2024年01月29日

23年12月末時点の経過措置適用企業の進捗状況~東証の要請に対応した経過措置適用企業は~

金融研究部 研究員 森下 千鶴

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東京証券取引所は、2022年4月4日の新市場区分への移行に伴い設置した経過措置について、当初は「当面の間」として終了時期を明確にしていなかった。しかし、2023年4月1日に改正規則を施行し、2025年3月以降に順次終了することが決定された。

2024年1月に東証が公表した経過措置適用企業の進捗状況を確認したところ、経過措置適用企業が全体に占める割合は約1割だった。上場維持基準の項目別では、流通株式時価総額や時価総額の基準に未達の企業が多かった。

さらに、経過措置適用企業における「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示状況は、市場全体と比べて相対的に低いことが確認された。

■上場会社数に占める経過措置適用企業の割合は約1割

■ 上場会社数に占める経過措置適用企業の割合は約1割

図表1は、東証の公表資料から市場別の上場会社数と上場維持基準への適合計画を開示した企業数をまとめたものである。直近の2023年12月末時点ではプライム市場上場1,656社のうち111社(全体の6.7%)、3市場合計だと3,837社のうち361社(全体の9.4%)が経過措置の適用を受けている。
図表1 各市場に占める経過措置適用企業の割合

■流通株式時価総額、時価総額の基準未達が多い

■ 流通株式時価総額、時価総額の基準未達が多い

図表2は各市場の上場維持基準、図表3は図表2の上場維持基準に未達の企業を市場別、項目別に集計した結果である。
図表2 新市場区分の上場維持基準
図表3 流通株式時価総額、時価総額未達の企業が多い
プライム市場とスタンダード市場では、流通株式時価総額が未達の企業が最も多かった。流通株式時価総額を大きくするためには、基本的に企業業績の拡大とともに、当期利益を継続的に増加させていくこと等が不可欠である。判定基準日(各社の決算期末)前に、基準に適合見込みと公表した企業がプライムで2社、スタンダードで2社あったが、多くの企業にとって基準達成はそう簡単ではないようだ。
 
グロース市場では時価総額が未達の企業が、25社と最も多かった。時価総額40億円以上という上場維持基準は、上場後10年が経過した企業が対象になる。基準未達の25社について2023年10月~2024年1月25日までの平均時価総額を確認したところ、6社が40億円以上、19社が40億円未満だった。地道に時価総額が増加している企業も見られるものの、ほとんどの企業は計画期間を2024年から2027年に設定しており、残されている期間は決して長くない。
 
図表4は、2023年12月末時点までに企業が開示している最新の「適合計画書」をもとに、プライム・スタンダード・グロース市場の主な上場維持基準に対する進捗状況と計画期間である。縦軸を赤枠で囲った数字は、各項目の上場維持基準である。オレンジ色で囲っているものは、各市場ごとに最も未達企業が多かった上場維持基準である。
図表4 経過措置適用企業の進捗状況 

■経過措置適用企業の「資本コストや株価を意識した経営の…

■ 経過措置適用企業の「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示状況

東京証券取引所は、1月15日に「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示企業一覧を公表した(『「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の開示状況(24年1月)』(2024年1月17日付))。2023年12月末時点の開示状況は、プライム市場全体で49%(開示済み40%、検討中9%)、スタンダード市場全体で19%(開示済み12%、検討中7%)だった。そこで、経過措置適用企業の開示状況について確認したところ、プライム市場で28%(開示済み23%、検討中5%)、スタンダード市場で9%(開示済み4.5%、検討中4.5%)と市場全体の開示状況と比較して低いことが確認された。
図表5 経過措置適用企業の開示状況
もともと、時価総額の小さい企業は大きい企業と比べて開示状況が低い傾向が市場全体であった。そのため、時価総額が小さい経過措置適用企業の開示状況が、全体と比較して低めにでる傾向はあるだろう。ただし、2023年12月末までに経過措置が適用された企業のうち、上場維持基準に適合した企業について同様に開示状況を確認したところ、プライム市場で44%(開示済み38%、検討中6%)、スタンダード市場で23%(開示済み14%、検討中9%)だった。上場維持基準に適合した企業の方が、今回の東証の要請に対応した企業が多かった。
 
今回の開示状況の集計は機械的に行われたものであり、内容の質については考慮されていない。しかし、「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」に関する開示は、自社の経営戦略や成長戦略を投資家に訴える良い機会となるだろう。経過措置を適用している企業の中には、現時点で積極的でないところも多いが、これらの企業こそ、基準達成のためにも積極的に情報を開示した方が良いと思われる。
 
 

(お願い)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   研究員

森下 千鶴 (もりした ちづる)

研究・専門分野
株式市場・資産運用

経歴
  • 【職歴】
     2006年 資産運用会社にトレーダーとして入社
     2015年 ニッセイ基礎研究所入社
     2020年4月より現職

    【加入団体等】
     ・日本証券アナリスト協会検定会員
     ・早稲田大学大学院経営管理研究科修了(MBA、ファイナンス専修)

(2024年01月29日「基礎研レター」)

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