2024年02月07日

新NISA、「毎月投資」か「1月一括投資」か

基礎研REPORT(冊子版)2月号[vol.323]

金融研究部 主席研究員 チーフ株式ストラテジスト 井出 真吾

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1―サマリー

新NISA(少額投資非課税制度)がスタートした。非課税期間の無期限化、非課税投資限度額の大幅拡大で期待が高まる一方、ネット上などでは「毎月定額つみたて投資するのと、1月に一括投資するのではどちらが有利か」で意見が割れているようだ。全世界株式(オールカントリー、略して“オルカン”*)と米S&P500どちらを買うべきかも同様だ。“ 論争”に終止符を打つべく、検証した。
 
* 「オルカン」は三菱UFJアセットマネジメント株式会社の登録商標。

2―「1月一括投資」が有利だった

理屈は後回しにして、まずは検証結果から。図表1は2000年1月~2023年11月まで、年間投資額12万円を「1月に一括投資した場合」と「毎月1万円つみたて投資した場合」の23年11月末時点の資産額だ。投資対象はTOPIX、S&P500、MSCI-ACWI(オルカン)の配当込み指数とした。
[図表1]「1月一括投資」が有利だった
結果は「S&P500に1月一括投資」が最も有利で、投資元本287万円が1,603万円に増えた(年平均利回り7.5%)。一方、「S&P500毎月投資」は1,476万円だった( 同7.1%)。オルカン(MSCI-ACWI)、TOPIXも結果は同様で、「1月一括投資」のほうが有利な結果となった。

「ドルコスト平均法を実践するつみたて投資は一括投資よりも有利」という解説も少なくないが、検証結果は真逆だ。この理由は株価指数の推移にある。図表2のとおり、これら株価指数は検証した24年間の多くで右肩上がりだったため、1月に一括投資したほうがその後の株価上昇の恩恵がより大きくなったわけだ。

特に上昇率が大きかったS&P500とオルカンでは「毎月投資」と「1月一括投資」の違いが最終的な資産額により大きく影響した。TOPIXはアベノミクス以前のもたつきもあって24年間の上昇率が相対的に小さかったため、投資タイミングの違いによる差はあまりなかったが、それでも一括投資が有利だった。
[図表2]株価指数は長期上昇した

3―8割以上の確率で「1月一括投資」が有利

先ほどの検証は「2000年に投資を始めた場合」に過ぎない。そこで2001年以降の各年に投資し始めた場合ついても検証しておこう。図表3は投資開始年ごとに直近(23年11月末時点)の資産額を計算し、「1月一括投資のほうが資産額が多かった年数」を示している。

投資を開始した全24年(2000年~2023年)のうちTOPIXは約8割、S&P500とオルカンは約9割で「1月一括投資」が「毎月投資」を上回った。「1月一括投資」の圧勝で、いつ投資を始めたとしても、長期的にはつみたて投資よりも一括投資が有利だったことを示している。
[図表3]「1月一括投資」の勝率は8割~9割以上
逆に、「毎月投資」が有利だったのはどのような年だったか。過去24年間のうち3指数すべてで「毎月投資」が有利だったのは2002年と2008年の2回だけだ。この2年間についてS&P500の推移をみると、ほぼ一貫して下落基調だった(図表4、他の2指数も概ね似たような推移)。

そのため「1月一括投資」は投資額の全てが株価下落の影響をフルに受けたのに対して、「毎月投資」では株価下落の影響が相対的に小さく済んだ。また、「毎月投資」のほうが平均購入単価が低く、その後の株価上昇による利益も多くなった。まさにドルコスト平均法が功を奏した形だ。
[図表4]毎月投資が有利だった2002年、2008年のS&P500

