2024年01月22日

中高年女性会社員は4割が未婚~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」より(1)

生活研究部 准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任 坊 美生子

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1――はじめに

「働く女性」の問題と言えば、少子化対策と関連して「仕事と子育ての両立」に注目が集まることが多い。また近年では、2016年に女性活躍推進法が施行されたことなどから、「女性管理職」への注目度も高い。この二つの課題に対しては、次世代育成支援対策推進法や女性活躍推進法などの法令が敷かれていることから、企業の取り組みが厚く、特に大企業は、対策が進んだ企業を対象とした「くるみん」マークや「えるぼし」マークの認証取得にも熱心である。しかし、実際の職場に目を移すと、未婚の女性もいれば、結婚をしても子を持たない女性、子育てがひと段落した女性もいる。企業による「両立支援」は小さい子を持つ若年女性が対象となりやすく、管理職候補の女性は、ほんの一握りであるが、実際には、そのどちらの射程からも微妙に外れた中高年女性は多い。働く女性の問題は、本当は「子育て」と「管理職」だけではない。

一方で、女性自身の老後の生活に目を向けると、シングルが増えている影響などにより、女性の貧困リスクが上昇している1。シングルだと年金水準が低い場合が多く、経済基盤が不安定になりやすい。しかも、女性の老後は長い。老後の貧困を避けるために、また女性自身のウェルビーイングのために、現役世代のうちにしっかり働き、年金水準につながる年収水準を、少しでも上げておかなければならないというのが、筆者の持論である。

そのような思いから、筆者は昨年10月、一般社団法人定年後研究所との共同研究として、全国に住む45歳以上の中高年女性会社員約1,300人を対象に、インターネット調査「中高年女性の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」を実施した2。中高年女性が歩んできたキャリア、採用当時の意識から現在の管理職志向、定年や老後の暮らしへの考え方、年収などの属性まで、広範な項目について調査し、分析を行った。調査結果全体は2月に公表予定であるが、筆者自身が驚くデータが多数、集まったことから、本稿から、そのいくつかを紹介していきたい。本稿で最初に紹介するデータは、中高年女性会社員に占める「未婚」の割合である。
 
1 坊美生子(2023)「増加する単独高齢女性とその暮らし」(基礎研レポート)
2 調査対象は、全国の、従業員500人以上の大企業に正社員として勤める45歳以上で、コース別雇用管理制度がある企業では「一般職」と「総合職」の女性。コース別雇用管理制度がない企業では、「主に基幹的な業務や総合的判断を行う職種」と「主に定型的な業務を行う職種」に就く女性。及び、定年前にこれらのコースや職種に就き、定年後も同じ会社で、継続雇用で働いている女性。有効回答数1,326(「一般職」1,000、「元一般職」39、「総合職」258、「元総合職」29)。

2――中高年女性会社員の未婚割合

2――中高年女性会社員の未婚割合~「中高年女性会社員の管理職志向とキャリア意識等に関する調査~『一般職』に焦点をあてて~」の結果

当調査から、45歳以上の中高年女性の配偶関係を見ると、全体では「配偶者あり」が42.2%、「未婚」が41.6%、「離別」が14.6%、「死別」が1.5%となった(図表1)。「未婚」が約4割に上り、「配偶者あり」とほぼ肩を並べることが分かった。年齢階級別に未婚の割合を見ると、「45~49歳」と「55~59歳」では約4割、「50~54歳」では半数近くに上り、「60歳以上」では約2割と低下した。

また、「未婚」に、「離別」と「死別」を加えた「シングル」の割合を見ると、全体では57.7%に上る。「60歳以上」を除くすべての年齢階級で、「シングル」が「配偶者あり」を上回っている。中高年女性会社員では、シングルが”多数派”ということになる。

ただし、当調査で「総合職」「一般職」などのコース別に配偶関係の割合を見ると、一般職は、総合職に比べて未婚の割合が大きいことが分かった。当調査の回答者は「一般職」の割合が大きいことから、全体の未婚の割合もやや高めに出ている可能性はある。
図表1 中高年女性会社員の配偶関係

3――全国の中高年女性の未婚割合との比較

3――全国の中高年女性の未婚割合との比較

次に、全国の女性の平均未婚割合を見てみたい。「令和2年国勢調査」(総務省統計局)によると、女性の未婚の割合は、45~49歳では19.2%、50~54歳では16.5%、55~59歳では12.2%、60~64歳では8.5%などとなっており、当調査の方が2~3倍の高さである。当調査では未婚の割合が高めに出ている可能性があるとは言え、全国平均とは明らかに大きな差がある。

