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2024年06月07日
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(リスク評価)
(金融・通貨環境)
(結論)
(質疑応答(趣旨))
- 成長率に対するリスクは短期的には均衡、長期的には下方に傾いている(「引き続き下方に傾いている」から修正)
- 世界経済の軟化、主要経済圏による貿易摩擦の激化がユーロ圏の成長の重しになるだろう
- ロシアの正当化されないウクライナとの戦争や中東での悲劇的な紛争は地政学的リスクの主要要因である
- これは企業や家計の将来への景況感を低下させ、また世界的な貿易を混乱させるかもしれない
- 金融政策の効果が予想以上に強く生じれば成長率が低下する可能性がある
- インフレ率の低下が予想よりも迅速に進み、景況感の改善と実質所得の上昇が予想以上に支出を増加させること、世界経済が予想以上に強く成長することが成長率を押し上げる可能性がある
- インフレ率は賃金や利益が予想以上に上昇すれば、上振れする可能性がある
- インフレ率の上方リスクはまた、特に中東における地政学的緊張の高まりがエネルギー価格や運送費用を短期的に上昇させ、世界貿易を混乱させることが含まれる
- 加えて、異常気象や気候変動危機の展開が、食料品価格を上昇させる可能性もある
- 対照的に、インフレ率は金融政策が予想以上に需要を低下させること、もしくは、予想外に世界経済が悪化することで低下する可能性がある
(金融・通貨環境)
- 市場金利は4月会合以降、上昇している
- 我々の過去の政策金利引き上げが金融システムに波及することで、資金調達コストは、制限的な水準で横ばいとなっている
- 企業向けの新規貸出金利と新規住宅ローン金利は、4月は変わらず、それぞれ5.2%と3.8%だった
- 信用動向は引き続き弱い
- 銀行の企業向け貸出は前年比で4月には0.3%と前月からやや低下した
- 家計向けの貸出は引き続き前年比0.2%となっている
- M3で計測される広義通貨は4月に1.3%となり、3月の0.9%から上昇した
- 我々の金融政策戦略に沿って、理事会は金融政策と金融安定の相互関係を包括的に評価した
- ユーロ圏の銀行は引き続き強靭である
- 経済見通しの改善は金融の安定性を促進させたが、地政学的なリスクの高まりが存在している
- 世界的な金融環境の予期しない厳格化が、金融・非金融資産の再評価をもたらし、広範な経済に悪影響を及ぼす可能性もある
- マクロプルーデンス政策は、引き続き、積みあがる金融のぜい弱性に対応するための最善の手段である
- 現在実施されている措置、あるいは間もなく発効する措置は金融システムの強靭性を維持する助けになるものである
(結論)
- (声明文冒頭に記載の決定に再言及)
(質疑応答(趣旨))
- インフレ見通しを引き上げると同時の利下げはおそらくより説明が必要だろうし、利下げの事前確約が早すぎたのではないかという疑問が生じる
- 本日の会合はノルマンディー上陸作戦から80年という日で、犠牲になった人々に敬意を表することから始まった
- 利下げの決定は、我々がフォワードルッキングであり、過去数か月にわたって将来の経路への自信を高めることができたことから決められた
- 22年7月から23年9月までの4.5%ポイントの利上げ、その後本日までの据え置き、という段階でインフレ率は半減してきた
- 22年10月にはピークの10.6%、23年9月には5.2%、現在は2.6%である
- また、予測の信頼性と強靭性も非常に考慮した
- 25年10-12月期の予測値を見ると、9月、12月、3月、6月の予測には0.1%ポイントの変動しかない
- 市場では今年中に0.65%ポイントの利下げが予測されているが、市場はほぼ正しいのか
- インフレ見通し、基調的なインフレ率、金融政策の伝達という3つの基準のもと、データに依存し、会合毎に決定する
- 市場は市場がすべきことを行い、我々は我々がすべきことを行う
- あなたは、3月には4月にはもう少し、6月にはより多くのことが分かると述べた。今も同様に、次回の会合までには少し、その次の会合までにはより多くのことが分かるという状況にあるのか。また、主要指標の公表日といくつかの会合予定が重なっていることから、これらの会合がより重要だという議論がある。これに同意するか
- 会合と我々の決定、そして特定データの公表日は完全に同期している訳ではない
- 将来の決定を裏付けるような、ディスインフレ経路を確認するには十分なデータが必要になる
- 3月のECBウォッチャー会議の講演で言及した、縮小(dialling-back)段階に入ったのか。一連の利下げを期待すべきなのか、今回の利下げで終わりなのか
- 縮小段階に入った、と進んで言う事はできない
- 我々は進んでいる経路への確信をもとに決定しているが、今後数か月はディスインフレ仮定にあるという確信を常に持つために、データやそのデータの分析が必要になる
- 縮小段階である可能性は非常に高いが、データ依存であり、そのスピードとかかる時間には大きな不確実性がある
- チーフエコノミストは、今年の政策金利は引き続き制限的である必要があるが、ECBとしては最高水準からは脱却したい、と述べている。これはどういう意味か。ECBがどの程度利下げすれば十分に制限的ではなくなるのか
- 0.25%の利下げ後でも我々は制限的である
- 実質金利の点で見れば9月より制限的である
- チーフエコノミストのレーン氏が示しているのは、ある程度、制限度合いを取り除くということで、我々は制限水準を緩やかにしている
- データの重要性について。あなたはこの会合の前に1-3月期のデータ、特に賃金データの重要性を強調し、緩和することを望んでいた。緩和は見られず、賃金データは加速し、ほぼ最高水準となった。なぜ、利下げを行うのに十分だったのか
- 今年後半に賃金が緩和すると予想しているが、追加利下げの間に実際に緩和することを確認する必要があるか
