2024年03月21日

少子化日本で、子どもをもつ(もった)意味とは?-全体の3割超が「特に理由はない」と回答、日本では家族計画にあまり関心がない傾向-

生活研究部 研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任 乾 愛

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1―― はじめに

厚生労働省の人口動態統計(令和5年12月分)速報によると1、令和5年の出生数は75万8631人で、令和4年と比較し5.1%の減少、統計開始以来、過去最少を記録していることが明らかとなった。

日本では、子どもを持つことに意義を見出さない若者が増加しており、BIGLOBEの調査では、Z世代の約5割が「将来子どもが欲しくない」と回答していることが報告され2、マイナビの調査によると、大学や大学院を2025年に卒業見込みの学生の19.2%が「子どもは欲しくない」と考えていることが3明らかにされた。

一方で、子ども希望がある者、既に子どもを持つ者(世帯)では、どの様な理由で子どもをもうけているのだろうか。また、子どもの有無で子どもを持つ理由(意義)に違いが生じるのだろうか。

弊社では、2019年3月より毎年「被用者の働き方と健康に関する調査」をインターネットで実施している。本調査の対象は、全国の18~64歳の被用者(公務員もしくは会社に雇用されている人)の男女としており、直近の2023年3月の調査では5,747件の回答を得ており、「子どもをもつ(もった)意味」についても調査を実施している。

本稿では、弊社の調査を用いて、少子化が進行する日本において「子どもをもつ(もった)意味」について検証した結果を報告する。
 
1 厚生労働省人口動態統計速報(令和5年12月分)
 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2023/dl/202312.pdf
2 BIGLOBE(2023)「子育てに関するZ世代の意識調査」
 https://www.biglobe.co.jp/pressroom/info/2023/02/230221-1 
3 マイナビ(2023)「2025年卒大学生のライフスタイル調査~Z世代の就活生の“日常”と“将来”を徹底研究!~」https://career-research.mynavi.jp/reserch/20240125_68511/

2―― 子どもをもつ(もった)理由とは?

2―― 子どもをもつ(もった)理由とは?

1分析対象者の基本属性
まずは、2023年の回答データ5,747件の基本属性について図表1へ整理した。分析対象者の平均年齢は41.68歳(SD±11.327歳)であった。年代別では、40歳代が1,665人(29.0)と最も多く、次いで30歳代が1,452人(25.3%)、続いて50歳代が1,319人(23.0%)、60歳代が311人(5.4%)、10歳代が12人(0.2%)と、10歳代及び60歳代の比率がその他の年齢層と比べて低い構成である。

また、分析対象者の性別割合は、男性3,458人(60.2%)、女性2,289人(39.8%)と男女比6:4の構成割合であった。職業別では、正社員・正職員(一般)が4,043人(70.3%)とおよそ7割を占めており、婚姻状況では、未婚者が2,842人(49.5%)、既婚者(事実婚・死別・離別含む)が2,905人(50.5%)と半々であった。世帯年収別では、300-700万円未満が791人(31.7%)と最も多く、300万円未満も98人(9.9%)を占めていた。子どもの有無別では、子ども無しが3,501人(60.9%)、子ども有りが2,246人(39.1%)であった。
図表1.分析対象者の基本属性
2|分析結果
次に、「子どもをもつ(もった)理由」について質問した回答結果(単純集計)を図表2へ示した。その結果、「特に理由はない」と回答した者が1,922人(33.4%)と最も多く、次に「子どもがいると生活が楽しく心が豊かになるから」が1,883人(32.8%)、続いて「結婚して子どもを持つことは自然なことだから」が1,393人(24.2%)であった。

この結果から、全体の3割超は子どもをもつ(もった)理由について、特に理由を見出したことがない=特に考えたことがない傾向が窺え、日本では家族計画についてあまり関心がない実態が浮き彫りになった。
図表2.子どもをもつ(もった)理由

