2024年03月06日

インド経済の見通し~当面は総選挙を控え投資が鈍化、景気減速へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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(財政政策)24年度国家予算案は財政健全化路線を維持

インド財務省は2月1日に2024年度(2024年4月~2025年3月)暫定予算案を発表した。歳出は前年度修正予算比+6.1%の47兆6,577億ルピーだった(図表9)。23年度の歳出の伸び(同+7.1%)を踏まえると、24年度の歳出は抑制気味だった。歳出の内訳をみると、収益的支出は同+3.2%の36兆5,466億ルピーと、補助金削減等により緩やかな増加にとどまる一方、資本的支出は同+16.9%の11兆1,111億ルピーと大幅に増額されており、GDP比が3.4%で前年度と同水準である。資本的支出は2019年度予算の3.4兆ルピーから毎年二桁増が続いており、この5年間で約3倍に膨れ上がっている。

一方、歳入は純税収が前年度修正予算対比+11.9%の26兆157億ルピーだった。法人税、所得税、物品サービス税(GST)はそれぞれ二桁増の見通しであり、経済成長に伴う税収の堅調な拡大が予測されている。

24年度の財政赤字は16兆ルピー台に減額(GDP比5.1%)となり、前年度(修正予算)の同5.8%から低下、市場予想の同5.3%を下回った。政府は税収の堅調な増加が続くなか、歳出の伸びを抑制することにより、コロナ後のここ数年間に見られた財政健全化路線を継続する計画だ。

主要分野の歳出(内訳)をみると、大きく積み増しとなったのは3.8兆ルピーの農村開発であり、3,229億ルピー増加(前年度修正予算対比+11.2%)、続いてIT・通信が1,997億ルピー増加(同+20.9%)して1.2兆ルピーだった(図表10)。ここ数年のインフラ開発の加速により大きく増加している交通は1,910億ルピー増加(同+3.6%)して5.4兆ルピーだった。伸び率こそ比較的小幅であったが、金額ベースでは引き続き重点分野と言える規模感だった。なお、交通インフラに関しては道路と電力に焦点が当てられた内容となっている。このほか教育が同+14.5%増の1.2兆ルピー、保健が同+13.8%の0.9兆ルピー、都市開発が同+11.9%の0.8兆ルピー、社会福祉が同+20.9%の0.6兆ルピーとなり、それぞれ大幅な増額となった。

一方、食料、肥料、燃料などの補助金の支出額は同▲7.8%の3.8兆ルピーであり、昨年に続いて減額だった。バラマキ色の強い補助金の予算を減らすことにより、インフラや農村開発など主要分野に財源を振り分ける形となった。
(図表9)2024年度暫定予算の概要/(図表10)主要分野の歳出額

経済見通し

経済見通し:当面は総選挙を前に投資が鈍化、景気減速へ

先行きのインド経済は次回総選挙を前に投資が鈍化して景気の減速傾向が続くだろう。しかしながら、23年度は+8%成長が3四半期続いたため前年度比7.6%となり世界最高ペースの成長速度となるだろう。24年度は当面のタカ派的な金融政策により成長ペースが低下するだろうが、投資主導の高成長は続くと予想する。

24年度は世界的な製造業の調整局面の一巡による財貨輸出の回復とインバウンド需要の持続的な拡大が予想されるが、世界経済の減速により財・サービス輸出の増勢は緩やかなものとなりそうだ。また輸入は内需拡大を背景に輸出を上回る伸びが続くものとみられ、外需は引き続き成長率の押し下げ要因になるとみられる。

内需は投資が短期的に鈍化するだろう。24年前半は借入コストの上昇や総選挙前の政治的不透明感の高まりから民間投資が一時的に下振れるとみられる。しかし、次回総選挙を巡っては世論調査で優勢を保つインド人民党の勝利する可能性が高く、政策の継続性が保たれることとなりそうだ。そのため、民間投資は総選挙後に持ち直し、サプライチェーン多様化の動きと政府の生産連動型インセンティブ制度も追い風となり加速するだろう。また2024年度国家予算案では資本的支出が前年度比+11.1%増の11.1兆ルピーを計上しており、政府のインフラ開発などから公共投資の好調は続きそうだ。
(図表11)経済予測表 現在緩慢な成長が続く民間消費は農村部を中心に次第に回復するだろう。昨年は不安定な南西モンスーンの影響でカリフ作物の収穫量が低調だったため、足もとの農村部の需要は弱含んでいるが、ラビ作物の播種は前年を上回っているほか、24年度は通常の南西モンスーンが到来して農業生産が回復すると予想する。また都市部は投資拡大が雇用環境の安定につながり堅調に推移するだろう。

以上の結果として、実質GDP成長率は2024年度が金融引き締めの累積効果が徐々に経済活動の重石となり前年度比+6.4%(2023年度:同+7.6%)と低下するだろうが、内需の堅調な拡大により高成長軌道を維持すると予想する(図表11)。
 
 

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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

(2024年03月06日「基礎研レター」)

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