- ディスインフレの経路が実際に実現することを確信していく過程にはデコボコがある
- 賃金だけではなく、複数のデータを見ていく
- 賃金トラッカーが記録している交渉や様々な合意はストックで見ると高い水準だが、現在行われているフローで見るとは、伸びが低下している
- 賃金は独特で多くの要素を含んでいるため、簡単ではなく、キャッチアップ、社会保障費用、賃金ドリフトと呼ばれるもの、残業代、低賃金と高賃金の格差など、多くの項目が含まれる
- 我々は分析するために、これらすべてのデータと情報を組み合わせている
- その結果、賃金が高止まりしていることに疑問の余地はないが、低下経路にもある
- 24年末にかけて賃金が低下し、25年には大幅に下がるという我々の想定を今後数週間から数か月で検証する必要がある
- より多くのデータが必要になることを考えると、理事会の金利の決定は見通しが利用できる会合が適していると思うか
- まず見通しについては、我々の見通しではなく、スタッフによる見通しである
- スタッフ見通しは、意思決定を行う上で非常に役立つものだが、それは見通しの会合時のみで決定することを意味しない
- 常にデータに依存している
- ただし、明らかに見通しの会合時には多くのデータが得られる
- 理事会の政策金利の将来経路について意見が割れたか。今回の決定は全会一致だったか
- (今回の決定は)1人の中銀総裁を除いた全員の意見が一致した
- 今後について、我々の経路がデータに依存し、会合毎に決定されるという点については全会一致で異論はなかった
- 数か月前、あなたはユーロ圏の人々の前で、理事会がインフレの首を折ることを決心していると約束した。首は折れたといえるか。現在のデータや見通しを見て、疑問を抱く人もいると思うが、どう考えるか。会議前には今回の決定が正しい時期に行われたのかという疑問が多く効かれ、インフレが正しい軌道に載っているか疑問視する向きもある。欧州議会の投票が始まっているが、欧州機関に対する批判も多く見られる。ECBがインフレ対策に真剣に取り組んでいないという印象を持つ人がいるかもしれない時期にこれらの決定を行うことは本当に適切なのか
- 我々は極めて真剣にインフレと戦っていると保証できる
- 我々のインフレを抑制し、物価の安定を取り戻すという決意に疑問の余地はない
- BBVAがサバデル買収に成功した場合の、スペイン銀行の集中度とそれにより発生することについてどう思うか。競争や金融安定への問題となる可能性はあるか
- (デギンドス副総裁)我々はまだ確定していない取引について詳しく述べたり、コメントしたりはしない
- 我々は合併や銀行持ち分の取得といった種類の取引について評価を行うが、この評価は健全性や支払い能力の問題に基づいて行われる
- 今の状況下で、中立金利が現在どのような位置にあるのかより明確にしてもらえるか
- 中立金利については、特定の数値を示したり、中立金利やそのレンジを特定したりすることを機械的に控えている
- 預金ファシリティ金利が4%から3.75%に移行しても中立金利付近ではなく、道半ばである
- 利下げに賛成しなかった中銀総裁はより大幅な利下げと据え置きのどちらを求めていたのか。可能であれば議論を教えて欲しい
- 特定人物に関する審議のプライバシーであり、それはできない
- あなたはすぐにその人物を特定し、彼から情報を得ることができるだろう
- クロアチアから来たが、クロアチアの5月のインフレ率は4.3%でベルギーに次いで2位である一方、前期の成長率は3.9%とユーロ圏で最も高かった。本日の決定は、我々のリスクとなるのか。何を期待しているのか。ユーロ圏全体に影響を及ぼす決定で、インフレ率が本当に低下すると予想することは難しい
- ECBの立場からすれば、ユーロ圏全体のデータを見る必要があり、特殊性に踏み込むことができない
- 我々は乖離に留意する必要があり、実際に近々公表する予定だが、収れん報告書を発行し、乖離を特定し、各国がどの程度収れんしているかをまとめている
- ディスインフレ過程は継続し、すべての加盟国に適用されると信じているが、ペースと加盟国間の一貫性については課題となる
- 大きな課題にならないことを願っている
- フランスのマクロン大統領はECBの責務を経済成長と気候保護に拡大しようと提案している。これに対する見解は
- 我々は物価安定の責務が金融政策戦略の確固たる指針と境界を提供していると信じている
- 我々には、それを変更する必要性や権限、能力はない
- また、物価安定を提供し、持続的な投資に予測可能性を与えることは、我々が気候変動との闘いに関連してできる様々な貢献のひとつであることは確かである
- シュナーベル氏のドットプロットを公表するという提案に対するあなたの見解に興味がある。このアイデアを支持するか
- ドットプロットは興味深い概念だと述べるまでにしておきたい
(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
(2024年06月07日「経済・金融フラッシュ」)
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03-3512-1818
経歴
- 【職歴】
2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
2009年 日本経済研究センターへ派遣
2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
2014年 同、米国経済担当
2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
2020年 ニッセイ基礎研究所
2023年より現職
・SBIR(Small Business Innovation Research)制度に係る内閣府スタートアップ
アドバイザー(2024年4月~)
【加入団体等】
・日本証券アナリスト協会 検定会員
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