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EUにおけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向2023-EU理事会と欧州議会がソルベンシーIIのレビューとIRRDについて暫定合意
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3―Insurance Europeの反応
8 https://www.insuranceeurope.eu/news/3035/eu-solvency-ii-deal-could-help-unlock-greater-investment-in-europe
https://www.insuranceeurope.eu/news/3036/industry-remains-sceptical-on-need-for-eu-insurance-resolution-law
Insurance Europeは、ソルベンシーIIの見直しに関して、基本的には今回の合意の内容、特に、資本、ボラティリティ、比例性の分野での改善を歓迎している。この変更により、「保険部門は顧客へのサービスを向上させ、グリーン移行とデジタル移行をサポートする欧州経済へのさらなる投資を可能にすることができる。」と述べている。また、「これらの変更により、顧客が望んで必要とする長期商品、保証、投資を提供する際の不必要な規制障壁を軽減できる可能性がある。」と述べている。
一方で、細部については、今後の「レベル2」の技術的協議に委ねられているため「悪魔は細部に宿る。潜在的な利益を実現するには、昨日合意された政治的野望が引き続く技術的詳細に反映されなければならない」とも付け加えている。
さらに、比例原則をより適切に組み込む取り組みを歓迎し、これにより、小規模で複雑でない保険会社の過剰な負担が軽減されるはず、としているが、「同時に業界は、報告負担を25%削減するという欧州委員会の広範な公約に反して、大半の企業にとって見直しの全体的な影響が業務負担と報告負担の増加となることを遺憾に思っている。」と述べている。
EUソルベンシーII合意は欧州へのより大きな投資を可能にする可能性がある
2023 年 12 月 14 日
欧州の保険業界は、昨日合意されたソルベンシーII指令に関するEUの見直しの最終決定を歓迎している。Insurance Europeは特に、資本、ボラティリティ、比例性の分野でEUの共同立法者である欧州理事会と議会が行った改善を歓迎した。これらの変更は、保険会社が顧客へのサービスを向上させ、グリーン及びデジタルへの移行のためのより多くの投資を解き放ち、EUの資本市場同盟の完成に向けた前進を支援できる、とInsurance Europeは主張している。
2019年2月に始まったこの見直しは、EUの保険及び再保険業界が健全性を重視して規制される方法を調整するものである。Insurance Europeの事務局長のMichaela Koller氏は次のようにコメントしている。「欧州の保険会社は設立当初から、消費者、企業、そして欧州のために機能する規制の枠組みを構築するという目標を支持してきた。」この変更により、この部門は顧客へのサービスを向上させ、グリーン移行とデジタル移行をサポートする欧州経済へのさらなる投資を可能にすることができる。ソルベンシーIIは、顧客保護におけるゴールドスタンダードであり、今後もそうであり続ける。
Insurance Europeは、ソルベンシーIIの既存の測定上の欠陥の一部に対処し、より適切な資本要件と低いボラティリティをもたらす変更を歓迎する。Insurance Europeの副事務局長であるOlav Jones氏は、「これらの変更により、顧客が望んで必要とする長期商品、保証、投資を提供する際の不必要な規制障壁を軽減できる可能性がある。」と述べた。彼らは、業界が市場の不安定な時期に安定化の力として機能する主要な長期投資家であり続けるのに役立つ。」
それにもかかわらず、来年スタートする次の「レベル2」の技術的議論を指摘して、Olav Jones氏は、来年始まる技術的協議の段階で、「悪魔は細部に宿る。潜在的な利益を実現するには、昨日合意された政治的野望が引き続く技術的詳細に反映されなければならない」と付け加えた。
保険業界は、リスクと証拠に基づいた持続可能性の要素をさらに盛り込むことを支持しており、共同立法者の提案をより詳細に検討することを楽しみにしている。最後に、Insurance Europeは、比例 原則をより適切に組み込む取り組みを歓迎する。これにより、小規模で複雑でない保険会社の過剰な負担が軽減されるはずである。同時に業界は、報告負担を25%削減するという欧州委員会の広範な公約に反して、大半の企業にとって見直しの全体的な影響が業務負担と報告負担の増加となることを遺憾に思っている。
Insurance Europeは、今回の暫定合意によるIRRDの改善については歓迎していると述べたものの、一方で「既存の規制と実施されている保護措置を考慮すると、このような広範な規制の必要性を引き続き疑問視している。」と主張した。さらに「技術交渉の次の段階で企業に追加されるコストと負担を評価する必要がある。」と述べた。
Insurance Europeは以前から、IRRDが国際基準を超えず、業界に不必要な負担を与えないことを保証するよう求めていた。
業界は依然としてEU保険破綻処理法の必要性に懐疑的
2023 年 12 月 14 日
欧州の保険業界は、EUの共同立法者である欧州理事会と議会が本日合意した保険再建・破綻処理指令(IRRD)の改善を歓迎している。しかし、Insurance Europeは、既存の規制と実施されている保護措置を考慮すると、このような広範な規制の必要性を引き続き疑問視している。
EUの執行部である欧州委員会によって提案されたIRRDは、保険業界の規制をさらに強化し、保険会社が破綻した場合に当局に追加の権限を与えることを目的としている。IRRDは多くの企業にとって運営上の負担が大幅に増加し、全てのEU加盟国に破綻処理機関を設立することが求められる。また、ソルベンシーIIの広範な要件を全て満たしている場合でも、これらの当局と既存の監督者に企業の運営に介入する新たな権限が与えられる。
Insurance Europeの健全性規制及び国際情勢と再保険のヘッドであるAngus Scorgie氏は、「保険業界は、非常に高いレベルの消費者保護を確保するという指令の目的を共有している。それにもかかわらず、ソルベンシーIIの健全性制度によって保険契約者が十分に保護され、監督当局が保険部門によってもたらされる限られた金融安定性リスクに対処する権限を既に持っているため、私たちはこの指令の付加価値には依然として懐疑的である。技術交渉の次の段階で企業に追加されるコストと負担を評価する必要がある。」と述べた。
Insurance Europeは以前、IRRDが国際基準を超えず、業界に不必要な負担を与えないことを保証するよう求めていた。
4―まとめ
今回のソルベンシーIIのレビューに関する暫定合意は、ソルベンシーIIの「レベル1」、即ち指令自体に関係しているもので、詳細については「レベル2」の委任規則で規定されていくことになる。リスクマージンに加えて、業界の関心の高い株式リスクチャージ、リスクフリーレート曲線の修正等については、その詳細がわからないと提案の影響を適切に評価することができない要素もある。これらは正にInsurance Europeが述べている技術的詳細に関わってくる部分でもある。ところが、法的なプロセスの観点からは、基本的にはレベル1の内容が合意されないとレベル2の検討が行えない。今回の暫定合意が最終承認されれば、今後ECにおいて「レベル2」の検討が進められていくことになる。
EUのソルベンシーIIのレビューを巡る動きについては、前回の基礎研レポート「英国におけるソルベンシーIIのレビューを巡る動向(その7)-2023年に入ってからの動き(財務省とPRAが具体的な提案を公開)-」(2023.12.6)で報告した英国におけるソルベンシーIIレビューの動き等と併せて、関係者にとって極めて関心の高い事項となっていることから、その動向を引き続き注視していくこととしたい。
(2023年12月27日「保険・年金フォーカス」)
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