では単身世帯が増加する見通しであり、単身世帯が増え行くことは消費市場にも影響を及ぼす。よって本稿では、単身世帯に注目しながら、あらためて日本の世帯構造の変化を捉え、この世帯構造の変化を踏まえて家計消費額の推計を行う。

2――世帯数および世帯構造の変化

2――世帯数および世帯構造の変化

図表1 世帯数、人口、1世帯あたりの平均人員数の推移 1|世帯数の変化~人口減少でも世帯のコンパクト化で世帯数は増加、2030年頃から減少
日本の人口は10年ほど前に減少局面に入ったが、未婚化や核家族化の進行で、世帯のコンパクト化が進んでいるため、世帯数は未だ増加局面にある(図表1)。一方で、今後は一層、人口が減少するために、2030年頃からは世帯数も減少していく。

なお、1世帯当たりの平均人員数は、1990年代以降は3人を下回り、2020年では2.21人となり、2050年には2人を下回っていく。
図表2 家族類型別世帯割合の推移 2|世帯構造の変化~単身世帯や夫婦のみ世帯など人数の少ない世帯が増加
総世帯の内訳を家族類型別に見ると、核家族の夫婦と子世帯や、三世代世帯を含むその他世帯の割合が低下する一方、単身世帯や夫婦のみ世帯、ひとり親と子世帯の割合は上昇している(図表2)。なお、夫婦のみ世帯は2020年頃、ひとり親と子世帯は2030年頃をピークに低下傾向に転じる。

つまり、世帯人員数の多い世帯が減る一方、人数の少ない世帯が増えているという家族類型の変化からも世帯がコンパクト化している様子が読み取れる。

なお、冒頭で述べた通り、単身世帯は、1980年では総世帯の約2割であったが、2020年には4割弱、2030年には4割を超え、2050年には44.3%となる見通しだ。
図表3 単身世帯の性・年齢区分別世帯割合の推移 3|単身世帯の内訳の変化~一人暮らしは若い男性から高齢男女へ、2040年に60歳以上が半数を超える
単身世帯数が増えるとともに、その内訳が変化している。単身世帯の内訳を性年齢区分別に見ると、1980年では35歳未満の若年男性世帯(41.1%)が約4割を占めて圧倒的に多く、次いで若年女性世帯(17.8%)が2割弱で、男女を合計すると若年世帯が単身世帯の約6割を占めていた(図表3)。

しかしその後、単身世帯では若年世帯が減り、60歳以上の高年齢世帯や35~59歳の壮年男性世帯が増えることで、2015年で最も多いのは高年齢女性世帯(26.1%)、次いで壮年男性世帯(20.5%)、若年男性世帯(16.1%)となっている。

今後は壮年男性世帯の増加に歯止めがかかる一方、高年齢世帯はさらに増えるため、単身世帯に占める60歳以上の高年齢世帯の割合は2040年に半数を超え、2050年には53.0%となる見通しだ。

3――世帯構造の変化が家計消費へ与える影響

3――世帯構造の変化が家計消費へ与える影響

1|家計消費における世帯構造の変化~2050年には単身世帯が3割超、60歳以上の世帯が半数へ
ここからは世帯構造の変化が家計消費額にもたらす影響を捉える。まず、下記の手順にて、各世帯の消費額が家計消費額全体に占める割合を求め、世帯構造の変化によって家計消費に占める各世帯の割合はどのように変わるのかを分析する。

(1) 各年の世帯類型別世帯数(二人以上世帯と単身世帯の世帯主の年齢階級別世帯数1)に対して、総務省「家計調査」から得た世帯当たりの月平均消費支出額を乗じ、各世帯類型の合計消費額を求める。2025年以降の世帯数は予測値、消費額は2023年の値を用いて推計する。

(2) (1)で得た各世帯の月間消費額を合計し、合計値に占める各世帯の月間消費額の割合を算出する。

推計の結果、2020年頃までは二人以上世帯の消費額は家計消費全体の約8割(単身世帯が約2割)を占めるが、その後、二人以上世帯の消費額の割合が低下する一方、単身世帯は上昇することで、2035年頃には二人以上世帯が7割を下回り、単身世帯は3割を上回るようになる。

