2024年03月08日

ECB政策理事会-制限的な姿勢からの転換に関する議論を開始

経済研究部 主任研究員 高山 武士

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(金融・通貨環境)
  • 市場金利は、1月会合以降に上昇し、我々の金融政策は広範な資金調達環境を制限的に保っている
    • 企業向け貸出金利は概ね安定している一方、住宅ローン金利は12月および1月に低下した
    • しかしながら、貸出金利は高止まりしており、企業向け貸出は5.2%、住宅ローンは3.9%となっている
 
  • 銀行の企業向け貸出は12月に増加に転じ、前年比で0.5%となった
    • しかし、1月には0.2%に低下して、前月比では減少した
    • 家計向け貸出の伸びは引き続き弱く、1月は前年比で0.3%に低下した
    • M3で計測される、広義の通貨は0.1%と鈍い伸びとなった
 
(結論)
  • (声明文冒頭に記載の決定に再言及)
 
(質疑応答(趣旨))
  • インフレ見通しが予想よりも修正された点について。金利見通しにはどのように影響するのか
  • 理事会内での議論について。インフレ率がある時点で目標を下回ってしまうやりすぎかもしれないリスクについて議論したか
    • 金融政策とはやや関係がないが、資本市場透明について議論があったことを前置きとして話したい
    • 20年に欧州委員会が行動計画を策定した際に、理事会は資本市場同盟についての見解を示していた
    • ユーロ圏、欧州委員会の資本市場同盟に向けた動きと特別な努力を考慮し、我々は声明文を大幅に更新して、迅速な動きと進展が不可欠であることをより具体的に示すことを全会一致で決定した
    • インフレは確実に低下しており、インフレ目標に向かって順調に進んでいる
    • その結果、より自信を深めているが、十分ではなく、明らかにより多くの証拠、データを必要としている
    • 4月にはもう少し多くのことが分かるだろうが、6月にはさらに多くのことが分かるだろう
 
  • 6月に多くのことが分かるということについて。4月に利下げの準備が整うほどの十分な情報はないだろうというのは多数派の見解か
    • 6月により多くのデータ、情報が得られるだろうという点には幅広い合意(broad agreement)があった
    • また、1つのデータで我々は見解を変えることはないという点でも幅広い合意があった
    • 現在の動きは方向としては良いが、現時点では十分な自信を与えてくれるほど、十分に強く、持続的なものではない
    • これが会議で受け入れられた大まかな所感であり、決定は全会一致だった
 
  • 特に注視している賃金上昇率について。利下げをするのにはどの程度の減速が必要なのか、より具体的にして欲しい
    • 特に注視している2つの要素が、賃金動向と利益動向の要素である
    • 我々はいくつか後ろ向き(backward-looking)な要素も見ているが、出来る限り前向き(forward-looking)な要素も見ようとしており、新たに締結された賃金交渉結果の今後適用される条件を注視している
 
  • 基調的なインフレ率はあなたが見ている3つの基準のうち、少なくとも現在、2%を上回っているひとつの指標である。今年2.6%と予想されているが、利下げに適した水準はどの程度か
    • 基調的なインフレ率だけが、2%を超えているとは言えない
    • インフレ見通しにはヘッドラインインフレ率があり、これが戦略見直しでも合意した我々が用いる羅針盤である
    • また、コアインフレ率もあり、ノイズを除去するために基調的なインフレ率の他の指標も見ている
    • すべてが我々の目標に近づくのを望むが、そこには至っていない
 
  • 数日前、マリオ・ドラギ氏がワシントンでユーロ圏には巨額の投資資金を調達するための低い資本コストが必要だと述べた。これに同意するか、また高金利によって移行にかかる投資が遅延するかもしれないことについてどのように考えるか
    • 我々は、2つのイタリアの報告書について楽しみにしており、エンリコ・レッタ氏の単一市場がもし完全に実行された場合、現在よりもより高い成長がもたらされるとの報告書である
    • ドラギ氏の欧州の競争力に関する報告書も楽しみにしている
    • 彼の提案に反応するのは、報告書が出るまで待つつもりである
 
  • 前回の会合以降、市場の期待は大幅に修正された。大きな価格修正があった。現在の価格はあなたの見解に沿っているか。市場で起きていることに満足しているか。あなたが考える政策の方向性を良く反映しているか
    • 私はこれまで具体的な市場期待について判断し、コメントすることは控えてきた
    • より収束しているように思われるが、それぞれがそれぞれの仕事をしなければならない
    • 彼らは彼らの仕事をし、我々は我々の仕事をする
 
  • (短期金利操作の)運用枠組み評価(monetary framework revision)について。いまどのような状況か。方向性は。次の段階は何か。最低準備率は議論の一部なのか
    • 運用枠組みについては、短い議論があった
    • 各国中銀総裁間のコンセンサスが得られるだろう足場にたどり着いた
    • 3月13日の会合の場で、結論に達して、公表され、説明されることを強く期待している
    • 最低準備率も公表される一部になるだろう
 
  • 利下げ後の正常化のペースについて。理事会の同僚の何人かは段階的(gradual)なペースとなり、そうすることが利益になると考えていると述べた。この文脈での段階的とはどのような意味だと考えるか。彼らに同意するか
    • 我々は、いかなるペース、リズム、大きさについても約束(コミット、commit)はできず、データ依存を続けるつもりである
 
