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- 日独GDP逆転のその先-克服すべき課題は共通
2024年03月07日
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「日本のGDP、世界第4 位に転落へ」。1月15日のドイツ、2月15日の日本の2023年のGDP速報値の公表を受けて、様々なメディアで、このような見出しが踊った。
日本では、米中に比べて、欧州経済が注目される機会は少ないのだが、昨年10月に国際通貨基金(IMF)が公表した「世界経済見通し」で日独逆転の予測が示されて以来、このトピックスはしばしば取り上げられてきた。
おそらく本コラムに目を止めた読者の多くは、日独GDPの逆転は、物価の変動を考慮した名目GDPを市場で決まる対ドル相場で換算した世界の出来事であること、逆転をもたらした要因として、日本側では欧米との金融政策の格差拡大が招いた円安が、ドイツ側ではインフレ高進が作用した、つまり一時的な要因が影響したことは、すでにご存じではないだろうか。
ただ、GDP逆転を一時的な要因と片付けてしまうことはできない。GDPを各国の物価水準を考慮した購買力平価で換算して比較した場合には日独逆転は生じていないが、ドル建てのGDPでも購買力平価換算でも、日独の経済格差は趨勢的な縮小傾向を辿ってきた。また、購買力平価による比較では、中国が2016年に米国を抜きすでに第1位。日本は2000年に中国、2009年にインドに抜かれており、すでに世界第4位となっていた。
ドル建てGDPの比較に話を戻そう。図はIMFの「世界経済見通し」データベース(2022年10月版)がカバーする1980年から2028年までの世界のGDPにおける主要国・地域のシェアの変遷とIMFの見通しを示したものだ。図には、米国、中国、日本、ドイツの他に、人口で中国を抜いて世界最大となったインド、欧州連合(EU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)も加えた。EUの加盟国は1980年代当時の9カ国から、英国離脱前のピークは28カ国まで段階的に拡大し、2020年の英国離脱で、27カ国体制になった。ASEANも1980年時点では5カ国だったが、やはり段階的に拡大し、現在は10カ国が加盟している。図には、こうした地域統合の拡大の影響も反映している。
日本では、米中に比べて、欧州経済が注目される機会は少ないのだが、昨年10月に国際通貨基金(IMF)が公表した「世界経済見通し」で日独逆転の予測が示されて以来、このトピックスはしばしば取り上げられてきた。
おそらく本コラムに目を止めた読者の多くは、日独GDPの逆転は、物価の変動を考慮した名目GDPを市場で決まる対ドル相場で換算した世界の出来事であること、逆転をもたらした要因として、日本側では欧米との金融政策の格差拡大が招いた円安が、ドイツ側ではインフレ高進が作用した、つまり一時的な要因が影響したことは、すでにご存じではないだろうか。
ただ、GDP逆転を一時的な要因と片付けてしまうことはできない。GDPを各国の物価水準を考慮した購買力平価で換算して比較した場合には日独逆転は生じていないが、ドル建てのGDPでも購買力平価換算でも、日独の経済格差は趨勢的な縮小傾向を辿ってきた。また、購買力平価による比較では、中国が2016年に米国を抜きすでに第1位。日本は2000年に中国、2009年にインドに抜かれており、すでに世界第4位となっていた。
ドル建てGDPの比較に話を戻そう。図はIMFの「世界経済見通し」データベース(2022年10月版)がカバーする1980年から2028年までの世界のGDPにおける主要国・地域のシェアの変遷とIMFの見通しを示したものだ。図には、米国、中国、日本、ドイツの他に、人口で中国を抜いて世界最大となったインド、欧州連合(EU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)も加えた。EUの加盟国は1980年代当時の9カ国から、英国離脱前のピークは28カ国まで段階的に拡大し、2020年の英国離脱で、27カ国体制になった。ASEANも1980年時点では5カ国だったが、やはり段階的に拡大し、現在は10カ国が加盟している。図には、こうした地域統合の拡大の影響も反映している。
この図で最も目を引くのは、1990年以降の、中国の世界経済におけるプレゼンスの高まりであろう。中国の躍進の半面で、日本とEUは退潮している。日独の趨勢的な格差の縮小は、ドイツの退潮が、他のEU諸国や日本に比べれば緩やかだったからに過ぎない。
この先はどうか。図に示したIMFの見通しでは、2023年の日独GDPの逆転は2028年時点でも解消されない。ただし、見通しが作成された2023年10月以降、ドイツ経済を取り巻く輸出環境、エネルギー調達環境の厳しさは変わらない一方、11月の連邦憲法裁判所の判決を受けた予算の見直しで、景気循環増幅的な歳出削減に踏み込むというドイツ経済の固有の下振れリスクは増大している。
