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【社会増減データ報】2023年「日本人」社会増減・47都道府県ランキング-地方大都市圏の「雇用人口ダム機能崩壊」が原因
生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
2――エビデンスに基づく大都市圏の雇用改革が必須
ここまでの説明で見えてくるのは「東京都への人口供給中継点」となっている大都市圏の姿である。実際、2023年に東京都に転入超過した人口の移動前住民票住所は以下のとおりである(図表4)。
東京一極集中をイメージではなく、人流の実数でとらえるならば、最も貢献しているのは大阪府と愛知県である。三大都市圏と定義される東京圏、中京圏、大阪圏のリーダーエリアの「若年雇用力」つまりは「エリアリーダーたる大都市が、今どきの男女にとって魅力的な雇用地かどうか」に大きな差が生じていることが一極集中の真因である。
3位から6位の兵庫県、福岡県、北海道、宮城県もそれぞれの地方において「若者に人気がある大都市」を有するはずのエリアばかりである。
このような実態からは、「都会のキラキラ」にあこがれて、いわゆる田舎の若者が東京に取られての一極集中だ、というイメージがもしあるのであれば、それをまず正さないことには、地方の人口減は止まることはないといえる。
東京一極集中を是正したいという場合、図表4の下位エリアがどんなに頑張っても、その効果は極めて小さなままである。なぜなら先述のように、ランキング下位のエリアは東京都ならびに近隣の大都市圏の双方に若年人口を送り出しており、その近隣大都市圏までが東京都にさらに若年人口を送り出している構図があるからである。
いまだに地方に出向くと耳にする社会減に関する誤解が大きく分けて2つある。
1つ目は地元にいい学校が少ないから、という理由である。
「学校を建てたらいいのではないか」といった高齢者の声を地方創生関係の委員会でいまだに声高に聞くことがある。4年制大学率は団塊ジュニアである50代にある筆者が大学に進学する頃ならば、男性は4割弱、女性は8人に1人程度だった。ゆえに学校不足という意見はわからなくもない。
しかし今では、4年制大学に男性の6割弱、女性の5割超が進学し、男女差は6ポイントに迫る。さらには少子化の長期化で、学校の定員を減らしていかねばならない、東京圏でも閉校となる有名大学が出てきている中で、「若者集めに学校を建てればいいのでは」といった議論は非現実的である。
2つ目は移住について、子育て世帯誘致を中心(男性雇用で家族を呼ぶ発想)で進める、といった議論である。これについては東京に集中する人口の属性を全く分かっていない、と言わざるを得ない(図表5)。
20代人口が85%であり、大学進学時に相当する10代後半人口の増加は15%にとどまる。なかでも専門卒就職(20歳)と大卒就職(22歳)が大半を占める20代前半人口が増加人口の64%に達する。また、18歳には高卒就職のための移住者も含まれるため、残る15%がすべて進学移住とはならない。国勢調査では20代前半までの人口は9割以上が未婚者であり、エビデンスに沿って解決を考えるならば、一極集中しているのは子育て世帯などではないため、子育て世帯誘致が大きく掲げられるような政策とはならない。
2023年の東京都において、20代前半の就職時期にある人口が61,450人増加しているのに対して、地方が移住で力を入れている子育て世帯とみられる0~4歳人口と30代前半人口は合計▲7,492で、むしろ東京都から減少している。
そもそも東京都に最も増えている(地方が最も失っている)大規模な若年雇用(未婚)人口への対策を超えて、その12%程度の成果となる子育て世帯(既婚)人口の誘致を優先する理由は、それが男性人口に対してであれ、女性人口に対してであれ、エビデンスからは考えられない対策のはずである。
両親世代のような夫婦関係をうらやましく思う結婚適齢期の子世代が、半数いない。
回答者の親世代の年齢は、30歳あたりで子どもを持っているとして、2021年調査時点で48歳から64歳までの人口であり、2024年現在、50代以上、といっていいだろう。現在50代の男女が20代(結婚適齢期)にあった30年前は1994年であり、育児休業法3は1992年施行であるので、50代であっても、ほぼその恩恵を享受することがなかった男女が回答者の親世代といえる。
図表6に示したように、若者の半分超に「うらやましく感じない夫婦関係(家族形態)」と思われているにもかかわらず、親世代にとっては違和感が少なく、未だ日本で主流となっている就労形態とそれからくる家族の在り方が、とまらぬ未婚化や一極集中の解決のネックとなっている4。
少なくとも親世代が考える夫婦の姿が、今の若い世代にとっての「幸福」「普通」「常識」ではなくなっている。「支え合う2人の姿」のイメージの変化に、人口マジョリティたる中高年層が気づくことがいまだにできない、そのことが人口再生産を阻んでいることに対し、早急に雇用問題に手を打たねばならない。
2 再婚者を含む(再婚同士、どちらかが再婚)婚姻数は出生数に対して明確な負の相関をもつ。昨今、再婚者を含む婚姻の割合が増加しつつあり、これを考慮しない「有配偶率」「総婚姻数」あたりの出生減議論では精密さに欠ける。測定上、夫婦当たりの出生減を大きくとらえる結果となるため、ここであえて注意喚起しておきたい。
3 育児介護休業法のこと
4 本稿では省略するが、女性活躍推進法行動計画の提出企業数、推進状況優良企業数ともに東京都の企業が頭一つとびぬけている。男女ともに東京への集中を続ける実態に、筆者はもはや「女性活躍推進企業」などではなく、「ジェンダーレス雇用企業」と若者の目には映っているのだと感じている。
(2024年03月11日「基礎研レポート」)
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- プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向
・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】内閣府特命担当大臣主宰「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024年度)
・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
※都道府県委員職は年度最新順
・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
・【高知県】高知県「元気な未来創造戦略推進委員会 委員」(2024年度)
・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年度)
・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年度)
・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
・【愛媛県法人会連合会】えひめ結婚支援センターアドバイザー委員(2016年度~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
日本労務学会 会員
日本性差医学・医療学会 会員
日本保険学会 会員
性差医療情報ネットワーク 会員
JADPメンタル心理カウンセラー
JADP上級心理カウンセラー
天野 馨南子のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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