2024年05月07日

米雇用統計(24年4月)-雇用者数は前月、市場予想を大幅に下回ったほか、失業率は前月から予想外に上昇

経済研究部 主任研究員 窪谷 浩

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1.結果の概要:雇用者数が市場予想を下回ったほか、失業率は市場予想を上回る

5月3日、米国労働統計局(BLS)は4月の雇用統計を発表した。非農業部門雇用者数は、前月対比で+17.5万人の増加1(前月改定値:+31.5万人)と+30.3万人から上方修正された前月、市場予想の+24.0万人(Bloomberg集計の中央値、以下同様)を大幅に下回った(後掲図表2参照)。

失業率は3.9%(前月:3.8%、市場予想:3.8%)と前月から+0.1%ポイント上昇、横這いを見込んだ市場予想を上回った(後掲図表6参照)。労働参加率2は62.7%(前月:62.7%、市場予想:62.7%)と前月、市場予想に一致した(後掲図表5参照)。
 
1 季節調整済の数値。以下、特に断りがない限り、季節調整済の数値を記載している。
2 労働参加率は、生産年齢人口(16歳以上の人口)に対する労働力人口(就業者数と失業者数を合計したもの)の比率。

2.結果の評価:全般的に労働市場の減速を示す内容

非農業部門雇用者数は4月が前月比+17.5万人に留まり、24年1-3月期の月間平均増加ペースの+26.9万人増、23年通期の同+25.1万人を大幅に下回るなど、足元で雇用増加ペースが大幅に鈍化したことを示した。

また、家計調査でも就業者が前月比で僅か+2.5万人と大幅に鈍化したほか、失業者数が+6.3万人増加したことを反映して失業率が横這い予想に反して前月から+0.1%ポイント上昇するなど、労働需給の緩和を示した。

さらに、労働需給の緩和を反映して時間当たり賃金(全雇用者ベース)は、前月比+0.2%(前月:+0.3%、市場予想:+0.3%)と前月、市場予想を下回り、3月は賃金上昇圧力が緩和した。
(図表1)時間当たり賃金の伸び率 前年同月比は+3.9%(前月:+4.1%、市場予想:+4.0%)とこちらも前月から低下、市場予想も下回り、21年6月以来の水準となった(図表1)。

このようにみると、4月の雇用統計は雇用者数、失業率、賃金上昇率ともに3月から労働市場が減速していることを示した。今後も賃金上昇率の低下を伴って労働市場の減速が続くのか5月の結果が注目される。一方、賃金上昇率は低下したものの、物価目標の2%と整合的とみられる3%台半ばの水準を依然として上回る状況が続いている。このため、4月の雇用統計の結果を受けてFRBが早期利下げを決定する可能性は低いだろう。

3.事業所調査の詳細:娯楽・宿泊、政府部門の伸びが大幅に鈍化

事業所調査のうち、民間サービス部門は前月比+15.3万人(前月:+20.4万人)と前月から伸びが鈍化した(図表2)。
(図表2)非農業部門雇用者数の増減(業種別) 民間サービス部門の中では、小売業が前月比+2.0万人(前月:+1.5万人)、運輸・倉庫が+2.2万人(前月:+0.6万人)と前月から伸びが加速したほか、医療・社会扶助サービスが+8.7万人(前月:+8.7万人)、卸売業が+1.0万人(前月:+1.0万人)と前月並みの伸びを維持した。一方、娯楽・宿泊が+0.5万人(前月:+5.3万人)と前月から大幅に伸びが鈍化したほか、専門・ビジネスサービスが▲0.4万人(前月:+1.0万人)と6ヵ月ぶりに前月からマイナスに転じた。

財生産部門は前月比+1.4万人(前月:+3.9万人)と前月から伸びが鈍化した。製造業が+0.8万人(前月:▲0.4万人)と前月からプラスに転じた一方、建設業が+0.9万人(前月:+4.0万人)と前月から伸びが鈍化した。

政府部門は前月比+0.8万人(前月:+7.2万人)と前月から大幅に伸びが鈍化した。内訳をみると、連邦政府が+0.2万人(前月:+1.0万人)と前月から小幅に伸びが鈍化したほか、州・地方政府が+0.6万人(前月:+6.2万人)と大幅に伸びが鈍化した。
前月(3月)と前々月(2月)の雇用増加数(改定値)は前月が+31.5万人(改定前:+30.3万人)と+1.2万人上方修正された一方、前々月が+23.6万人(改定前:+27.0万人)と▲3.4万人下方修正された。この結果、2ヵ月合計の修正幅は▲2.2万人の下方修正となった(図表3)。
 