4―オルカン vs S&P500論争

次に「オルカンかS&P500か論争」について考えてみよう。両指数とも長期的に上昇したが、図表2のとおり主に上昇したのは検証した24年間の後半だ。そこで検証期間を前半と後半の12年間ずつに分けて、リスクとリターンを比較したのが図表5だ。
[図表5]直近はS&P500のほうがリスク・リターンとも少し高い
前半はリスク・リターンともMSCIACWI(オルカン)が少し高かったが、後半はS&P500のほうがリスク・リターンとも少し高い。

2001年にBRICsという言葉が生まれたことが象徴しているように、2000年代は新興国の経済成長が著しかった。一方、リーマンショック(2008年)のような経済危機が起きると、新興国経済の脆弱さが意識され株価は米国株以上に大きく下落した。こうした背景から新興国を含むMSCI-ACWI(オルカン)のほうがリスク・リターンとも少し高くなったと考えられる。

一方、2012年以降はGAFAM、Tesla、Nvidiaに代表される米ハイテク産業の躍進が米国株を大きく上昇させたほか、2017年のトランプ大統領誕生でアメリカが自国優先主義を強めたこと、さらに中国経済の成長鈍化もS&P500の優位性を高めたのだろう。

今後はどうか。日米欧を中心とする西側経済圏と中国・ロシアを中心とする東側経済圏の分断が懸念される中、高い経済成長が確実視されるインドの出方が不透明であること、24年に大統領選挙が行われる米国の次期大統領が中国はじめ新興国とどう向き合うかなど、国際情勢の先行きは予断を許さない。

とはいえ、世界中から優秀な人材が集まるアメリカのハイテク産業がそう簡単に弱体化するとは考えにくく、高いイノベーション力を背景に新たな成長企業・成長産業が登場すると考えるのが自然だろう。

政治的な対立はエスカレートするかもしれないが、経済や株価の力強さという意味では、直近12年間と同様にリスク・リターンともS&P500がオルカンを少し上回ることが想定される。

5―まとめ

検証結果は「S&P500の1月一括投資」が最も有利だったが、もちろんこれは過去の結果である。将来は不確実性を伴うが、恐らく今後も長期的にはリスク・リターンともS&P500のほうがオルカンよりも少し高くなることが現時点では想定される。もっとも、2024年にリーマンショックのような出来事が起きることを恐れるなら一括投資すべきでないし、経済危機までは想定しなくても米国株の大幅下落リスクを避けたいなら「1月一括投資」が正しいとも限らない。一方、まとまった投資資金がない人にとって「毎月投資」が現実解であることは言うまでもない。

また、今後もS&P500のリターンが長期的にオルカンを上回る保証もない。米国株の“一本足打法”は危険だと考えてオルカンを買えば投資資金の約6割が米国株で残りは世界中に分散投資できるし[図表6]、米国一極集中のリスクを承知でS&P500を買うのもいいだろう。冒頭に“終止符を打つ”と大風呂敷を広げたが、要は好み(リスク選好)の問題だ。

「一括投資か毎月投資か」もリスク選好の話で、どちらも否定されるものではない。一括投資でタイミングリスクを取れば、投資した全額が値上がりすることもあるが、全額が値下がりする恐れもある。毎月投資は全額が値下がりするリスクを避ける代わりに、全額が値上がりするチャンスを放棄する(機会損失リスクを取る)わけだ。
[図表6]オルカンの6割は米国株
いずれにしても資産運用において将来の多くは不確実だ。国際情勢や各国企業の状況が変われば、株価指数の優位性も逆転しうる。短期的な値動きに目を奪われることなく、時代の大きな流れに応じて投資先を決めることが肝要だ。

(2024年02月07日「基礎研マンスリー」)

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金融研究部   主席研究員 チーフ株式ストラテジスト

井出 真吾 (いで しんご)

研究・専門分野
株式市場・株式投資・マクロ経済・資産形成

経歴
  • 【職歴】
     1993年 日本生命保険相互会社入社
     1999年 (株)ニッセイ基礎研究所へ
     2023年より現職

    【加入団体等】
      ・日本証券アナリスト協会認定アナリスト

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