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人口戦略会議・消滅可能性自治体と西高東低現象~ソフトインフラの偏在から検討する~

大阪経済大学経済学部教授 小巻 泰之
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人口戦略会議での試算では、若年女性の移動状況が重要な要素となっている。この点で、松浦(2024)は、1) 仕事、2) 配偶者、3) 生活スタイル、4) 娯楽の4つの要因が若年女性の移動に影響を与えていると指摘している。安定した雇用確保の前提としては保育施設、幼児教育等の育児・教育環境も大きな影響を与えると考えられる。
保育所数(3-5歳人口の10万人当たりの開設数)については、西日本の方が数は多いものの、統計学的にみれば地域偏在は有意に確認できない(図表8)。また、保育所の保育料については、3~5歳児の幼児教育・保育については2019年10月から無償化されているものの、0~2歳児については独自財源で実施している市町村がみられる。0歳児の保育所利用率3についてみると、保育所数と同様に、地域偏在は確認できない。つまり、保育所の設置に見合う形で利用されているとみられる。
3 全国計ならば、各齢別の人口データが利用可能であるが、都道府県別については5歳刻みでのデータについてしか利用できない。ここでは当該年の出生者数に対する利用者数で求めている。
この他にも、経済・社会的な事例での西高東低(もしくは東高西低)のような地域偏在はあるとみられるが、本論で確認した事例をまとめると以下のようになる(図表11)。消滅可能性自治体が多い地域では、医療施設、教育施設等のインフラ面で劣る状況が確認できる。また、こうした地域偏在は最近生じたものではなく、長年にわたり格差が継続している状況にある。
4――市町村の定住・移住施策の特徴と効果
4 小巻(2023、2024)のデータについては補論を参照のこと。
ここでは、市町村から得られた回答(○、×)に対して、○の場合1点、×の場合0点としてデータを作成した。分類として、受け入れ市町村の状況として「移住者の受け入れ体制」「受入先の状況」の2区分、支援策として「住宅支援」「起業・事業支援」「若者・単身者向けの支援」「子育て世代への支援」「シニア向け支援」の5区分、市町村の所与の環境として「居住環境」「交通環境」「医療環境」「自然環境」の4区分の、11区分で、因子分析を行う。
東日本と西日本では施策において大きな差異が確認できる。東日本では、第1因子は居住環境、第2因子は受け入れ態勢、第3因子はインフラ整備とみることができる。西日本については、第1因子は就業支援、子育て支援等の支援策、第2因子は受け入れ態勢といえそうである。このように、西日本では移動先の仕事環境や子育て環境等の因子が大きく、移住者を積極的に受け入れようとする施策となっている。この点については、青森県の市町村を訪問した際、定住・移住者施策については「西高東低」との担当者のコメントを裏付けるものといえる(図表12)。
九州はこの2つの要因のウエイトが高いことが確認できる。実際、九州の各市町村へ訪問した際にも、移住者へのサポートに重点を置いていることが窺えた。九州の各自治体では、移住者の対応窓口でワンストップサービスを実施しているところが多く、また担当者の担当年数が4年を超えるところもみられ、きめ細かい対応を実施している(小巻(2023))。
他地域と大きく異なるのは沖縄である。もともと移住希望者が多く、施策の重点が住宅支援に置かれている様子が窺える。これは、3-(8)で指摘したように、沖縄独自の要因があると推察できる。このため住宅支援策のウエイトが高くなっているとみられる。
(2024年06月05日「基礎研レポート」)
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日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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