2024年03月29日

管理職志向が強いのはどんな女性か~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より(6)

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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2-9│夫の家事分担に満足している層は管理職志向が強い
次に、中高年女性の家庭の状況への満足度と管理職志向との関連を確認するため、図表9の各項目の内容に「満足」と回答した女性の管理職志向を分析した。その結果、「夫の家事分担」に満足している層は、全体に比べて管理職希望層の割合が高いことが分かった。「夫の育児分担」については、サンプル数が少ないため参考値である。つまり、家庭において夫が家事を適切に分担し、女性が家庭の仕事に手を取られ過ぎない場合に、女性は仕事に注力する時間の余裕が生じ、管理職として働くイメージが湧きやすくなる可能性がある。
図表9 家庭の様々な状況に満足している中高年女性の管理職志向
2-10│老後資金のために給与水準を上げたい層は管理職志向が強い
最後に、中高年女性の老後のお金に対する考え方と管理職志向に関連があるかどうかを確認するため、図表10の各項目(単数回答)に「該当する」と回答した女性の管理職志向を分析した。

その結果、「できるだけ自身の現役時代の給与水準を上げ、資産を増やしておきたい」(“自力本願派”)と回答した層は、全体に比べて管理職希望層の割合が高かった。逆に、「年金と資産の範囲で暮らせるように、老後はできるだけ支出を抑えたい」という“節約派”や、「老後の収入の見込みや十分な資産はないが、老後のお金を心配しても仕方ない」という“心配無用派”など、老後資金をためる必要を感じていない層は、管理職志向が弱いことが分かった。

つまり、現役時代にキャリアアップして賃金水準を上げることへの意識には、客観的な家計の状況だけではなく、家計をどうやってやりくりするかという考え方、お金や暮らし方に関するマインドの違いが関連していると考えられる。
図表10 老後のお金に関する考え方別にみた中高年女性の管理職志向

3――終わりに

3――終わりに

本稿では、一般社団法人定年後研究所とニッセイ基礎研究所が行ったアンケートのデータを用いて、管理職志向に関連する様々なクロス分析を行った。改めてその結果をまとめると、中高年女性のうち管理職志向が強いのは、(1)年収階級が高く、仕事に「やりがい」を感じている層、(2)総合職の40歳代後半~50歳代前半、(3)職場で仕事や評価制度、人事、教育に満足して「働きがい」を感じている層と、職場の雰囲気や福利厚生などに満足して「働きやすさ」を感じている層、(4)勤務先で配置や研修による育成を受けている層、(5) 勤務先で配置や研修による育成を希望している層、(6)上司からキャリアアップやスキルアップへの期待を感じている層、(7)職場で女性登用の効果を感じている層、(8) 自己実現や仲間づくりなどの能動的動機で働いている層、(9) 家庭で夫の家事分担に満足している層、(10) 老後資金のために自身の給与水準を上げたい層である。

改めて、この中からキーワードを抽出すると、職場の状況や仕事の内容に満足し、育成機会を与えられ、上司から期待されるなど、「働きがい」と「働きやすさ」を感じている層が、管理職志向が強いと言える。従って、企業が女性管理職を増やそうとするならば、社員の「働きがい」と「働きやすさ」を高められるように、組織運営や組織風土などを見直すことが重要だと考えられる。

また、年齢に関して言えば、上述したように、40歳代後半~50歳代前半の総合職が最も管理職志向が強いが、50歳代後半になると皆、一律に意欲が下がる訳ではなく、約2割は管理職希望を持っていた。従って企業としては、高年齢であっても、意欲や適性のある社員にはスキルアップできるように配置や教育の内容を工夫し、登用候補に加えていく余地があると言える。もちろん、逆に、若いうちから能力がある女性は登用の機会を提供することも重要である。

それと同時に、コースに関して言えば、40歳代後半~50歳代前半までは、総合職の方が、管理職志向が強いものの、一般職が皆、管理職志向が弱いという訳ではなく、40歳代後半の一般職では約3割、50歳代の一般職でも約2割、管理職を希望する層がいた。従って企業としては、コースに限らず、本人の意欲や適性を見て育成、登用していくべきだと言えるだろう。

また、経済面との関連では、必ずしも、低年収など、家計の状態が管理職志向と関連している訳ではなく、本人の家計のやりくりに対する考え方や、お金や暮らし方に関するマインドが、管理職志向と関連していることが分かった。

そして最後に重要な点として、女性の管理職志向は、家庭で夫が適切に家事分担をしていること、つまり女性自身が家庭の用事のために時間を取られ過ぎないか、という点と関連していることが分かった。言い換えると、職場における女性活躍は、家庭における男女役割分業と表裏一体だと言うことができる。従って、経済領域において女性活躍を推進するためには、企業だけではなく、社会全体で、男女役割分業に関する文化や風土を変えていくことが必要になるだろう。これには即効薬というものはないが、現在、国が進めている男性育休の取得促進の動きは、その一つになるのではないだろうか。

さらに、企業が働き方改革や転勤制度などの見直しを進めることによって、帰宅時間を早めたり、在宅勤務制度を拡充したりし、男性の在宅時間を増やし、育休期間後も、男性がより家庭で役割を担えるように環境整備していくことが必要になるだろう。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2024年03月29日「基礎研レター」)

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