それでも、日本が短期間でドイツを再び追い越すことは難しそうだ。2022~2023年に作用した2つの要因のうち、インフレ格差は縮まるが、円安が大きく修正される可能性は低いためだ。欧州中央銀行(ECB)は、今年利下げに転じる見通しだが、賃金と物価のスパイラルへの警戒は強く、市場の期待よりも慎重に判断しそうだ。一方、今春の日銀の金融政策正常化は既定路線となりつつあるが、正常化後、一気に引き締め的な水準に利上げすることは想定し辛い。日欧の実質金利差の縮小は緩慢で、ユーロ高円安が大きく修正される可能性は低い。
そもそも世界経済のダイナミックな変化の渦中にあって、日独のGDPの順位に大きな意味があるとは思えない。IMFの予測では、日本は26年、ドイツは27年にインドに抜かれ、1つずつ順位を落とす。ほぼ同時期にASEANのGDPも日独を超える見通しだ。
日独は、ともに輸出型製造業を牽引役に発展し、グローバル化の恩恵を享受してきた。ドル建てGDPにも表れている中国経済の変調への対応、インドやASEANなど新たな成長市場との連携強化、国内投資を阻む諸問題への対応など共通の課題に直面している。この先、注目すべきは、日独のどちらがより速やか、かつ、円滑に、内外環境変化に対応できるかだ。
潮目の変化を日本経済の活性化に向けた好機としたい。
この先はどうか。図に示したIMFの見通しでは、2023年の日独GDPの逆転は2028年時点でも解消されない。ただし、見通しが作成された2023年10月以降、ドイツ経済を取り巻く輸出環境、エネルギー調達環境の厳しさは変わらない一方、11月の連邦憲法裁判所の判決を受けた予算の見直しで、景気循環増幅的な歳出削減に踏み込むというドイツ経済の固有の下振れリスクは増大している。
それでも、日本が短期間でドイツを再び追い越すことは難しそうだ。2022~2023年に作用した2つの要因のうち、インフレ格差は縮まるが、円安が大きく修正される可能性は低いためだ。欧州中央銀行(ECB)は、今年利下げに転じる見通しだが、賃金と物価のスパイラルへの警戒は強く、市場の期待よりも慎重に判断しそうだ。一方、今春の日銀の金融政策正常化は既定路線となりつつあるが、正常化後、一気に引き締め的な水準に利上げすることは想定し辛い。日欧の実質金利差の縮小は緩慢で、ユーロ高円安が大きく修正される可能性は低い。
そもそも世界経済のダイナミックな変化の渦中にあって、日独のGDPの順位に大きな意味があるとは思えない。IMFの予測では、日本は26年、ドイツは27年にインドに抜かれ、1つずつ順位を落とす。ほぼ同時期にASEANのGDPも日独を超える見通しだ。
日独は、ともに輸出型製造業を牽引役に発展し、グローバル化の恩恵を享受してきた。ドル建てGDPにも表れている中国経済の変調への対応、インドやASEANなど新たな成長市場との連携強化、国内投資を阻む諸問題への対応など共通の課題に直面している。この先、注目すべきは、日独のどちらがより速やか、かつ、円滑に、内外環境変化に対応できるかだ。
潮目の変化を日本経済の活性化に向けた好機としたい。
(2024年03月07日「基礎研マンスリー」)

03-3512-1832
経歴
- ・ 1987年 日本興業銀行入行
・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
・ 2023年7月から現職
・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
・ 2017年度~ 日本EU学会理事
・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
「欧州政策パネル」メンバー
・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員
伊藤 さゆりのレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/03/17 | 欧州経済見通し-緩慢な回復、取り巻く不確実性は大きい | 伊藤 さゆり | Weekly エコノミスト・レター |
2025/03/07 | 始動したトランプ2.0とEU-浮き彫りになった価値共同体の亀裂 | 伊藤 さゆり | 基礎研マンスリー |
2025/01/24 | トランプ2.0とユーロ-ユーロ制度のバージョンアップも課題に | 伊藤 さゆり | Weekly エコノミスト・レター |
2025/01/17 | トランプ2.0とEU-促されるのはEUの分裂か結束か?- | 伊藤 さゆり |
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【日独GDP逆転のその先-克服すべき課題は共通】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
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