2024年04月30日

公取委によるGoogleの確約計画認定-検索連動型広告市場の独占

保険研究部 取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長 松澤 登

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1――はじめに

2024年4月22日、公正取引委員会(以下、公取委)は、検索連動型広告市場における独占禁止法違反被疑行為に関して、Googleの確約計画を認定した。事案としては、日本企業であるヤフー株式会社(以下、ヤフー)は検索サービスと検索連動型広告システムをGoogleから提供されていたところ、検索連動型広告システムによる収益化のサービスについてはGoogleから提供を止められてしまっていた。本確約計画では、以上の様な収益化のサービス提供を止めないようにすることをGoogleが確約制度手続を利用して申し出て、認定に至ったものである。

なお、確約計画とは、独占禁止法違反被疑行為がある場合に、被疑会社が被疑行為を止めるなど一定の措置を取ることを確約し、その計画を公取委が認定することで被疑行為を解消するという制度である(独占禁止法48条の3,48条の7)。この制度による認定は被疑会社が独占禁止法に違反したことを確定するものではないが、排除命令などの強烈な効果を持つ行政処分を行わなくとも、市場での競争を促進又は回復することができるというものである。

本稿では筆者の過去の調査をも参考にしつつ、今回の事案を解説したい。

2――検索連動型広告とは

2――検索連動型広告とは

1|広告の種類
下記図表1は、2021年2月1日付けの基礎研レポート1に掲載したものだが、オンライン広告には予約型広告と運用型広告の2種類がある。
【図表1】広告の種類
米国における運用型広告については2024年4月16日付の基礎研レポートにGoogleに対する訴訟を素材として解説を載せている2。簡単に説明すると、媒体社側(ニュースサイトなど)のWebを閲覧者が閲覧した瞬間に、当該HPの広告枠について、媒体社サーバ(Ad Server)が広告取引所(Ad Exchange)に対して入札依頼をだす。これに対して、広告主側が広告主サーバ(Ad buying tools)から入札を行い、一番良い条件を提示した広告主が落札する。そして、落札者の広告が、広告枠に掲示されるというものである。これがコンマ何秒のうちに行われるので、Real Time Biddingと呼ばれる(図表2、図表は上記2024年4月16日基礎研レポートに掲載したもの)。
【図表2】狭義の運用型広告
これは主には閲覧者の属性、例えば性別、年齢層、住居地などを鍵として、入札によって広告の掲示が定まるものである。そして、運用型広告のうち、閲覧者が入力した検索用語を鍵として広告を出すものがある。それが次項で説明する検索連動型広告である。
2|検索連動型広告
検索連動型広告は、検索ページで検索単語(クエリ)を入力すると、その検索結果の表示とあわせてクエリに関連した広告を配信する(図表3)。例えば「京都 旅行」と検索すると、京都のホテルの広告が検索結果とともに表示されるといったものである。
【図表3】検索連動型広告
図表3でモバイルシンジケーション取引とあるが、その中身は公取委資料からは判然としない。ただ、検索連動型広告も運用型広告の一種であるため、上述のReal Time Biddingが用いられるのであろう。

そうすると、2024年4月16日付け基礎研レポートに記載の通り、Google検索結果に広告を載せるためには、Googleの所有するDPF媒体社サービスを利用してGoogleの所有するAdX広告取引所へ入札依頼をする必要がある。そしてAdX広告取引所はGoogleの所有するGoogle Ads広告主サービスから入札を受けて、落札者の広告を掲出する。

本事案ではGoogleはヤフーに対して、DPF媒体社サービスあるいはAdX広告取引所(あるいは日本における同様のサービス・システム)の利用を認めなかったということになろうか。公取委資料からは判然としないので、この点は留保しておきたい。

3――独占禁止法被疑行為とはどのようなものか

3――独占禁止法被疑行為とはどのようなものか

公取委資料から読み取れるのは、Googleは、ヤフーに検索システムを提供しつつ、検索連動型広告サービスを利用させなかったということである。ヤフーとしては、Googleの検索サービス利用料を支払っているはずであり、その見返りとなるはずの検索連動型広告を利用できていなかった。ヤフーがなぜすぐに公取委に申し出なかったのは不明3だが、検索サービスの収益化ができていないので確実に収益機会を失っている。この点、検索連動型広告出稿の収益よりもGoogleの検索システムが利用できることそのものを優先したのであろうか。

