2024年04月09日

株高で、公的年金の将来見通しの発射台はどうなるか?~年金改革ウォッチ 2024年4月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月の動き

働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会は、2回にわたって関係団体からのヒアリングを行った。年金部会は、これまでの議論を踏まえた上で、遺族年金や基礎年金の保険料拠出期間の延長や脱退一時金等の取扱いについて意見を交換した。年金数理部会は、ヒアリングや作業班での分析の結果を2022年度の公的年金財政状況報告として取りまとめた。企業年金・個人年金部会は、これまでの議論を整理して中間整理を取りまとめ、各委員が今後の課題等を述べた。
 
 
○年金局 働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会
3月7日(第2回) 関係団体からのヒアリング①
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20240131_00003.html (資料)
3月18日(第3回) 関係団体からのヒアリング②
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20240131_00005.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金部会
3月13日(第13回) 議論を踏まえた論点、脱退一時金等、子ども・子育て支援法等の改正、他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20240313.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金数理部会
3月22日(第100回) 公的年金財政状況報告-令和4(2022)年度-
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38591.html (資料)
 
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
3月28日(第33回) 議論の中間整理、「生活設計と年金に関する世論調査」(報告)
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_39183.html (資料)

2 ―― ポイント解説

2 ―― ポイント解説:次期将来見通しの発射台(財政検証での積立金の初期値)の設定

図表1 公的年金の積立金の実績と見通し 2023年度末の日経平均株価は4万円を超えた。本稿では、近年の公的年金の積立金の状況や、今夏の将来見通しから変更される見込みとなった積立金の初期値の設定方法を確認する。
図表2 積立金の実績と見通し(ケースⅠ)との乖離要因 1|近年の積立金:運用好調で前回見通しを超過
公的年金の積立金の残高は、2020年度末以降、2019年に公表された将来見通しの水準を上回っている(図表1)。実績と将来見通しの乖離は様々な要因で生じるが、2024年3月に社会保障審議会の年金数理部会が公表した財政状況報告によれば、近年の乖離の大半は運用利回りの仮定と実績の差によって生じている(図表2)。
図表3 積立金初期値が将来の給付水準に与える影響 2|将来見通しの発射台:平滑化した値へ変更
公的年金の将来見通し(財政検証)は長期の平均的な姿として作成されるが、前述のように積立金の水準は短期的な運用利回りの変動の影響を受ける。年金数理部会は、2019年に公表された将来見通しを分析して積立金の初期値が1割変化すると将来の給付水準(所得代替率)が1.6ポイント程度変化することを示し(図表3)、積立金の初期値に平滑化した値を用いるなどの工夫が必要だと提言した。
図表4 積立金の実績(平滑化前)と平滑化後の値 2024年1月の社会保障審議会年金部会では、同部会の下に設けられた経済前提に関する専門委員会が、将来見通しの足下の積立金には平滑化した値を使うことが望ましい、との意見を示した。具体的には、確定給付企業年金の数理的評価で用いられる方法を使い、過去5年間の平均収益と実績の収益との差を当年度からの5年間に分割して反映することが適当、とした*1

この変更によって短期的な変動の影響がある程度ならされるとは言え、近年の好調な運用は将来の給付水準を引き上げる方向に寄与する。今夏に公表される将来見通しに注目したい。
 
*1 ただし不明点もある。2020年度末以降の平滑化後の値は公表されているが、2015年10月の被用者年金一元化より前の実績の勘案方法や平滑化の対象外となる収益の額は公表されていない。また、年金数理部会の提言は積立金の初期値に対するものであり、初期値に反映されなかった(反映が繰り延べされた)収益の扱いについては明示されていない。

(2024年04月09日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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