2024年03月11日

【社会増減データ報】2023年「日本人」社会増減・47都道府県ランキング-地方大都市圏の「雇用人口ダム機能崩壊」が原因

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子

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1――「日本人」増加わずか6エリア

1女性に強いエリアが勝ち組に ― 福岡県のみ男性>女性の増加
本稿では2023年の都道府県の転入超過数(転入数―転出数)において都道府県間の「人口綱引き」の結果、その8割の要因(図表1参照)となった「日本人」の人口移動(社会増減)について解説を行いたい。
【図表1】 2023年・転入超過数(国内移動最終結果)に占める日本人・外国人の割合
総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」の2023年間確定値を分析すると、都道府県を超えた住民票移動人口の移動後の「都道府県間の日本人人口綱引き」最終結果となる転入超過数(転入数-転出数、すなわち社会増減)においてプラスとなった勝ち組エリアはわずか6エリアとなった(図表2-1)。

日本人の移動によって13万6515人が6エリアにおいて増加したが(=41エリアで減少)、増加エリアの特徴として「女性定着に強い」エリアであることが挙げられる。
【図表2-1】 2023年・転入超過数がプラスとなった都道府県ランキング(人、倍)
バブル崩壊後の1996年の東京都への女性からの転入超過を端緒とする(男性は1997年から)、東京一極集中と呼ばれる人口移動の歴史をみても、女性の定着に強いエリアのみが勝ち組を続けている状況にある。

雇用時期(後述)における「若年女性人口移動のデッドエンドエリア」の筆頭格ともいえるエリアが東京都であることを理解しなければ、地方創生などありえないと筆者は考えている。
2東京圏で84%を占めるその理由
また、6エリアという少ないエリアのみの社会増のうち43%が東京都の純増となっている。東京都の通勤圏である神奈川、埼玉、千葉を足す(東京圏)と84%にのぼり(図表3)、いかに東京都を中心としたエリアの若年層の定着力が堅固なものかがうかがえる。

なぜここまで「東京圏に」集中しているのか。

実はその理由は、読者のイメージとは随分異なるものとなっている。

結論から述べると、東京圏への局所集中は、大阪圏、中京圏、福岡エリアの人口リーダー県(人口ダム)となる3県における「若者雇用人口ダム機能の決壊」が一番の原因である。
【図表3】 2023年・転入超過数がプラスとなった6エリアの社会増割合(%)
このことを具体的に数字で確認してみたい。

転入超過数プラスエリア5位の大阪府は、以下のエリアとの日本人人口綱引きで大勝(それぞれ1000人以上の転入超過)している。
大阪府への転入超過(前住所地)
2019年から転出超過県に転落している3大都市圏の一角、中京圏の中心県となる愛知県と、大阪圏に属する周辺エリア、ならびに中国エリアの6エリアから合計1万2651人の日本人の転入超過が大阪府に生じている。

しかしその一方で、大阪府は東京都に▲7261人、神奈川県に▲1563人、埼玉県に▲553人、千葉県に▲666人、合計1万43人の日本人を転出超過させている。

大阪府は東京一極集中に大きく貢献しているだけでなく、東京圏全エリア(1都3県)に社会増をもたらしているという状態であり「関西エリアから広く若年人口を集めつつも、東京圏へ大量に若年人口を送り出す東京圏への若年人口供給地」という状況を続けている。
 
転入超過数6位の福岡県も同様である。

福岡県周辺には、福岡県の1000人以上の転入超過元となっている県が6エリアあり、6エリアで合計1万267人の日本人社会増をもたらしている。
福岡県への転入超過(前住所地)
しかしその一方で、東京圏の遠隔地であるにもかかわらず、埼玉県に▲118人、千葉県に▲524人、東京都に▲3685人、神奈川県▲458人、合計▲4785人と、こちらも人口綱引きで東京圏の全エリアに負けているという状況となっている。結果的に「九州エリアから広く若年人口を集めつつも、東京圏へ大量に若年人口を送り出す東京圏への若年人口供給地」という状態を続けている。
 
