2024年03月06日

インド経済の見通し~当面は総選挙を控え投資が鈍化、景気減速へ

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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GDP統計の結果:8%台の高成長

(図表1)インドの実質GDP成長率(需要側) 2023年10-12月期の実質GDP成長率は前年同期比+8.4%となり前期の同+8.1%(改訂値)から上昇、Bloombergが集計した市場予想(同+6.6%)を大きく上回った1(図表1)。

10-12月期の実質GDPを需要項目別にみると、内需は民間消費が前年同期比+3.5%(前期:同+2.4%)と上昇した。一方、総固定資本形成が同+10.6%(前期:同+11.6%)、政府消費が同▲3.2%(前期:同+13.8%)となり、それぞれ低下した。

外需は、輸出が同+3.4%(前期:同+5.3%)、輸入が同+8.3%(前期:同+11.9%)となり、それぞれ鈍化した。
(図表2)インドの実質GVA成長率(産業別) 2023年10-12月期の実質GVA成長率は前年同期比+6.5%(前期:同+7.7%)と低下した(図表2)。

産業部門別に見ると、まず第三次産業は同+7.0%(前期:同+6.0%)と上昇した。金融・不動産(同+7.0%)、貿易・ホテル・交通・通信(同+6.7%)、行政・国防(同+7.5%)がそれぞれ堅調に拡大した。

第二次産業は同+10.4%(前期:同+13.6%)と低下したものの、二桁成長が続いた。製造業が同+11.6%(前期:同+14.4%)、鉱業が同+7.5%(前期:同+11.1%)、建設業が同+9.5%(前期:同+13.5%)、電気・ガスが同+9.0%(前期:同+10.5%)となり、それぞれ好調を維持した。

第一次産業は同▲0.8%(前期:同+1.6%)と減少した。天候不順によりカリフ作物の生産量が低下したことが影響したとみられる。
 
1 2月29日、インド統計・計画実施省(MOSPI)が2023年10-12月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。

経済概況:投資好調で+8%の高成長

経済概況:投資好調で+8%の高成長

インド経済は世界的な景気減速やインド準備銀行(RBI)の金融引き締めにもかかわらず、高成長軌道を維持している。四半期ベースの成長率をみると、2022年10-12月期は前年同期比+4.5%まで低下したものの、その後は持ち直し、2023年10-12月期の実質GDP成長率は同+8.4%となり、3四半期連続で+8%超の高速成長が続いている。もっとも、供給側の指標である実質GVA成長率が同+6.5%であったことを踏まえると、実質GDPの+8%成長は実体経済より高く出ている可能性があることは念頭に置いておく必要がある。GDPとGVAの違いは主に純間接税(間接税-補助金)であり、10-12月期は補助金の支払いが減少したため、二つの成長率が乖離する結果となった。

10-12月期の高成長は投資の好調による影響が大きい。総固定資本形成(同+10.6%)は2四半期連続の二桁成長だった。2023年度国家予算では資本的支出が前年度比+28.4%の9.5兆ルピーが見込まれており、実際に支出の大幅な拡大が続いている(図表3)。こうした公共投資は民間の経済活動に波及するほか、中国からのデリスキングを目的とするサプライチェーン再編を進める企業の動きも投資の追い風にとなっているとみられる。

GDPの約7割を占める民間消費は前年同期比+3.5%となり、前期の同+2.4%から上昇したが、緩慢な成長にとどまった。都市部の雇用環境は改善傾向が続いているものの(図表4)、農業生産の低迷により農村部の消費需要が弱かったこと、そして10-12月期の消費者物価上昇率が同+5.4%と、インド準備銀行(RBI)の物価目標の中央値(+4%)を上回って推移しており、家計の実質所得が目減りしたことなどが影響したとみられる。
(図表3)連邦政府の資本的支出/(図表4)都市部の失業率と労働参加率
政府消費は同▲3.2%となり、前期の同+13.8%から急減した。

純輸出は財・サービス輸出が同+3.4%(前期:同+5.3%)と増加傾向が続いた。通関ベースの貿易統計をみると、モノの輸出は海外経済の減速により伸び悩んでおり、回復の動きはみられない(図表5)。しかし、サービス輸出は10-12月期の外国人訪問者数が同+14.0%の280万人となり、二桁増が続いている(図表6)。また財・サービス輸入は同+8.3%(前期:同+11.9%)と増勢が鈍化した結果、純輸出の成長率寄与度は▲1.2%ポイント(前期:▲1.8%ポイント)とマイナス幅が縮小した。
(図表5)インドの貿易動向/(図表6)国内線利用客数と外国人訪問者数

物価の動向

(物価の動向)食品流通改善や金融引き締めにより当面低下へ

(図表7)消費者物価上昇率 インフレ率(消費者物価上昇率)は2022年の国際商品価格の高騰を受けて一時+8%近くまで上昇した後、緩やかな鈍化傾向にある。昨年は食品価格の高騰を受けて7月のCPI上昇率が前年同月比+7.4%に上昇したものの、年末にかけて+5%台まで低下、インド準備銀行(中央銀行、RBI)の中期的な物価目標の中央値である4%を上回って推移している(図表7)。

1月のCPI上昇率は前年同月比+5.1%だった。CPIの内訳をみると、燃料・電力(同▲0.6%)が低迷する一方、食品価格(同+8.3%)が高水準にある。食品のうち、価格変動の大きい野菜(同+27.0%)は依然として高止まりしている。

先行きは、消費が勢いに欠ける状況が続くことやRBIの緊縮的な金融引き締め策によりディスインフレ圧力が働きそうだ。また足元で野菜価格は高騰しているが、ラビ作の播種は昨年の水準を上回っており、今後供給量が増えるなかで食品価格の上昇圧力は和らぐとみられる。従って、今後インフレ率は4%まで低下するだろうが、ベース効果の剥落により下げ止まり、そして消費マインドの改善を受けて再び上向くと予想する。米国が利下げに踏み切る2024年はドル安傾向が強まり、通貨ルピーの下落圧力が弱まることも物価の安定に繋がるだろう。結果として、インフレ率は食品価格が高騰した23年度の+5.4%から24年度が+4.6%まで低下すると予想する。

金融政策の動向

(金融政策の動向)今年前半まで金利据え置きを予想

(図表8)政策金利と銀行間金利 RBIは2022年にコロナ禍からの経済回復とインフレ加速、米国の利上げによる自国通貨安を受けて金融引き締めを開始、政策金利(レポレート)は2023年2月にかけて4.0%から6.5%まで段階的に引き上げられ、その後は据え置かれている(図表8)。

先行きは、RBIが24年後半に政策金利を引き下げると予想する。24年前半は堅調な経済と物価目標の中央値を上回るインフレが続くなか、緊縮的な金融政策が維持されるだろう。当研究所では今年5月に米国が利下げサイクルに転換すると予測している。今後の米国の利下げによって資金流出圧力が和らぐと、通貨ルピーの安定に繋がりインフレ圧力が低下するため、RBIは米国に追随する形で2024年度末にかけて3回の利下げに踏み切ると予想する。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

経歴
  • 【職歴】
     2008年 日本生命保険相互会社入社
     2012年 ニッセイ基礎研究所へ
     2014年 アジア新興国の経済調査を担当
     2018年8月より現職

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