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不況下で高まる企業の人手不足感-有効求人倍率の低下と需給ギャップのマイナスをどうみるか

経済研究部 経済調査部長 斎藤 太郎
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1――従来と異なる最近の人手不足
今回の人手不足局面は従来と異なる特徴がある。企業の人手不足感が急速に高まるなかでも、(1)労働市場の需給関係を反映する有効求人倍率が低下していること(図表1)、(2)実際のGDPと潜在GDPの差を示す需給ギャップがマイナス圏にある(図表2)ことである。
本稿では、これまでの人手不足局面では見られなかった2つの現象について考察する。
2――人手不足でも低下する有効求人倍率
企業の人手不足感と求人動向が乖離している一因は、厚生労働省が公表している有効求人倍率、求人数はあくまでもハローワーク(公共職業安定所)のデータであり、必ずしも労働市場全体の求人動向を反映していないことである。
厚生労働省の「雇用動向調査」を用いて入職経路別の入職者数の割合をみると、最も割合が高いのは広告で30%以上を占めており、民間職業紹介所の割合は水準は低いものの着実に高まっている。一方、ハローワークの割合は2010年の26.2%をピークに低下傾向が続き、2023年(上期)は13.3%と前年から▲4.9%ポイントの大幅低下となった(図表3)。ここにきて、企業の求人がハローワークから他のチャネルにシフトしている可能性が考えられる。実際、内閣府の地方創生推進室が提供しているV-RESASの求人情報数は、2022年1月にコロナ禍前(2019年)の水準を上回った後、増加が続いており、2023年に入ってからはそのペースが高まっている(図表4)。
2023年の未充足求人数、欠員率を業種別にみると、未充足求人数が最も多いのは宿泊・飲食サービス業の33.6万人、それに続くのが医療・福祉の22.2万人、小売業の19.3万人となっている。欠員率は宿泊・飲食サービス業の6.1%が最も高く、次いで建設業の4.5%、生活関連サービス・娯楽業の3.5%となっている(図表7)。なお、欠員率の高い業種は日銀短観における雇用人員判断DIの不足超過幅が大きく3、欠員率の高さと人手不足感の高さは概ね一致している。
1 仕事があるにもかかわらず、その仕事に従事する者がいない状態を補充するために行っている求人
2 欠員率=未充足求人数÷常用労働者数
3 たとえば、日銀短観2023年12月調査の雇用人判断DIは宿泊・飲食サービス業が▲75、建設業が▲57となっている。
3――人手不足でも需給ギャップはマイナス
需給ギャップがマイナス時は、生産要素である資本と労働が平均的な稼働状況にある時のGDPよりも現実のGDPが低く、経済が不況の状態にあることを意味する。現在は不況下の人手不足ということができる。

全産業の労働投入量は長期的に減少傾向が続く中、コロナ禍で落ち込み幅が急拡大した後、増加に転じたが、そのペースは緩やかにとどまっている。労働生産性はコロナ禍でいったん低下したが、2021年に上昇に転じた後、足もとでは前年比で1%前後の伸びとなっている。この結果、最終需要(実質GDP)はコロナ禍で急速に落ち込んだ後、持ち直しているものの、その水準はコロナ禍前とほぼ同水準にとどまっている(図表9-1、図表9-2)。
(2024年02月29日「基礎研レポート」)

03-3512-1836
- ・ 1992年:日本生命保険相互会社
・ 1996年:ニッセイ基礎研究所へ
・ 2019年8月より現職
・ 2010年 拓殖大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2012年~ 神奈川大学非常勤講師(日本経済論)
・ 2018年~ 統計委員会専門委員
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