2019年から転出超過が止まらなくなっている、愛知県が1リードするはずの中京圏も同様である。

愛知県に1000人以上転入超過しているのは、岐阜県2340人、静岡県1089人、三重県1979人で、この3エリアで5408人となるが、その一方で、大阪府に▲1162人、埼玉県に▲622人、千葉県に▲1300人、東京都に▲6710人、神奈川県に▲2288人と、東京圏にだけでも1万920人を転出超過させて2023年は日本人が転出超過するエリアワースト19位(41エリア中)の座にある(図表2-2)。つまり、「中京エリアから広く若年人口を集めつつも、東京圏へ大量に若年人口を送り出す東京圏への若年人口供給地」となっている。
【図表2-2】 2023年・転入超過数がマイナスとなった都道府県ランキング(人、倍)
 
1 このことについて、2020年にある経済団体主催の講演会で講演を実施した際、「講師のお見立てででは愛知県がいずれ転出超過になるというご意見ですが・・・」と、すでに転出超過になっているとの説明が一向に頭に入ってこない聴講者からの質問があり、「すでに転出超過となっています。この流れは社会減の統計的な意味を考えれば、今後悪化すると思います」という説明を繰り返した。このように「確証バイアス」による地元イメージが堅固なあまり、取るべき対策の重要性を理解できない者が少なからずみられるのが、地方創生議論における目立つ特徴の1つでもある。
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生活研究部   人口動態シニアリサーチャー

天野 馨南子 (あまの かなこ)

研究・専門分野
人口動態に関する諸問題-(特に)少子化対策・東京一極集中・女性活躍推進

経歴
  • プロフィール
    1995年:日本生命保険相互会社 入社
    1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向

    ・【総務省統計局】「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
    ・【こども家庭庁】令和5年度「地域少子化対策に関する調査事業」委員会委員(2023年度)
    ※都道府県委員職は就任順
    ・【富山県】富山県「県政エグゼクティブアドバイザー」(2023年~)
    ・【富山県】富山県「富山県子育て支援・少子化対策県民会議 委員」(2022年~)
    ・【三重県】三重県「人口減少対策有識者会議 有識者委員」(2023年~)
    ・【石川県】石川県「少子化対策アドバイザー」(2023年度)
    ・【高知県】高知県「中山間地域再興ビジョン検討委員会 委員」(2023年~)
    ・【東京商工会議所】東京における少子化対策専門委員会 学識者委員(2023年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
    ・【主催研究会】地方女性活性化研究会(2020年~)
    ・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府男女共同参画局】「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
    ・【内閣府委託事業】「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
    ・【内閣府】「地域少子化対策重点推進交付金」事業選定審査員(2017年~)
    ・【内閣府】地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
    ・【内閣府特命担当大臣主宰】「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
    ・【富山県】富山県成長戦略会議真の幸せ(ウェルビーイング)戦略プロジェクトチーム 少子化対策・子育て支援専門部会委員(2022年~)
    ・【長野県】伊那市新産業技術推進協議会委員/分野:全般(2020年~2021年)
    ・【佐賀県健康福祉部男女参画・こども局こども未来課】子育てし大県“さが”データ活用アドバイザー(2021年~)
    ・【愛媛県松山市「まつやま人口減少対策推進会議」専門部会】結婚支援ビッグデータ・オープンデータ活用研究会メンバー(2017年度~2018年度)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータアドバイザー会議委員(2020年度~)
    ・【愛媛県法人会連合会】結婚支援ビッグデータ活用研究会委員(2016年度~2019年度)
    ・【中外製薬株式会社】ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会 委員(2020年~)
    ・【公益財団法人東北活性化研究センター】「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)

    日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)
    日本労務学会 会員
    日本性差医学・医療学会 会員
    日本保険学会 会員
    性差医療情報ネットワーク 会員
    JADPメンタル心理カウンセラー
    JADP上級心理カウンセラー

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