また、二人以上世帯でも単身世帯でも、60歳以上の高年齢世帯の消費額が占める割合が高まっていく。2010年頃までは二人以上世帯と単身世帯を合わせた高年齢世帯全体の消費額の割合は全体の4割を下回るが、2050年にはおよそ半数となる(48.9%)。なお、60歳以上の高年齢の単身世帯で見ると、2020年頃までは1割を下回るが、2050年には15.3%となる。

なお、2020年から2023年にかけて段差があるようだが、この要因には、(1)2020年までの世帯数は実績値だが2023年以降は予測値であること、(2)2020年は新型コロナウイルス感染症が拡大し始めて全世帯で消費額が減少したが、二人以上世帯と比べて単身世帯の方が影響は大きかったこと(二人以上世帯:2019年に対して2020年は▲5.3%、2020年に対して2023年は+5.8%、単身世帯:同▲8.1%、同+11.4%)などがあげられる。

ところで、単身世帯が家計消費に占める割合(2020年では22.9%)は世帯数に占める割合(同38.0%)と比べて低いが、この理由は、(1)単身世帯と比べて二人以上世帯では世帯人員が多いため世帯あたりの支出が多いこと、(2)単身世帯では支出額が比較的多い壮年世帯の占める割合が低いことによる。

(1)については、2020年の二人以上世帯の1世帯当たり人員数は平均2.21人であり、消費支出額は月平均277,926円だが、単身世帯では150,506円である(参考までに2023年の消費支出額は二人以上世帯293,997円、単身世帯167,620円)。

(2)については、図表5・6より、二人以上世帯では1世帯当たりの人員数の増加に伴い240~50歳代で、単身世帯では35~59歳で消費支出額が膨らむ傾向があるが、35~59歳の壮年世帯が占める割合は二人以上世帯では44.1%、単身世帯では38.7%である(2020年)。
図表4 世帯類型別家計消費に占める割合の推移
図表5 二人以上世帯の月平均消費支出額/図表6 単身世帯の月平均消費支出額
 
1 「家計調査」では世帯類型が二人以上世帯と単身世帯の2区分であり、この2区分それぞれについて世帯主の年齢階級別に消費支出額が公表されているため、世帯数も同様の区分で見ていく。
2 2020年の二人以上世帯の1世帯あたり人員数は、世帯主の年齢が29歳以下で3.24人、30歳代で3.70人、40歳代で3.72人、50歳代で3.24人、60歳代で2.69人、70歳以上で2.44人(総務省「家計調査」)。

(2024年06月12日「基礎研レポート」)

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生活研究部   上席研究員

久我 尚子 (くが なおこ)

研究・専門分野
消費者行動、心理統計、マーケティング

経歴
  • プロフィール
    【職歴】
     2001年 株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモ入社
     2007年 独立行政法人日本学術振興会特別研究員(統計科学)採用
     2010年 ニッセイ基礎研究所 生活研究部門
     2021年7月より現職

    ・神奈川県「神奈川なでしこブランドアドバイザリー委員会」委員(2013年~2019年)
    ・内閣府「統計委員会」専門委員(2013年~2015年)
    ・総務省「速報性のある包括的な消費関連指標の在り方に関する研究会」委員(2016~2017年)
    ・東京都「東京都監理団体経営目標評価制度に係る評価委員会」委員(2017年~2021年)
    ・東京都「東京都立図書館協議会」委員(2019年~2023年)
    ・総務省「統計委員会」臨時委員(2019年~2023年)
    ・経済産業省「産業構造審議会」臨時委員(2022年~)
    ・総務省「統計委員会」委員(2023年~)

    【加入団体等】
     日本マーケティング・サイエンス学会、日本消費者行動研究学会、
     生命保険経営学会、日本行動計量学会、Psychometric Society

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