2023年12月21日

首都圏中古マンション市場の動向(2023年11月)~お手頃価格の中古マンションを見つけるのは困難に

金融研究部 准主任研究員 渡邊 布味子

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首都圏中古マンションの価格は上昇が続き、成約件数は横ばいに

東日本不動産流通機構(東日本レインズ)によると、2023年11月の中古マンションの成約価格1は4,704万円(前年同月比+9.9%)、成約件数1は2,367戸(前年同月比+0.9%)となった2

月次値は騰落するため直近12ヶ月の移動平均に変換すると、2023年11月の成約価格は4,539万円(前年同月比+6.6%)と上昇傾向が続いている。成約件数は2,946戸(前年同月比▲0.4%)と減少しているが、2022年半ば以降は横ばい傾向である(図表1)。
図表1 首都圏中古マンションの成約価格と成約件数(月次、12ヶ月移動平均)
 
1 成約は「当月に売買が成立した物件」、新規登録は「当月に登録された物件」、在庫は「当月末に在庫となっている物件」
2 渡邊布味子『首都圏中古マンション市場の動向(2023年8月)~東京都心部と、余暇も楽しめる郊外エリアが強く上昇』(ニッセイ基礎研究所、研究員の眼、2023年10月06日)

在庫は増加傾向、成約率は低下傾向

在庫は増加傾向、成約率は低下傾向

中古マンションの価格が上昇していることから、保有する中古マンションの販売を考える人が増えているが、成約件数は横ばいであることから成約率は低下し、在庫となる中古マンションが増加している。

2023年11月の中古マンションの在庫件数は4万6,993戸(前年同月比+14.2%)と過去最高水準で、当月の中古マンション成約件数の19.9倍になった(図表2)。

また、2023年11月の売り出したマンションの成約率3は、首都圏で17.1%(前年同月から▲1.0%、2019年同月から▲1.4%)、成約率の12ヶ月移動平均は18.6%4(前年同月から▲2.8%、2019年同月から+0.2%)と2021年3月をピークに低下傾向で、2019年ごろの水準に戻っている(図表3)。
図表2 首都圏住宅の在庫件数 (種類別)/図表3 首都圏マンション 成約率(月次、12ヶ月移動平均)
 
3 マンションを売却する場合、新規登録物件から売れる可能性のほうが高く、売り出しから売買契約までは最短でも2カ月程度の期間が必要であるため、成約件数を分子、成約2カ月前の新規登録件数を分母とした。
4 なお対在庫件数の成約率は6.3%、対在庫件数の成約率の12ヶ月移動平均は6.7%である。

売り出されるマンションの築年が古くなっている

売り出されるマンションの築年が古くなっている

新築マンションは価格が高騰し供給も制限されている5ことから、もともとは新築マンションを買おうと考えていた人がお手ごろ価格に惹かれて中古マンションを購入するとすれば、成約件数はもっと増えてもよいはずである。にもかかわらず成約件数が横ばいで在庫が増え続けている理由の一つに、市場に供給される中古マンションの築年が以前よりも古くなっていることがあげられる。

首都圏で2023年11月に新規登録された中古マンションの平均築年は、築30.0年(前年同月から+1.4年、2019年同月から+3.6年(年間+10.8カ月))となった。また、同月末に在庫であった中古マンションの平均築年は29.0年(前年同月から+1.2年、2019年同月から+4.1年(年間+12.4カ月))となった。

一方で、同月に成約した中古マンションの平均築年は、築24.2年(前年同月から+0.2年、2019年同月から+2.0年(年間+6.0カ月))と相対的に築年が浅く、毎年の築年の延びも小さい(図表4)。
 
つまり、中古マンションを買いたい人は新しく売り出された中古マンションのうち築年が浅いマンションを購入し、築年が古いマンションは在庫として売れ残っていることになる。そもそも新築マンションの販売が8割を占めていた国内住宅市場においては、築年が古いマンションの供給が増えてもそれを買いたい人は増えにくいのだろう。また、中古マンションの購入を検討する際にはまずインターネットで検索するが、検索サイトでは、築年数を5年毎または10年毎の区切りとして築浅のマンションから検索されることが多く、そもそも築年が古いマンションは購入候補として検討されにくい。今後は相続財産の処分などで、より築年の古いマンションが売り出される場合がさらに増加すると想定される。成約マンションと新規登録マンションの築年の差はより拡大していく可能性が高い。
図表4 首都圏中古マンションの築年(成約、新規登録、在庫)

お手頃価格のマンションが市場から消えている

2023年7-9月の首都圏中古マンションの成約件数全体に占める各価格帯別の割合は、1,000万円以下が8.4%(前年同期比▲0.8%、2019年同期比▲5.2%)、1,000万円超2,000万円以下が12.9%(前年同期比▲0.9%、2019年同期比▲4.1%)、2,000万円超3,000万円以下が14.3%(前年同期比▲1.4%、2019年同期比▲4.4%)、3,000万円超4,000万円以下が15.6%(前年同期比▲0.6%、2019年同期比▲3.0%)となった。

