2024年03月07日

中国、20代の未婚化、出生率低下が顕著

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

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1――止まらない少子化、人口減少

1月17日、中国の国家統計局は2023年の総人口、出生数が前年に続き減少していることを発表した。2023年の総人口は14億967万人で、2022年から208万人減少し、2年連続の減少となった。また、2023年の出生数は902万人と、こちらも2022年から54万人減少している。

それに反して急増しているのが死亡数である。2023年の死亡数は1,110万人で、2022年より69万人増加している。人口減少となると、生まれてくる子どもの数(出生数)が急減している点に注目が集まりがちであるが、それを上回る勢いで死亡数が増加している点にも留意が必要である。当然のことながら、死亡数が出生数より多いため人口減少は起きているからだ。
 
中国における出生数の減少1について、中国国家統計局はその要因を挙げている2。それは、(1)出産適齢期の女性人口の減少、(2)結婚や出産年齢などの上昇、(3)養育や教育費用の高騰による若年層の子育てに対する意欲の低下や考え方の変化、(4)新型コロナウイルスの感染拡大による出産控えである。(1)出産適齢期の女性人口の減少、(2)結婚や出産年齢などの上昇は一人っ子政策による政策的要因、が大きく影響し、(3)養育や教育費用の高騰による子育てに対する意欲の低下や考え方の変化は一人っ子政策の影響に加えて経済的・社会的要因による定性的な要因の影響が大きいと考えられる。なお、(4)新型コロナウイルスによる出産控えについては2022年に改善に向かっている点がうかがえる。2022年の第1子、第3子の出生率は2021年と比較して上昇している3。その背景としては、2021年の出生率がコロナ禍などによってそれまでのトレンド以上に減少しており、2022年はその反動から上昇したと推測されるからである(ただし、出生数の実数は2021年を下回っている)。なお、(3)養育や教育費用の高騰による若年層の子育てに対する意欲の低下や考え方の変化などの定性的な要因についてはこれまで多く報道、論述されている。よって、本稿では出生率について政策的要因である、(1)出産適齢期の女性人口の減少、(2)結婚や出産年齢などの上昇に注目し、その様相を概観したい。
 
1 2021年5月に公表された第7回の人口センサスでは、長年論争が絶えなかった合計特殊出生率が1.3と発表された。以降、2021年は1.15、2022年は1.09となっている。李(2021)によると、2010年の第6回の人口センサスでは合計特殊出生率が1.18とされ、2015年の1%サンプル調査では1.05まで下がったが、政府の公式統計では1.6前後とされたため、それが国連など国際機関の統計に用いられた点を指摘している。(出典)李蓮花(2021)「中国 近づく人口減少社会と社会保障」『世界』、岩波書店、第947(8月)号、pp.121-129。
2 人民網「統計局:我国人口総量未来一段時期将保持在14億人以上」、2022年1月17日、http://m2.people.cn/news/default.html?s=MV8zXzE1Mzk5Mzc0XzEyNV8xNjQyNDAyMzEz、2024年2月19日取得。
3 片山ゆき「中国の出生率の動向‐第3子出産容認の効果」、基礎研レター、ニッセイ基礎研究所、2024年1月15日。

2――出産適齢期の女性人口の減少

2――出産適齢期の女性人口の減少、特に出生率の高い20代の女性人口が大幅に減少。

1949年の中国建国以降、戦争が終結し、社会の混乱が沈静化し、公衆衛生の普及などによって中国の人口は爆発的に増加した。政府は経済成長を促進するために、人口の増加を政策的にコントロールする必要に迫られ、計画出産政策が開始された。1970年代の初めには「晩・稀・少」政策として、「初産の年齢を遅らせ、出産間隔をあけ、少なく出産すること」が目指された。

一方、1979年に一人っ子政策が開始した後も労働力4として、また伝統的な‘孝’の概念によって男児の出産優先の伝統は残り続けた。澤田(2018)は、とりわけ農村部では人民公社が解体されて以降、家庭ごとの生産責任制が実施されたことから、強制的な産児制限に対する抵抗が強かったと指摘している。生産責任制のもとでは、農地の請負面積は世帯の労働力に比例して配分されたので、家族の人数が多いほど広い土地を持つことができる。これで経済単位としての「家」が重要となったことから、後継ぎになる男子の価値が上昇し、女児の中絶や遺棄が増大したとした。一人っ子政策によって人口はある程度コントロールされ経済成長も果たしたが、人口性比の均衡が崩れ、その結果として将来母となる女性の数がアンバランスに減少するという事態を招いてしまったのだ。

国連の人口推計によると、生産年齢人口(15-64歳)が減少し始めた2011年に、その足並みを揃えるように女性の出産年齢にあたる15-49歳の人口も減少している(図表1)。また、15-49歳の男性も同様に減少しているが人口性比をみると2011年時点で女性100に対して男性が106.4、2021年では109.7と広がっている。女性人口が男性人口と比べて大幅に少なく、アンバランスな状態にあることが分かる。

