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2024年度の年金額(見通し)は、将来世代のために実質目減り-年金額改定の仕組み・意義・注目点
基礎研REPORT(冊子版)1月号[vol.322]

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫
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1―年金額改定の仕組みと意義
本来の改定率は、物価の変動率と賃金の変動率の組合せで決まる[図表2]。
物価の変動を早く年金額に反映するため、物価変動率には前年(1~12月)平均の消費者物価指数(総合)の上昇率が使われる。賃金変動率には、直近の物価変動を反映しつつ急変を避けるため、2~4年度前の実質賃金変動率を平均した値と前年の物価上昇率の合計が使われる。
そして、賃金変動率が物価変動率を上回る場合は、67歳以下は賃金変動率、68歳以上は物価変動率が本来の改定率となる。これは、受給開始直前の64歳までの世間の賃金変動を年金額に反映しつつ、大半の受給者の年金額の伸びを抑えて年金財政を健全化するためである。
他方、賃金変動率が物価変動率を下回る場合は、いずれの年齢でも賃金変動率が本来の改定率となる。これは、現役の賃金の伸びが物価の伸びを下回る状況で、年金受給者も現役世代と同じ痛みを分かち合うためである。
2―2024年度の見通しと注目点
本稿執筆時点(2023年11月末)では、2024年度の年金額の改定率を+2.7%と見込んでいる。物価変動率が+3.2%となる一方で賃金変動率は+3.1%にとどまるため、本来の改定率は年齢を問わず+3.1%となる。マクロ経済スライドは、高齢就労の進展で加入者数に対する少子化の影響が緩和され、-0.4%となる。この結果、年金額は本来の改定率からマクロ経済スライドを差し引いた+2.7%で増額改定される。しかし、この改定率は物価や賃金の伸びに基づく本来の改定率(+3.1%)を下回るため、年金額の実質的な価値は前年度より目減りする。
インフレが続く中、現役世代の賃金の伸びは物価の伸びに追いついていない。他方で、年金額は賃金の伸びからマクロ経済スライドを差し引いた値で改定されるため、高齢世代の収入は現役世代より実質的な目減りが大きくなる。
現役世代は、高齢世代が物価や賃金の伸びを下回る年金の伸びを受け入れることで将来の給付水準の低下が抑えられることに、思いをはせる必要があるだろう。
一方で高齢世代は、これまでの物価や賃金の伸びが低い状況では年金財政の健全化に必要な調整が制限され、将来の給付水準のさらなる低下につながっていたことを理解する必要があるだろう。
両者の相互理解の進展を期待したい。
(2024年01月11日「基礎研マンスリー」)
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03-3512-1859
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
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