一方、5,000万円超7,000万円以下が18.4%(前年同期比+1.1%、2019年同期比+5.6%)、7,000万円超1億円未満が11.4%(前年同期比+1.8%、2019年同期比+6.5%)、1億円超が5.8%(前年同期比+1.3%、2019年同期比+3.9%)となり、高価格帯の中古マンションの割合が増加している(図表5)。

また、在庫件数全体に占める各価格帯別の割合は、1,000万円以下のマンションが10.6%(前年同期比▲0.1%、2019年同期比▲4.0%)、1,000万円超2,000万円以下のマンションが18.0%(前年同期比▲0.6%、2019年同期比▲5.6%)、2,000万円超3,000万円以下のマンションが21.4%(前年同期比+0.8%、2019年同期比▲1.1%)、と割合が低下傾向である一方、3,000万円超のマンションは2019年同期比で増加した(図表6)。
図表5 首都圏中古マンション成約件数(価格帯別の割合)/図表6 首都圏中古マンション在庫件数(価格帯別の割合)
つまり、価格帯別では以下のような傾向がある。

3,000万円以下のマンションは成約件数も在庫件数も減少傾向で、この価格帯の売り出し物件を見つけるのは今後困難となるだろう。

3,000万円超5,000万円以下のマンションは2019年比で成約件数が減少する一方で、在庫件数は増加している。全体の中では割安の価格帯であるものの、立地、築年、設備等などのある中古マンションの条件に対し、購入を検討している人がお手頃あるいは妥当な価格であると判断する中古マンションが減少していると考える。

5,000万円超のマンションは、成約件数も在庫件数も増加している。特に7,000万円超のマンションの成約件数が伸びており、首都圏中古マンションの平均成約価格を引き上げている。この価格帯では、キッチン・バス・トイレなども新しい設備に更新するなどマンションを購入したい人の希望に合致するようにリフォームを施してから販売することが可能であり、従来は新築マンションに比べて売れ行きの悪かった中古マンションの流動化に貢献していると考える。

なお、直近の在庫の増加は4,000万円超7,000万円以下のマンションが多い。この価格帯では、中間層のマンション購入予算を販売価格が上回ってきている可能性や、今が最も高値で売り時だと考えているマンション所有者が増加している可能性がある。

中古マンションを購入したい人

中古マンションを購入したい人は求める条件をよく整理して決断の準備を

首都圏中古マンションの平均的な価格が上昇傾向であり、築年の古い中古マンションであっても場所や設備が良い競争力のあるマンションについては、多少価格が高くても以前よりも売りやすくなっており、長期的な価値の維持も期待できる。ただし、全体的には現在の中古マンションの成約件数は横ばいで、在庫件数は増加傾向にある。競争力が相対的に劣るマンションが築25年を超える場合、売却には時間を要する可能性が高くなるだろう。

また、4,000万円超7,000万円以下の中古マンションは2019年同月比の在庫の増加幅が相対的に大きく、一部の売れる物件と多数の売れない物件の2極化が進んでいると考えられる。保有するマンションを将来売却する予定があるのであれば、マンション購入希望者層が求める条件を満たすよう、良好な状態を保つ必要があると考える。
 
一方、今後も新築マンションの供給は減り続け、お手頃価格の中古マンションについても供給が不足すると予想される。これから中古マンションを購入する人は、築年数や設備や場所などの条件について、これまでより多くの部分について妥協を求められるかもしれない。ただでさえ中古マンションの購入の際には、新築マンション購入の際よりも注意しなければならない点が多い。しかし、お手頃価格で競争力のある中古マンションはなかなか見つけられず、見つけた場合もそのマンションを買いたい人が複数いた場合には一番早く買うと宣言した人が購入できることとなる。中古マンションを買いたい人は、探し始める前に妥協できる部分と妥協したくない部分を事前によく検討しておき、実際に中古マンションを購入するかどうかの判断をする場面では、設備不良や近隣の環境等を十分に確認しつつも、出来るだけ早く決断できるよう準備しておく必要がある。但し、決断が付かない場合は、あまり慌てて決断せず、市況の好転を気長に待つという選択肢もあると思う。
 
 

(ご注意)本誌記載のデータは各種の情報源から入手・加工したものであり、その正確性と安全性を保証するものではありません。また、本誌は情報提供が目的であり、記載の意見や予測は、いかなる契約の締結や解約を勧誘するものではありません。
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金融研究部   准主任研究員

渡邊 布味子 (わたなべ ふみこ)

研究・専門分野
不動産市場、不動産投資

経歴
  • 【職歴】
     2000年 東海銀行(現三菱UFJ銀行)入行
     2006年 総合不動産会社に入社
     2018年5月より現職
    ・不動産鑑定士
    ・宅地建物取引士
    ・不動産証券化協会認定マスター
    ・日本証券アナリスト協会検定会員

    ・2022年、2023年 兵庫県都市計画審議会専門委員

(2023年12月21日「不動産投資レポート」)

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