このギャップの要因を考えると、国勢調査はすべての女性を対象としているのに対し、当調査では、正社員として働く女性や、定年まで正社員として働いた女性を対象としている点が異なる。現在の中高年の世代では、多くの女性が結婚・出産を機に退職していたため、結果的に、会社に残っている女性は「未婚」が多いと考えられる。

最近になってようやく、結婚・出産が多い年代で女性の就業率が下がる「M字カーブ」はほぼ解消されたが、現在の45歳以上の女性は、まだM字カーブの谷が深い時代に、20~30歳代を過ごしてきた。国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査(夫婦調査)」を見ても、第1子出産後に就業継続する割合が、退職する割合を上回ったのは、2010~2014年の期間からである。特に、現在の50歳代以上は、育児休業が法制化された旧育児休業法(現・育児・介護休業法)施行前に出産期を迎えた女性が多いと考えられることから、出産退職が多かっただろう。そして、いったん退職し、35歳を超えると、再就職時にはパートなどの非正規が多い、というのが実情である3

つまり、「未婚が4割」という数字は、日本では、女性が結婚・出産を経て、中高年まで会社で働き続けることが、いかに困難であったかを示している。逆に言えば、未婚である方が、転勤や残業などがある正社員の仕事を続けることに、有利であったとも言える。

この点は、政府統計にも表れている。総務省の「令和4年度就業構造基本調査」のデータから、45~64歳女性について、雇用者全体に占める正規職員と非正規職員等の割合を筆者が算出したところ、「正規職員」の割合は、「未婚」では59.9%であるのに対し、「未婚以外」では35.2%と低く、やはり、中高年女性では、未婚の方が、正社員割合が圧倒的に高い(図表2)。
図表2 配偶関係別にみた雇用者に占める正規・非正規職員などの割合
 
3 寺村絵里子(2021)「女性のライフコースと再就職」『少子化と女性のライフコース』原書房

4――終わりに

4――終わりに

近年、生涯未婚率が上昇していることは知られているが、「女性正社員」に限ってみると、未婚が4割に上るという当調査結果は、筆者にはショッキングなものであった。中には、自ら希望して未婚である女性もいるだろうが、今のような「働き方改革」が始まる前の時代に、転勤や残業のある正社員として働き続けるうちに、希望していた訳ではないが、結果的に結婚の機会を逃したという中高年女性も、少なからずいるだろう。また、出産退職について述べれば、現在の中高年女性が若い頃は「出産したら退職するのが当たり前」という風潮があったため、退職した女性が皆、不本意だったという訳ではないが、家族との関係性の中で職場を去り、思い残すことがあった女性たちも多いのではないだろうか。

「未婚」であること自体が良い、悪いということではないが、女性にとって、「働き続ける」ということが、結婚や出産とのバーターとなってきたということ、ライフステージを上がるためには、どちらかを「選択」しなければならなかったという状況には、胸が痛む。

少なくとも、未婚であれば、多くの場合は家計や老後の生活を支え合う家族がいないため、今後は、老後の経済的なリスクに備える必要がある。そのためには、退職手前の中高年のうちに、女性自身が、職場でより難易度の高い仕事に挑戦して、キャリアアップを目指したり、自ら学び直しをして新たなスキルや資格を取得したりするなど、働けるうちにしっかり働くことが必要になるだろう。現役世代の年収水準が、老後の年金水準につながるからである。

また、企業にとっても、性別や年齢などへのアンコンシャスバイアスによって、配置や教育などの能力開発に制約を設けるのではく、中高年社員に対しても、一人ひとりに成長を促し、それによって、組織全体の生産性向上と競争力強化を目指していくことが必要ではないだろうか。この点は、当調査の重要なテーマであり、今後も随時、様々な分析結果を報告していく予定である。
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生活研究部   准主任研究員・ジェロントロジー推進室兼任

坊 美生子 (ぼう みおこ)

研究・専門分野
中高年女性の雇用と暮らし、高齢者の移動サービス、ジェロントロジー

経歴
  • 【職歴】
     2002年 読売新聞大阪本社入社
     2017年 ニッセイ基礎研究所入社

    【委員活動】
     2023年度~ 「次世代自動車産業研究会」幹事
     2023年度  日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員

(2024年01月22日「基礎研レター」)

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