2023年12月25日

貸出・マネタリー統計(23年11月)~銀行貸出は堅調維持も不動産への依存が大、貸出金利はじわりと上昇

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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1.貸出動向:堅調な伸びが継続、貸出金利はじわりと上昇

(貸出残高)                                                                  
12月8日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、11月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比3.18%と前月(同3.02%)からやや上昇した(図表1)。やや長い目で見た場合、伸び率は2023年5月(3.74%)以降鈍化傾向にあるものの、伸び率は11カ月連続で3%を超えており、コロナ禍前(19年後半~20年序盤)の2%前後を明確に上回っている。経済活動再開に伴う運転・設備資金需要のほか、原材料価格の高止まりに伴う資金需要やM&A向け、不動産向けの資金需要などが複合的に寄与する形で、貸出の堅調な伸びが続いていると考えられる。

業態別では、都銀の伸びが前年比3.12%(前月は2.92%)、地銀(第2地銀を含む)の伸びが同3.23%(前月は3.10%)となった(図表2)。都銀、地銀ともに今年春をピークに増勢がやや鈍化しているものの、堅調を維持している。
(図表1) 銀行貸出残高の増減率/(図表2) 業態別の貸出残高増減率/(図表3) ドル円レートの前年比(月次平均)/(図表4)貸出先別貸出金
(図表5)貸出伸び率の業種別寄与度 (業種別貸出動向)
なお、9月末時点の貸出の伸び(前年比3.77%)について主な業種別の寄与度(四半期・末残ベース)を確認すると、不動産業向けが1.10%(6月末時点では1.05%)、大半を住宅ローンが占める個人向けが0.84%(6月末時点は0.79%)とそれぞれ伸びを拡大しており、広義の不動産領域と言える両者で全体の伸びの半分以上を占める状況が続いている(図表5)。特に不動産業向けの寄与度は9四半期連続で拡大しており、全体の牽引役となっている。

一方、コロナ禍時に資金繰り悪化を受けて急増した対面サービス業向けは小幅なマイナスが続いており、ゼロゼロ融資など危機時に膨らんだ借入の返済が緩やかに進んでいることがうかがわれる。
(図表6)国内銀行の新規貸出平均金利 (貸出金利)
なお、10月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.4%(前月は0.58%)、長期(1年以上)が0.953%(前月は1.032%)とともに前月からやや低下した。

ただし、当統計は月々の振れが大きいため、移動平均でトレンドを見ると(図表6)、昨年末から直近にかけて、長期貸出金利が伸び悩んでいる。この間、日銀による長期金利の許容上限が段階的に引き上げられ、国債利回りが上昇したことを受けて、貸出金利への上昇圧力がじわりと高まってきているとみられる。

2.マネタリーベース:紙幣発行高の伸びが前年割れに肉薄

12月4日に発表された11月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通する紙幣・貨幣)を示すマネタリーベース(平残)の伸び率は前年比8.9%となり、前月(同9.0%)からほぼ横ばいとなった(図表7)。伸び率は8月にプラスに転じて以降、4カ月連続でプラスを維持しており、とりわけ10月以降は1割近い伸び率を示している。

そして、伸び率拡大の主因はマネタリーベースの約8割を占める日銀当座預金の伸び率(11.1%)が拡大したことである。昨年以降、マネタリーベースの減少要因となっていたコロナオペの回収が6月に終了した影響が大きい(図表8~9)。また、直近にかけて、日銀の長期国債買入れ額がコロナ前をやや上回って推移してきたことも伸び率拡大に寄与した。
なお、季節性を除外した季節調整済み系列(平残)で見ても、11月のマネタリーベースは前月比2.3兆円増と4カ月連続のプラスとなっている(図表10)。
 
その他の内訳では、貨幣流通高の伸びが前年比▲2.2%(前月は▲2.4%)と22カ月連続の前年割れに、日銀券発行高の伸び率も同0.1%(前月は0.3%)と低下が続き、マイナス圏が目前に迫っている(図表6)。キャッシュレス化の影響が顕在化しているものと考えられる。
(図表7) マネタリーベースと内訳(平残)/(図表8)日銀の国債買入れ額とコロナオペ(月次フロー)/(図表9)マネタリーベース残高の伸び率/(図表10)マネタリーベース残高と前月比の推移

3.マネーストック:市中通貨量の伸びは鈍化基調に、投信は高い伸びを維持

12月11日に発表された11月分のマネーストック統計によると、金融部門から市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比2.26%(前月は2.40%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同1.72%(前月は1.84%)と、ともにやや低下した(図表11)。

M3の内訳では、最大の項目である預金通貨(普通預金など・前月4.6%→当月4.3%)と現金通貨(前月0.4%→当月0.2%)の伸び率が低下したほか、準通貨(定期預金など・前月▲1.4%→当月▲1.7%)のマイナス幅が拡大し、全体の伸び率低下に働いている(図表12・13)。
(図表11) M2、M3、広義流動性の伸び率/(図表12) 現金・預金の伸び率
通貨量は実態として緩やかな増勢が続いているが、既述の通り、キャッシュレス化の波を受ける現金通貨の伸びが鈍化しているほか、銀行貸出の伸び率低下が預金残高の伸び率低下を通じて通貨量の伸び率抑制に働いているとみられる。
(図表13)投信・金銭の信託・準通貨の伸び率 また、広義流動性(M3に投信や外債といったリスク性資産等を加算した概念)の伸び率は前年比2.09%(前月は2.10%)とほぼ横ばいとなった(図表11)。

内訳では、既述の通り、M3の伸びがやや低下したほか、規模の大きい金銭の信託(前月2.7%→当月2.5%)の伸びも低下し、全体の伸びの抑制要因となった。一方、投資信託(私募やREITなども含む元本ベース、前月5.4%→当月7.3%)、外債(前月2.6%→当月6.3%)の伸び率拡大が下支え要因となった(図表13)。

やや長い目で見た場合には、広義流動性の伸びもM2やM3同様、緩やかに低下してきている。
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2023年12月25日「経済・金融フラッシュ」)

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