3―― 子どもの有無別、子どもをもつ(もった)理由の特徴

3―― 子どもの有無別、子どもをもつ(もった)理由の特徴

続いて、既に子どもをもっている者と、子どもをもたない者とでは、その理由に差が生じるのかを検証した。統計学的な分析方法としては、「子どもの有無」と「子どものもつ(もった)理由」との関連性について、単変量解析の手法であるχ検定を用いて検証し、その結果を図表3へ示した。

その結果、「子どもの有無」と有意な関連性を示したのは、「結婚して子どもをもつことは自然なことだから」、「子どもがいると生活が楽しく心が豊かになるから」、「子どもは老後の支えになるから」、「子どもは夫婦関係を安定させるから」、「夫や親など周囲が望むから」、「特に理由はない」の6項目であった。今回の解析では、子どもの有無と「将来社会の支えになるから」と「好きな人の子どもをもちたいから」、「子育てする時間的余裕があるから」、「その他」とは有意な関連性は示されなかった。

また、子どもの有無別に理由の詳細をみていくと、既に子どもをもっている者では、「結婚して子どもをもつことは自然なことだから」、「子どもがいると生活が楽しく心が豊かになるから」、「子どもは夫婦関係を安定させるから」と回答した割合が高い傾向を示し、子どもをもたない者では、「子どもは老後の支えになるから」、「夫や親など周囲が望むから」、「特に理由はない」と回答した者の割合が有意に高い傾向が明らかとなった。
図表3.子どもの有無と子どもをもつ(もった)理由との関連性(単数量解析)

4―― おわりに

4―― おわりに

今回の調査結果から、子どもをもつ(もった)理由について「特に理由はない」とする回答が全体の3割超と最も高い割合を占め、尚且つ子どもがいない者において「特に理由はない」と回答する割合が高いことが明らかとなった。

近年の少子化対策は、不妊治療の保険適用が開始され、児童手当の要件緩和及び第3子の増額が決定、出産費用の保険適用化が議論されるなど、子どもを望む層や子育て世帯を対象とした制度改革が目立つ。しかし、今回の調査結果を踏まえると、そもそも現段階において子どもをもつことに理由や意義を見出していない傾向が見受けられ、今後ますます価値観の変容(多様化)が進むと、非婚化、子無しを選択する層が増大することが予想される。

ロート製薬の妊活白書2023では4、未婚男女の55.2%が子どもを望んでいないものの、女性の4人に1人は、将来考えが変わった時のために授かる選択肢は残しておきたいとする結果を報告している。現時点において、将来結婚するか否か、子どもを希望するか否か、見通しが見えない者についても、卵子・精子凍結という選択肢を知ることや、望むタイミングで子を授かれる様に(不妊症のリスク回避)若年期からの健康管理に取り組むことなど、将来の選択肢を広げるための事前の対策は講じることができる。政府が傾倒する経済的支援も重要ではあるが、少子化対策を推進するのであれば、家族計画に無関心な層を含めた対象者へのアプロ―チが求められる時期にきているのではないだろうか。
 
4 ロート製薬「妊活白書2023」https://www.rohto.co.jp/news/release/2024/0301_01/ 
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生活研究部   研究員・ジェロントロジー推進室・ヘルスケアリサーチセンター 兼任

乾 愛 (いぬい めぐみ)

研究・専門分野
母子保健・高齢社会・健康・医療・ヘルスケア

経歴
  • 【職歴】
     2012年 東大阪市 入庁(保健師)
     2018年 大阪市立大学大学院 看護学研究科 公衆衛生看護学専攻 前期博士課程修了
         (看護学修士)
     2019年 ニッセイ基礎研究所 入社
     2019年~大阪市立大学大学院 看護学研究科 研究員(現:大阪公立大学 研究員)

    【資格】
    看護師・保健師・養護教諭一種・第一種衛生管理者

    【加入団体等】
    日本公衆衛生学会・日本公衆衛生看護学会・日本疫学会

(2024年03月21日「基礎研レポート」)

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