ところで、報道によれば日本では検索サービスは7-8割がGoogleで、残りがヤフーとのことらしい4。ヤフーの検索連動型広告を締め出していた期間においては、Googleの検索連動型広告市場のシェアが100%に近かったといえるのかもしれない。すなわち、仮に5日本における検索連動型広告という関連市場が成立しているとすれば、独占状態にあると言える。そして、その独占者たるGoogleがヤフーを排除していると言える可能性が高い。そうすると私的独占の禁止違反(独占禁止法3条)に該当するおそれがある。

この観点からは、今回の確約計画でヤフーに2-3割のシェアを復活させるだけなのはいかにも不十分かもしれない。しかし、競争を回復するための措置として有益であるとは言えそうである。

なお、米国では運用型広告の9割超のシェアをGoogleが握っていると2024年4月16日基礎研レポートで解説した。日本での運用型広告の市場シェアの構成がどのようなものか情報がないが、今日、TVCMよりも稼ぐといわれているオンライン広告については、仲介業ということにとどまるものの、仲介の収益はGoogleが独占しているということになりそうである6
 
3 2015年には収益化が止められていた。
4 読売新聞2034年6月23日付け朝刊3面。なお、Microsoftの閲覧ソフトedgeにあるbingなども存在するので、100%にはならないとは思われる。
5 この点について公取委は何も触れていない。また2024年4月16日基礎研レポートで取り扱った訴訟では検索連動型広告市場は運用型広告市場の一部と米国司法省が考えているように思われる。
6 広告料は媒体社(検索サービスを提供しているwebを運営している事業者)に入る。そして、広告手数料として、広告取引所などが広告料から徴収する。

4――おわりに

4――おわりに

昨今は、生成AIの話題で持ちきりであり、検索がAI搭載になって勢力図が変わる可能性がある。ただ、いまだに検索と言えばGoogleというのは崩れていないのではないだろうか。Google検索は便利かつ精度が高いため、使い勝手が良い。しかし、検索サービスを成立させるために必要な収益化の機会を独占しているのはいかがなものであろうか。

筆者のこれまでの調査範囲では検索連動型広告についてGoogleに確約計画認定をはじめとする何らかの措置を行ったのは、日本の公取委が最初だと思われる。外国企業に対してこのような措置を下すのは、管轄の問題もあり7、結論に至るまで困難な道のりであったであろう。今回は公取委の労作というところであろうか。
 
7 法務省はGoogleなどの外国会社に対して、2022年ころ、外国法人登記を促していたため、Googleは日本における代表者が存在する。このことも本処分にプラスに作用したであろう。

(2024年04月30日「基礎研レター」)

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保険研究部   取締役 研究理事 兼 ヘルスケアリサーチセンター長

松澤 登 (まつざわ のぼる)

研究・専門分野
保険業法・保険法|企業法務

経歴
  • 【職歴】
     1985年 日本生命保険相互会社入社
     2014年 ニッセイ基礎研究所 内部監査室長兼システム部長
     2015年4月 生活研究部部長兼システム部長
     2018年4月 取締役保険研究部研究理事
     2021年4月 常務取締役保険研究部研究理事
     2025年4月より現職

    【加入団体等】
     東京大学法学部(学士)、ハーバードロースクール(LLM:修士)
     東京大学経済学部非常勤講師(2022年度・2023年度)
     大阪経済大学非常勤講師(2018年度~2022年度)
     金融審議会専門委員(2004年7月~2008年7月)
     日本保険学会理事、生命保険経営学会常務理事 等

    【著書】
     『はじめて学ぶ少額短期保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2024年02月

     『Q&Aで読み解く保険業法』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2022年07月

     『はじめて学ぶ生命保険』
      出版社:保険毎日新聞社
      発行年月:2021年05月

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