2020年01月08日

2020年の年金改革に向けて残ったオプションと残されたオプション

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任   中嶋 邦夫

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2018年4月の第4次年金部会招集から始まった次期年金改革に向けた議論は、2019年11月末に自民党 社会保障制度調査会 年金委員会・医療委員会 合同会議で提言案がとりまとめられ、法案作成に向けて落ち着きつつある(本稿執筆は2019年12月4日)。

前回(2016年)の改革過程から、5年に1度行われる将来見通しの作成(財政検証)に合わせて、制度改正の議論に資するための試算(オプション試算)が示されるようになり、これを基礎として法案化に向けた議論が進められてきた。しかし、オプション試算の項目はあくまで選択肢(車を購入する際のオプションと同様の意味)であり、オプション試算に盛り込まれた項目が必ず制度改正に盛り込まれるわけではない。逆に、オプション試算に盛り込まれていなかった項目が、制度改正に盛り込まれる場合もある。

次期改革に向けた最重要項目は、短時間労働者(パート労働者)への厚生年金の適用拡大である。正社員501人以上の企業での実施を決定した2012年の改正法の附則に、2019年9月末までに更なる拡大を検討することが盛り込まれていた。前回のオプション試算では220万人もしくは1200万人という規模の拡大が試算されたが、改正では501人未満の企業に任意での適用拡大を認める内容にとどまり、本格的な議論は先送りされていた。次期改革に向けては、年金部会で適用拡大の重要性が共有され、オプション試算には3通り(125万人・325万人・1050万人)の拡大が盛り込まれていたが、現時点の改革案では65万人規模の拡大にとどまる見通しである。
図表1:前回と今回の改正に向けた議論の推移
第2の重要項目は、基礎年金の適用期間の延長である。現在、65歳までの就労に向けた環境が整いつつあるが、基礎年金の適用期間は20~59歳の40年間に限定されている。このため、60歳以降に就労して厚生年金保険料を払ったとしても、受給できる基礎年金の金額は増えない。また、現行制度に基づく将来見通しでは、厚生年金(いわゆる2階部分)と比べて、基礎年金(1階部分)の水準が大きく低下する見通しになっている。この2つの状況を踏まえ、就労延長に合わせて基礎年金の適用期間を64歳までに延長し、拠出期間が延びた分だけ基礎年金の水準を底上げするのが、この案である。しかしこの案には、基礎年金水準の底上げによって現行制度ベースの将来見通しよりも国庫負担額が増える、という問題がつきまとう。このため、前回は制度改正に盛り込まれず、今回も現時点の改革案では先送りの対象となっている。

今回の議論の終盤で大きな話題になったのが、在職老齢年金(老後に働いて一定以上の収入があると年金が減額される仕組み)の見直しである。前回のオプション試算には65歳以降の在職老齢年金の廃止を組み込んだ試算が盛り込まれていたが、単体では明示されていなかったため話題にならなかった。今回は、ここ数年の骨太方針等で65歳以降の見直しや廃止の方針が示されていた影響もあり、大きな注目を集めた。今回のオプション試算には65歳以降の廃止か緩和の2通りが盛り込まれ、年金財政への影響はあまり大きくないことが示された。しかし、ある程度とは言え年金財政に悪影響を及ぼすことや、現時点では就労の阻害要因とは言えないこと、廃止や緩和のメリットを受けるのが高所得層に限られることなどが問題視され、現時点の改革案では65歳以降については見直しが行われない方針になっている。一方で、60代前半に対する在職老齢年金は、前回改正の議論では、支給開始年齢の65歳への引上げがまもなく(男性は2025年、女性は2030年に)完了するため特段の改正の必要はない、という結論になっていたが、現時点の改革案では緩和する案が盛り込まれている。
図表2:前回と今回の改正に向けた議論の推移
このように、前回改革で残された課題やオプション試算に盛り込まれていた項目の一部しか、今回の改正法案には盛り込まれない情勢になっている。法案提出後は議論の場が国会に移るが、建設的な議論が行われ、今回の法案に盛り込まれなかった項目が早期に再検討がされるような法律の附則(検討項目)や附帯決議を期待したい。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度

(2020年01月08日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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