また、15-49歳の女性人口は2011年から2021年の10年間で、4,500万人も減少している(男性は4,000万人減)。政府が懸念している「出産適齢期の女性人口の減少」であるが、政府が出産に最も適齢と考える20-34歳の女性人口は10年間で1,777万人減少している。特に出生率の高い20代の女性人口の大幅な減少の影響は大きい。出生率の最も高い25-29歳(後述)は10年間で877万人減、次いで20-24歳は2,149万人減と大幅に減少している。一方、近年、第2子の出産など出生率が上昇傾向にある30-34歳については1,249万人増加となっている(図表2)。
図表1 15-49歳・男女別人口の推移/図表2 年齢区分別の女性人口の推移(2001年~2021年)
国家統計局は「特に2021年は15-49歳の女性の人口は前年より500万人も減少し、そのうち、出産が最も適齢とされる21-35歳の女性人口が300万人減少するなど大きなダメージとなっている」とした。人口のステージが少産少死(多産ではない)にある現在の中国において、母となる女性の数そのものが大幅に減少すれば生まれて来る子どもも同様に減少してしまうのは当然の帰着と考えられよう。
 
4 澤田ゆかり(2018)「第9章 人口と社会保障」、梶谷懐・藤井大輔編著『シリーズ・現代の世界経済 第2巻 現代中国経済論〔第2版〕』、ミネルヴァ書房、p.186。

3――20代の未婚率の上昇が顕著

3――20代の未婚率の上昇が顕著。30代前半も上昇。

人口学では、ある社会の出生率を決める直接要因は有配偶率、有配偶者の出生力、および非嫡出子の比率であるとしている5。また、日本や中国など東アジアでは非嫡出子の比率がきわめて少ないため、出生率は有配偶率と有配偶者の出生数によってほぼ決まるとしている。

有配偶率(婚姻率)については、片山(2022)6で、中国では婚姻率が急速に低下する一方、離婚率が緩やかに上昇している点、また、初婚年齢の上昇7に加えて主体的に結婚しないことを選択する非婚化に向けた状況も出現し始めている点を指摘した。では、有配偶率の低下、つまり未婚率の上昇の状況についてはどうであろうか。

図表3、図表4は5歳年齢区分別の人口に対してその未婚者数の割合(未婚率)の推移(男女別)を示したものである。この20年間をみると、男性、女性とも20代の未婚率の上昇が顕著で、30代前半においても上昇している。
図表3 男性・年齢区分の未婚割合の推移(2001年‐2021年)/図表4 女性・年齢区分の未婚割合の推移(2001年‐2021年)
特に、男女とも20代の上昇が顕著となっており、例えば男性・20-24歳が15.8ポイント上昇の94.0%、25-29歳が32.0ポイント上昇の58.4%となっている。女性は20-24歳が29.0ポイント上昇の86.9%、25-29歳は22.2ポイント上昇の38.0%に上昇している。20-24歳の女性については、2019年の新型コロナ禍以降、未婚率が急激に上昇しているのも1つの特徴であろう。

20代の未婚率の上昇の背景にはまず、近年、政府の強力な後押しによる大学・大学院進学率の向上があろう。20代の大半を学生として過ごす若年層が増加していると考えられる。また、この20年間の経済の高度成長、都市化の進展によって働き方や生き方が多様化している点も挙げられる。それと同時に、16-24歳の若年層の失業率は統計が開始された2018年1月時点では11.2%であったが、2023年6月には最高の21.3%を記録している8。当局は2023年7月以降、調査方法を見直すとして発表を停止したが、若年層の失業率の上昇が所得の不安定化、将来の生活への見通しに影を落とし、それが未婚率の上昇、更には出生率の低下につながる可能性もある。

その一方で、40代、50代については未婚率の上昇は見られない。日本では50歳時の未婚率である生涯未婚率(45-49歳と50-54歳の未婚率の平均値)が急激に高まっている点が取り上げられることが多いが、中国において生涯未婚率の対象となる45-49歳、50-54歳の未婚率は男女とも低い状態を維持している。今後、日本とは異なり生涯未婚率は上昇しないままなのか、あるいは晩婚化の進展とともにこれから上昇していくのかについては少子化の進行に大きな影響を与えることが考えられ、その動向に留意する必要がある。
 
5 李蓮花・張継元(2022)「中国の少子化対策―日韓との比較を踏まえて」『社会保障研究』第 6 巻第4号、国立社会保障・人口問 題研究所、pp.439-453。
6 片山ゆき「人口減少社会の到来(中国)」、保険・年金フォーカス、ニッセイ基礎研究所、2022年10月18日。
8 2020年の初婚の平均年齢は28.67歳(男性が29.38歳、女性が27.95歳)、10年前と比較して4歳ほど上昇している(2010年時点で初婚の平均年齢は24.89歳、男性が25.7歳、女性が24.0歳となっている)。
7 中国国家統計局は2024年1月17日、16-24歳の失業率の発表を再開、2023年12月時点での失業率は14.9%とした。新たに発表された失業率には仕事を探している学生を除いて算出されている。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

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