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- 2019年公的年金財政検証(将来見通し)のポイント
2019年10月08日
公的年金の財政検証(将来見通し)が5年ぶりに公表された。本稿では、今回の見通しのポイントを確認する。
1―重要な前提=保険料の引上げ停止
公的年金の将来見通しでは、給付水準の見通しが示される。これまでもそして今回も、将来の給付水準が低下する見通しになっている。このように給付水準が低下するのは、2017年に公的年金の保険料(率)の引上げが停止されたためである。
保険料(率)の引上げ停止は、2004年改正で決まった。当時の試算では、当時の給付水準を維持するには厚生年金の保険料率を将来的に労使合計で25.9%まで引き上げる必要がある、という結果であった[図表1]。しかし、労使ともに保険料の引上げに反対したため、保険料率の引上げを18.3%で停止し、その代わりに将来の給付水準を段階的に引き下げて、年金財政のバランスを取ることになった。これが「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みである。
給付水準の引下げは年金財政が健全化するまで続くが、いつ年金財政が健全化するかは、今後の人口や経済の見通しによって変わる。そこで、国勢調査が5年ごとに行われることを踏まえて、政府は少なくとも5年ごとに年金財政の見通しを作成する(財政検証を行う)ことになっている。
保険料(率)の引上げ停止は、2004年改正で決まった。当時の試算では、当時の給付水準を維持するには厚生年金の保険料率を将来的に労使合計で25.9%まで引き上げる必要がある、という結果であった[図表1]。しかし、労使ともに保険料の引上げに反対したため、保険料率の引上げを18.3%で停止し、その代わりに将来の給付水準を段階的に引き下げて、年金財政のバランスを取ることになった。これが「マクロ経済スライド」と呼ばれる仕組みである。
給付水準の引下げは年金財政が健全化するまで続くが、いつ年金財政が健全化するかは、今後の人口や経済の見通しによって変わる。そこで、国勢調査が5年ごとに行われることを踏まえて、政府は少なくとも5年ごとに年金財政の見通しを作成する(財政検証を行う)ことになっている。
2―注目点1=給付水準の低下率
前述のとおり、現在の制度では将来の給付水準を段階的に引き下げて年金財政のバランスを取る。そのため、給付水準がどの程度で下げ止まるかが、将来見通しの第1の注目点である。
ただ、給付水準は、法律で定められたモデル世帯の所得代替率で示されるため、値自体の解釈が難しい。そこで注目すべきなのは、所得代替率が足下と比べて何割低下しているか(割り算で求めた低下率)である。
今回(2019年)の財政検証では、足下(2019年度)の所得代替率が61.7%だったのに対し、今後の人口や経済状況によって、最終的に53.8~31.1%へと低下する見通しが示された[図表2左]*。これは、足下の水準と比べて、給付水準が1~5割程度低下することを意味する[図表2右]。
ただ、給付水準は、法律で定められたモデル世帯の所得代替率で示されるため、値自体の解釈が難しい。そこで注目すべきなのは、所得代替率が足下と比べて何割低下しているか(割り算で求めた低下率)である。
今回(2019年)の財政検証では、足下(2019年度)の所得代替率が61.7%だったのに対し、今後の人口や経済状況によって、最終的に53.8~31.1%へと低下する見通しが示された[図表2左]*。これは、足下の水準と比べて、給付水準が1~5割程度低下することを意味する[図表2右]。
* 死亡率が中位の場合。死亡率が低位や高位の場合は、出生率が低位や高位の場合より影響が小さいため割愛。
3―注目点2=厚生年金の適用拡大
4―注目点3=高齢者の就労と年金
B-1は、65歳への雇用延長が広がる中で、基礎年金の拠出期間をこれと揃えようという発想である。それと同時に、拠出期間が増えた分だけ基礎年金が増額されるため、前述した基礎年金の水準低下への対策ともなる。
B-3は、厚生年金の加入期間が増えることで年金額が増加するが、保険料負担が伴うため就労を抑制する懸念がある。そのためこの案は、次のB-2の代替財源としての案かもしれない。
B-2は、いわゆる「働くと年金が減る仕組み」のうち65歳以上を対象とした部分の廃止や緩和である。就労を促進する可能性はあるが、(1)現在の対象者は就労者の18%に過ぎず、かつ月収70万円以上が多い、(2)給付が増えるため年金財政が悪化し、将来世代の給付をより低下させる、という性格もあるため、見直しの是否を巡って経団連と日本商工会議所とで意見が分かれている。
B-4は、繰下げ受給によって、給付水準の引上げを可能にする案である。基本的に年金財政に中立的であるため実施のハードルは低いが、(1)現行制度の利用者は1%しかおらず、見直しの効果が疑問、(2)現行制度でも65歳まで働いて67歳まで繰下げれば、現在の高齢者と同等の給付水準になる、(3)遺族年金は増額されないため、本人死亡時に年金額の落差が大きくなる、という課題がある。
2019年6月の骨太方針では、年金の改正は2019年末までに結論を得るとしている。今後議論が進む見込みだが、残された時間は短い。
B-3は、厚生年金の加入期間が増えることで年金額が増加するが、保険料負担が伴うため就労を抑制する懸念がある。そのためこの案は、次のB-2の代替財源としての案かもしれない。
B-2は、いわゆる「働くと年金が減る仕組み」のうち65歳以上を対象とした部分の廃止や緩和である。就労を促進する可能性はあるが、(1)現在の対象者は就労者の18%に過ぎず、かつ月収70万円以上が多い、(2)給付が増えるため年金財政が悪化し、将来世代の給付をより低下させる、という性格もあるため、見直しの是否を巡って経団連と日本商工会議所とで意見が分かれている。
B-4は、繰下げ受給によって、給付水準の引上げを可能にする案である。基本的に年金財政に中立的であるため実施のハードルは低いが、(1)現行制度の利用者は1%しかおらず、見直しの効果が疑問、(2)現行制度でも65歳まで働いて67歳まで繰下げれば、現在の高齢者と同等の給付水準になる、(3)遺族年金は増額されないため、本人死亡時に年金額の落差が大きくなる、という課題がある。
2019年6月の骨太方針では、年金の改正は2019年末までに結論を得るとしている。今後議論が進む見込みだが、残された時間は短い。
(2019年10月08日「基礎研マンスリー」)
03-3512-1859
経歴
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
中嶋 邦夫のレポート
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