2024年02月13日

次期年金改革に「3度目の正直」や「一発採用」はあるか?~年金改革ウォッチ 2024年2月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

年金数理部会は、公務員共済等の2022年度の財政状況をヒアリングした。年金事業管理部会は、日本年金機構の2024年度からの5年間の中期計画と2024年度の計画の案について議論した。企業年金・個人年金部会は、健全化法への対応である厚生年金基金の廃止やこれまでの議論に追加すべき点について議論し、3月までに中間整理を行うことを確認した。年金部会は、専門委員会がまとめた年金財政における経済前提の在り方、次期財政検証におけるオプション試算、これまでの議論の振り返りについて意見交換した。
 
○社会保障審議会 年金数理部会
1月11日(第99回) 令和4年度財政状況、国家公務員共済、地方公務員共済、私学共済
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000198131_00030.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
1月12日(第71回) 日本年金機構の第4期中期目標、第4期中期計画及び令和6年度計画の策定
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo71_00001.html (資料)
 
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
1月29日(第31回) 健全化法への対応、視点1~3の追加の議論、金商法等の改正と資産運用立国
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37573.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金部会
1月31日(第12回) 年金財政における経済前提、オプション試算、これまでの議論の振り返り等
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20240131.html (資料)

2 ―― ポイント解説:オプション試算と制度改正の関係と見通し

2 ―― ポイント解説:オプション試算と制度改正の関係と見通し

年金部会では、これまでの議論の振り返りとオプション試算が議論された。本稿では、過去のオプション試算と制度改正の関係を確認し、2024年夏頃の公表が見込まれる今回のオプション試算と2025年の通常国会への提出が見込まれる改正法案を展望する。
図表1 オプション試算と改正法案の経緯 1|オプション試算とは:制度改正の検討材料
年金改革におけるオプション試算は、法律で義務付けられている将来見通し(財政検証結果)と合わせて厚生労働省が公表する、制度改正を仮定した試算である。現在の制度を続けた場合と比べて将来の給付水準などにどのような影響が出るかを確認できる。2013年の社会保障制度改革国民会議の報告書で必要性が示され、2014年の財政検証から公表されており、今回公表されれば2014年と2019年に続いて3回目となる。

オプション試算は次期年金改革の素案や試案とも受け止められるが、すべての改革案を盛り込んでいる訳ではない*1。オプション試算に含まれていない項目が改正法案に盛り込まれることもあり、逆にオプション試算に含まれていても改正法案に盛り込まれないものもある。また、1つの項目に対して複数のパターンが試算される場合もある。
 
*1 先日の年金部会の資料では「年金部会等で見直しの議論がされており、改正後の姿が想定でき、試算を行うための制度の前提を設定できるもの」「年金財政に対して、一定程度の影響が見込まれるもの」が対象になることが示された。
2|今回の展望:懸案事項が試算の中心に
これまでの年金部会で議論された項目の中で今回のオプション試算での採用が有力なのは、厚生年金の適用拡大、在職老齢年金の見直し、基礎年金の拠出期間延長、マクロ経済スライドの調整期間一致、だろう。中でも在職老齢年金の見直しと基礎年金の拠出期間延長は過去2回の改革で法案化が見送られており、今回が「3度目の正直」とも言える状況にある。

他方で、障害年金、遺族年金、加給年金は、懸案ではあるが具体的な改革案までは議論が及んでいなかった項目である。オプション試算で採用されれば初登場となるが、長年の懸案であるため法案化に「一発採用」される可能性もある。

オプション試算は、制度の変更が年金財政や将来の給付水準にどの程度の影響を与えるかを定量的に把握できる貴重な機会である。年金に関する議論は定性的になりがちで、金額が示されても影響が過大に意識される場合がある*2。表面的な金額よりも実質的な影響を踏まえた、冷静な国民的議論を期待したい。
 
*2 例えば、2020年の制度改正に向けて65歳以降の在職に伴う年金の増額を毎年反映(定時改定)する仕組みが議論された際には、制度変更に伴う年間80億円の支出増を世代間不公平の悪化要因と批判する意見が出た。定性的には正しい指摘だが、年間の給付費が約50兆円であることを考えれば、実質的な影響はわずかと言えよう。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2024年02月13日「保険・年金フォーカス」)

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