BLSの公表に先立って5月1日に発表されたADP社の推計は、非農業部門(政府部門除く)の雇用増加数が前月比+19.2万人(前月改定値:+20.8万人、市場予想:+18.3万人)と+18.4万人から上方修正された前月を下回った一方、市場予想は上回った。この結果、ADP社の統計は前月から雇用者数の伸びが鈍化した雇用統計と整合的な結果となった。
 
4月の賃金・労働時間(全雇用者ベース)は、民間平均の時間当たり賃金が34.75ドル(前月:34.68ドル)となり、前月から+7セント増加した。一方、週当たり労働時間は34.3時間(前月:34.4時間)とこちらは前月から▲0.1時間減少した。この結果、週当たり賃金は1,191.93ドル(前月:1,192.99ドル)となり、3ヵ月ぶりに前月から減少した(図表4)。
(図表3)前月分・前々月分の改定幅/(図表4)民間非農業部門の週当たり賃金伸び率(年率換算、寄与度)

4.家計調査の詳細:プライムエイジの労働参加率は上昇

家計調査のうち、4月の労働力人口は前月対比で+8.7万人(前月:+46.9万人)と前月から大幅に伸びが鈍化した。内訳を見ると、失業者数が+6.3万人(前月:▲2.9万人)と前月からプラスに転じた一方、就業者数が+2.5万人(前月:+49.8万人)と前月から大幅に伸びが鈍化して労働力人口全体を押し下げた。非労働力人口は+9.4万人(前月:▲29.6万人)とこちらは前月からプラスに転じた。これらの結果、労働参加率は62.7%と前月から横這いとなった(図表5)。

一方、プライムエイジと呼ばれる働き盛り(25~54歳)のみの労働参加率は4月が83.5%(前月:83.4%)と前月から+0.1%ポイント上昇した。男女の内訳は、男性が89.1%(前月:89.2%)と前月から▲0.1%ポイント低下した一方、女性が78.0%(前月:77.7%)と前月から+0.3%上昇して、プライムエイジの労働参加率全体を押し上げた。

失業率は4月が3.9%と前月から+0.1%ポイント低下したが、23年8月から3.7%~3.9%の狭いレンジでの推移が続いている(図表6)。
(図表5)労働参加率の変化(要因分解)/(図表6)失業率の変化(要因分解)
4月の長期失業者数(27週以上の失業者人数)は125.0万人(前月:124.6万人)と前月から+0.4万人の増加となった。一方、長期失業者の失業者全体に占めるシェアは19.6%(前月:19.5%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表7)。平均失業期間は19.9週(前月:21.6週)とこちらは前月から▲0.7週短期化した。

最後に、周辺労働力人口(156.5万人)3や、経済的理由によるパートタイマー(446.9万人)も考慮した広義の失業率(U-6)4は、4月が7.4%(前月:7.3%)と前月から+0.1%ポイント上昇した(図表8)。この結果、通常の失業率(U-3)との乖離幅は+3.5%ポイント(前月:+3.5%ポイント)と前月から横這いとなった。
(図表7)失業期間の分布と平均失業期間/(図表8)広義失業率の推移
 
3 周辺労働力とは、職に就いておらず、過去4週間では求職活動もしていないが、過去12カ月の間には求職活動をしたことがあり、働くことが可能で、また、働きたいと考えている者。
4 U-6は、失業者に周辺労働力と経済的理由によりパートタイムで働いている者を加えたものを労働力人口と周辺労働力人口の和で除したもの。つまり、U-6=(失業者+周辺労働力人口+経済的理由によるパートタイマー)/(労働力人口+周辺労働力人口)。
 
 

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経済研究部   主任研究員

窪谷 浩 (くぼたに ひろし)

研究・専門分野
米国経済

経歴
  • 【職歴】
     1991年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 NLI International Inc.(米国)
     2004年 ニッセイアセットマネジメント株式会社
     2008年 公益財団法人 国際金融情報センター
     2014年10月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年05月07日「経済・金融フラッシュ」)

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