2024年02月26日

要介護認定を受けるきっかけ~日常生活はおおむね送れる高齢者の要介護認定

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 村松 容子

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1――はじめに

高齢期における介護は、大きな病気をしたり、長期にわたるリハビリを要するようなケガをする等をきっかけに、突然始まるケースと、大きな病気やケガはなくても加齢にともない体力や活動量が少なくなり、気づけば少しずつ始まっているケースがある。

高齢者が日常生活を継続するためには、家族構成や家族の状況によって異なるが、家族や周囲の人が支援を行うか、公的介護保険を利用することが考えられる。家族だけでは支えきれないほど日常動作に支障が出てきた場合は、要介護認定を受けるきっかけを得やすいと思われるが、日常動作はおおむねできるが加齢による衰弱があり、日常生活における活動が減ったり活動領域が狭くなってきた状態では、要介護認定を受けるきっかけが得にくい可能性がある。介護サービスを受けるべきかどうかといった迷いもあるかもしれない。しかし、例えば要支援状態で受けられるサービスには、要介護状態になるのを予防するために適切なサポートを行うことを目的とするものもあり、必要なサービスがあれば利用を検討しうる。

本稿では、要介護度としては、比較的軽い要支援や要介護1以下の状態で初めて認定を受けた人について、その時の症状や認定を受けたタイミングを尋ねた結果を示す。

2――要介護度と身体の状態

2――要介護度と身体の状態

要支援・要介護度別の身体の状態は図表1のとおりである。概ね身の回りのことや、日常動作ができる状態では、要支援~要介護1と判定され、日常動作に支障が出始めると、要介護2以上と判定されることが多い。

認定を受けることで、日常生活を送るための支援だけでなく、必要に応じて身体機能の維持・改善に向けた適切なサービスを受けることもできる。
図表1 要介護度の目安

3――はじめて要介護認定を受けた症状とタイミング

3――はじめて要介護認定を受けた症状とタイミング

1|使用したデータ
使用したデータは、2023年12月にニッセイ基礎研究所が実施したインターネット調査1の結果である。調査は、要介護2以上になった家族をもつ人を対象に行った。本稿では、このうち、初めての要介護認定における判定が、要介護1以下(自立、要支援1~2、要介護1)で、要介護者が調査実施時点で65歳以上である1,136人を対象に分析を行った。

回答者は、男性が612人(平均年齢51.5歳)、女性524人(同 51.4歳)だった。回答者の就労率は、男性60.0%、女性45.8%だった。回答者が介護の主な担い手である割合は、男性が43.1%、女性が48.1%だった。

要介護者の内訳は、男性が447人(調査時点での平均年齢82.0歳)、女性が689人(同 84.4歳)だった。
 
1 ニッセイ基礎研究所「要介護高齢家族の生活に関する調査」2023年12月15日~18日、要介護2以上になった家族をもつ男女25~74歳。有効回答数2000.
2|初めて認定を受けた時の要介護者の状態
初めて認定を受けた時の要介護者の主な症状をみると、男女とも最も多かったのが「認知症」で、男性要介護者の20.8%、女性要介護者の25.8%を占めた。次いで、「高齢による衰弱」(男性19.2%、女性20.3%)だった。3番目に多かったのは男性要介護者で「悪性新生物(がん)」で7.2%、女性要介護者で「骨折・転倒」で12.0%だった。「わからない・答えたくない2」も男性で18.6%、女性で15.8%と、男女とも「認知症」「高齢による衰弱」に次いで高かった。
図表2 初めて認定を受けた時の症状(男女計で割合が高い順)
 
2 「わからない・答えたくない」には、要介護者の主な症状が「わからない・答えたくない」と回答した人以外に、初めて要介護認定を受けた時期等について「わからない・答えたくない」と回答した人も含む。
3|初めて認定を受けたタイミング
次に、初めて認定を受けたときに要介護度1以下だった人3について、要介護認定を受けたタイミングを図表3に示す。
図表3 主な症状別の要介護認定を受けたきっかけ(全体で割合が高い順、複数回答)
全体では、「身体機能への不安があった」が35.8%ともっとも高く、次いで「認知機能への不安があった(29.4%)」「入院中、退院する時期にあわせて(22.5%)」「介護サービスを利用したかった(21.8%)」「家族だけでは支えきれなくなった(21.4%)」が2割以上で続いた。要介護認定を受けた主な症状別にみると、認知症では「認知機能への不安があった」「家族だけでは支えきれなくなった」「(家族の手助けを必要とするほどではないが)本人が身の回りのことを自分で出来なくなった」「介護を主に担っていた人の生活環境の変化等により介護ができなくなった」が、高齢による衰弱では「身体機能への不安があった」「介護サービスを利用したかった」が、骨折・転倒では「身体機能への不安があった」「入院中、退院する時期にあわせて」「介護サービスを利用したかった」が、脳血管疾患では「身体機能への不安があった」「入院中、退院する時期にあわせて」が、悪性新生物(がん)では「入院中、退院する時期にあわせて」「介護を主に担っていた人の生活環境の変化等により介護ができなくなった」が、心疾患(心臓病)では「入院中、退院する時期にあわせて」が、関節疾患では「身体機能への不安があった」が、それぞれ全体と比べて高かった。主な症状がわからない・答えたくない人では「なんとなく」も高かった。
 
3 認定を受けた結果「自立」と判定された59人(分析対象者の4.9%)を含む。

4――おわりに

4――おわりに

高齢者が日常生活を継続するためには、家族や周囲の人が支援を行うか、公的介護保険を利用するかが考えられる。家族だけでは支えきれないほど日常動作に支障が出てきた場合は、要介護認定を受けるきっかけを得やすいと思われるが、日常動作はおおむねできるが加齢による衰弱があり、日常生活における活動が減ったり活動領域が狭くなってきた状態では、要介護認定を受けるきっかけが得にくい可能性がある。そこで、本稿では、要介護状態としては比較的軽く、日常動作はおおむねできる要支援や要介護1に該当する状態で、要介護認定を受けた人の認定を受けた人に着目して、認定を受けたきっかけをみた。

その結果、全体では、主なきっかけとして、「身体機能への不安があった」「認知機能への不安があった」「入院中、退院する時期にあわせて」の順に高かった。主な症状によって認定を受けるタイミングは異なる傾向があり、骨折や転倒、循環器系の疾患やがん等、入院を要することが多い症状では、退院時に退院後の生活を見据えて要介護認定を受けているようだ。認知症では、認知機能への不安や家族では支えきれない、本人が身の回りのことをできなくなった等で受けている点が特徴的だ。一方、認知機能の低下などが見られず、高齢による衰弱や関節疾患など入院をしないことも多い症状でも、身体機能への不安や介護サービスを利用したくなったタイミングで受けることが多いようだった。

このように、要介護者の症状によって、要介護認定を受けるきっかけは異なっていたが、介護サービスの中には、日常動作を助けるものだけでなく、自立した生活を継続することを目的とするサービスもある。日常動作がおおむね可能であっても、必要に応じてサービスを活用しながら、本人や家族が望む生活を維持していくことが望まれる。
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保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

村松 容子 (むらまつ ようこ)

研究・専門分野
健康・医療、生保市場調査

経歴
  • 【職歴】
     2003年 ニッセイ基礎研究所入社

(2024年02月26日「基礎研レター」)

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