  • ロシア中銀の凍結された資産をウクライナ政府と彼らのロシア侵攻に対する防衛のための資金として利用するという様々な提案がなされている。これについてどのように考えるか
    • 欧州委員会やG7で議論されている問題で、法的な影響もある複雑な課題である
    • ウクライナがロシアの正当化できない侵攻の結果として、合法的な補償プログラムに多額の資金調達を必要としていることは明らかである
    • 資金調達、資金源、条件については国際的な法的環境、特に何十年も効力を発揮してきた国際的な通貨秩序、法の支配の観点からの合意が必要である
    • 進行中の作業で、我々が最終的に何か言うことは出来ず、指導者たちが決定することである
 
  • FRBの決定がECBの動きに影響を与える可能性はあるか
    • ECBは独立して行動し、やるべきことをやる
    • もちろん、我々が活動する国際環境には留意する
 
  • 商業用不動産(CRE)市場について。米国で見られるストレスを考慮して、欧州のCRE市場にぜい弱性を見ているか
    • (デギンドス副総裁)欧州銀行の商業用不動産へのエクスポージャーは限られており、商業用不動産への与信は総資産の5%程度である
    • 平均値が問題なのではなく、平均のまわりの格差が問題であるが、商業用不動産へのエクスポージャーが高く、バランスシート上に商業用不動産が集中している銀行もある
    • ノンバンクは銀行よりも大きなエクスポージャーがある
    • ノンバンクのエクスポージャーは注視しており、金融安定の主要なリスクでもある
 
  • 今後、インフレ率が2.5%付近に留まる場合、ECBはどのような政策を行うのか。小さな乖離のために、どの程度の成長を犠牲にするのか
    • 成長を犠牲にするという問題ではない
    • 我々の見通しでは、24年の下半期から回復し25年には1.5%、26年には1.6%となる
 
  • 単位労働コストが利益に部分的に吸収されている点について。これは将来も続くのか。また、賃金上昇のインフレへの影響を相殺するのに十分だと考えるか
    • 23年の後半から24年初にかけて心強い数値が見られた
    • まさに我々の見通しにおける前提のひとつである
    • 賃金の軟化と利益によって単位労働コストの一部が吸収されるという双方の動きが確認されることを望んでいる
 
  • 決定は全会一致だったとしても、本日の利下げを提案する人はいたか。4月利下げと6月利下げの大きな違いは何か。経済的な痛みや、決定に必要なデータ量という観点でどうか。大きな違いが本当にあるのか
    • 今回の会合で利下げについては議論していない
    • 制限的な姿勢を巻き戻すという議論をちょうどはじめたばかりである
    • 4月には少し、6月にはより多くのデータが得られる
    • 我々は断固としてデータ依存である
 
  • 投資家はFRBとECBが6月前後で利下げを開始し、同じようなペースだと賭けている。大西洋の両岸で経済情勢が異なることを前提に、彼らがインフレ率も成長率もユーロ圏で低いと考えることは妥当だと思うか
    • ECBは独立した中央銀行であり、独立して行動を行う
    • 3つの基準に基づいて決定を行うつもりである
 
  • 今日のあなたの発言は、昨日パウエル議長から聞かれた、利下げを急ぐつもりはない、に似ている。あなたは、独立して行動する能力に言及したが、主要な中央銀行が同時に利下げを開始することに意味があるのか
    • 私は急がない、とは言っていない
    • 我々は利下げの議論は行っていないが、十分に自信を持てる情報を前提に制限的な姿勢を巻き戻すという議論を開始している
 
  • 冒頭に述べた欧州の競争力の低下について。どの程度永続的なものだと考えているか。欧州はそのことをどの程度心配すべきか
    • ドラギ氏の報告書を読めばどれほど劇的なものかが分かると思う
    • しかし、ここ数十年、欧州が持続的に競争力を失い、金融危機の際にそれが顕著になったことは観測できる
    • これは理事会が、資本市場同盟を展開し、障害を取り除き、監督を強化し、資本を他ではなく欧州に保持、機能させることについて全会一致で強く支持した理由のひとつでもある
 
  • 現在は十分なデータがないと述べたが、十分な自信を持つにはどのような種類のデータが必要か。どのような水準のデータが必要なのか。欧州経済には購買力の回復が必要なのではないか
    • 基調的なインフレ率を見た時、域内インフレという明らかな外れ値があり、サービスである
    • その背後で何がインフレを押し上げているのか特定する必要がある
    • そして賃金はサービスや域内インフレの主要な要素である
    • 我々は賃金に特に注意を払う必要がある
 
  • 賃金上昇率とインフレ率について。賃金上昇率が上昇を続けたとしても基調的なインフレ率の低下トレンドは続くかもしれない。可能性の話だが、この場合は利下げのタイミングを決定するのにどちらが重要となるのか。低下トレンドか、賃金上昇率か
    • 3つの主要要素を引き続き見ており、我々はすべてを見ていくつもりだ
    • インフレ見通し、基調的なインフレ率、伝達の強さという3つの観点での安定を望んでいる
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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経済研究部   主任研究員

高山 武士 (たかやま たけし)

研究・専門分野
欧州経済、世界経済

経歴
  • 【職歴】
     2002年 東京工業大学入学(理学部)
     2006年 日本生命保険相互会社入社(資金証券部)
     2009年 日本経済研究センターへ派遣
     2010年 米国カンファレンスボードへ派遣
     2011年 ニッセイ基礎研究所(アジア・新興国経済担当)
     2014年 同、米国経済担当
     2014年 日本生命保険相互会社(証券管理部)
     2020年 ニッセイ基礎研究所
     2023年より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2024年03月08日「経済・金融フラッシュ」)

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